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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年03月25日

【ベンチャー失敗の教訓(第49回)】大幅な債務超過なのに減資もDES(デット・エクイティ・スワップ)もできない


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 X社、Y社、Z社の3社とも慢性的な赤字体質で、資金繰りに苦しんでいた。毎月末になると、経理担当者が「今月は資金が○百万円足りません」と各社の社長に報告し、比較的潤沢な個人資産を持っていたA社長とC社長が、そのたびに3社に貸付をを行う、ということを繰り返していた。決算をすると毎期のように債務超過になるため、A社長とC社長の資金でさらに増資を行い、債務超過を解消しようとしていた。だが、債務超過は完全には解消されなかった。

 そんな状況だったので、3社とも会社規模の割には、資本金と役員からの借入金が異常に膨れ上がっていた。各社の資本金は、X社が約7,000万円、Y社が約5,000万円、Z社が約9,900万円であった。3社とも大規模な設備投資を必要としない労働集約的な事業を行っており、かつ3社の売上高合計が約2~3億円、社員数合計が最大で約50人であったことを考えると、あまりにも不自然な金額だった。3社は毎期の累積赤字で資本金が食いつぶされており、さらに足が出ていたのが実態だ。これに加えて、A社長とC社長による個人的な貸付金があり、経理担当者ではない私には正確な額は解らないが、噂では億単位に上っていたと言われている。

 Z社の資本金が約9,900万円という中途半端な金額だったのには理由がある。資本金が1億円未満の企業は、税務署の管轄下に置かれるのに対し、資本金が1億円以上になると、原則として国税局の管轄となり、チェックが厳しくなる。また、資本金が1億円未満の企業は、法人税の計算に際して軽減税率が適用される、600万円までの交際費は90%損金算入できる、留保金の課税対象外となる、地方税(事業税)の計算時に外形標準課税の対象外となるなど、様々なメリットを受けられる。そのため、Z社はどんなに増資を行っても、資本金は1億円未満に抑えていた。

 増資を繰り返してなお債務超過に陥っている企業に対する処方箋としては、(1)債務免除、(2)減資、(3)DES(デット・エクイティ・スワップ)が考えられる。(1)の債務免除については、A社長とC社長が何度か債権放棄を行うことで実現した。ところが、債務免除を行うと債務免除益が生じ、思わぬ税金が発生する可能性があるため、あまり大胆な債務免除に踏み切ることができなかった。毎年の決算時期に、2人の社長からの債務を数千万円ずつ免除するのが限度であった。

 貸借対照表の見栄えをよくするには、(2)減資が最も効果的な方法であった。(1)債務免除と後述の(3)DESでは、累積赤字が利益剰余金の部分に残ってしまう。これに対して減資は、資本金で累積赤字を相殺するため、B/Sが非常にきれいになる。3社は債務超過に陥っていたから、100%減資を行って、再度新株発行(増資)を行う、というのが筋であった。

 しかし、ドラスティックな方法である上に手続きも煩雑であることから、減資が検討されることはなかった。それ以上に、3人の社長がB/Sの見栄えに関心がなかったという事情もある。B/Sをきれいにするのは、主に金融機関からの借入を容易にするためだ。だが、A社長とC社長が潤沢な資金を持っており、金融機関に頼る必要がなかった。とはいえ、取引先からの信用を高めるためにも、減資を行ってB/Sを整理することには意味があったと私は思う。取引先が帝国データバンクなどで3社の財務状況を調べたら、その惨状を見て取引を停止したかもしれない。

 (3)DESとは、企業のDebt(=債務)とEquity(=資本)をSwap(=交換)することで、債務を株式化することを意味する。原則として株主総会の特別決議が必要とされる減資に比べると、DESの方が手続きは簡単である。かつては、債権の額面が500万円以下など一定の場合を除き、検査役の調査または弁護士・公認会計士・税理士のいずれかにより、財産額が相当であることを証明してもらう必要があった。ところが、会社法の施行によって、500万円を超える金銭債権であっても、総勘定元帳など当該金銭債権の金額・債権者名が記載してある会計帳簿を登記申請書に添付するだけでよくなり、検査役や弁護士などの証明が不要となった(会社法207条9項5号)。

 とはいえ、DESも結局は行われなかった。A社長とC社長は、貸付金のままならば、将来的にそれを回収できる可能性があるものの、株式にしてしまうと配当収入のみになってしまい、かつその配当収入に税金がかかるため、DESを嫌ったそうである。また、DESを実施すると、Z社の資本金は確実に1億円以上になる点も、DESを回避した理由であっただろう。ただ、3社の業績が将来的に好転するかどうかは全く不透明であったし、貸付金に対する利息収入にも配当収入と同じように税金がかかるのだから、2人の社長の理由はやや不可解であった。

 ただし、例外的にY社だけはDESを行って債務超過を一時的に解消したことがある。人材紹介業(職業紹介事業)を営んでいるY社は、債務超過のままだと職業紹介事業許可の更新ができなくなるためである。職業紹介事業の許可条件として、(A)資産(繰延資産および営業権を除く)の総額から負債の総額を控除した額が、500万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数を乗じて得た額以上であること、(B)事業資金として自己名義の現金・預貯金の額が、150万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数から1を減じた数に60万円を乗じた額を加えて得た額以上となること、という2つが定められている。

 ちなみに、C社長は自分が3社に対して合計でいくら貸しており、毎年の利息収入がどれくらいあるのか全く把握していなかったそうだ。自分のお金のことも解っていないのだから、会社のお金のことがルーズになるのは仕方がなかったのかもしれない。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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