プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年04月09日

『速効!「営業」学(『週刊ダイヤモンド』2014年3月22日号)』―コンサルティング営業とはつまり御用聞き営業である


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 (昨日の続き)

 本号ではそれほど色濃く打ち出されていなかったが、昨今は「今までの営業ではダメだ、これからは『コンサルティング営業』が必要だ」、「今までの営業はお客様の『顕在ニーズ』を把握すれば十分だった。だが、コンサルティング営業では、お客様の『潜在ニーズ』を掘り起こさなければならない」とよく言われる(社会人経験が10年ほどしかない私は「昨今」のことだと思っていたが、諸先輩方の話を聞いていると、実は30年ぐらい前からずっと同じことが叫ばれているみたいだ)。私も前職の研修会社で、「コンサルティング営業研修」のコンテンツ開発や販売などに携わった。

 ところが、興味深いことに、「コンサルティング営業も確かに重要だけれども、最近は普通の営業スキルが劣化しているんですよ」という現場の声を多くの顧客企業から聞いた。どういうことなのか詳しくお話を伺ってみると、営業担当者として基本的な所作ができていないのだという。私が担当していた顧客企業はBtoBビジネスを展開しているところが多かったことから、BtoBの営業の話が中心になってしまい恐縮だが、例えば、

 ・訪問前に顧客企業のHPを見ておらず、会社概要を理解していない。
 ・(例えばQCDの観点などから)顧客のニーズを網羅的に把握するために商談で何を聞く必要があるのか、事前に質問リストを用意していない。
 ・商談中にメモを取っておらず、顧客のニーズを聞き漏らしている。
 ・商談終了時に、自社で検討すべき技術面や納期面などの「課題」を明確にし、その課題に対する回答を提示する次の商談日程を設定していない(商談を継続する努力を怠っている)。
 ・商談後に議事録を作成せず、顧客のニーズを整理して社内で共有していない。
 ・ニーズについて相手が十分な情報を持っていない場合、そこで諦めてしまう。適切な情報を持っている人を紹介してもらおうとしない。顧客企業内の人脈を広げる努力をしていない。
 ・顧客企業内の利害関係者のパワーバランスに無頓着で、購買意思決定者の真のニーズをとらえ損ねている。
 ・自社の製品・サービスについて不勉強で、顧客に対して適切に説明できない。そのため、本当はできることをできませんと断ったり、できもしないことをできますと引き受けたりしてしまう。

といった具合だ。これでは顧客の顕在ニーズすら見逃してしまう。だから、潜在ニーズを掘り起こすコンサルティング営業よりも、まずは顕在ニーズをもれなく把握する普通の営業スタイルの方を強化すべきだ、という話になるのである。確かに、これはもっともな意見であった。

 「コンサルティング営業研修」は、経営分析の技術を用いて顧客企業の経営課題をあぶり出し、そこから製品・サービスに対する潜在ニーズを発見する手法の習得を目指していた。しかし、現場はそんな高度なことを求めていなかった。前職の会社は、コンサルティング営業に対する顧客企業の潜在ニーズを見越してこの研修を開発したわけだが、顧客企業の顕在ニーズはもっと別のところにあったという、何ともパラドキシカルな話である。

 コンサルティング営業についてもう1つつけ加えるならば、コンサルティング営業とは結局のところ御用聞き営業である、ということだ。コンサルティング営業を推進する人たちは、従来の営業手法を御用聞き営業と言って否定したがる。御用聞き営業は、顧客の言うことにハイ、ハイと従っているだけの受動的な営業だというわけだ。

 ここで、コンサルティング営業という概念が登場した経緯を整理してみたい。通常、営業担当者は顧客のニーズが顕在化した段階で顧客にアプローチを行い、自社の製品・サービスを提案する。ところが、市場が成熟している現代では、製品・サービスの機能で競合他社と差別化することが難しい。複数の企業から似たような提案を受けた顧客は、価格が安い企業を選ぶようになる。こうなると、激しい価格競争に巻き込まれて利益が出なくなる。

 そこで、顧客のニーズが顕在化するよりもずっと前の段階から顧客にアプローチしようという動きが出てきた。これがコンサルティング営業である。顧客の意思決定の上流段階から積極的に顧客に働きかけ、潜在ニーズを顕在化させる。顧客は、「この会社は私のことをよく理解してくれている」と信頼を寄せるようになり、その信頼感が競合他社を排除するのに役立つ。そうすれば、競合他社との価格競争に巻き込まれることがなくなり、高い利益率を確保できる。コンサルティング営業が描くシナリオは、以上のようなものである。

 だが、顧客のニーズが顕在化する前から顧客を訪問するというのは、「用もないのに訪問する」ことに等しい。顧客に会うには、何度も足を運ばなければならないだろう。そして、「自分が面会するのに値する人」だと顧客に印象づけなければならない。顧客にとって「面会するのに値する人」とは、「自分にとって有益な情報を提供してくれる人」に他ならない。その有益な情報とは、新製品・サービスの情報であったり、他社導入事例であったり、他の顧客の声であったりする。

 これらの情報を一度に提供することはできない。なぜなら、信頼関係ができていない初期段階では、顧客はそれほど多くの時間を面会に割いてくれないからだ。それでも辛抱強く顧客のもとに通い、さりげなく情報を提供し続ける。そうすると、相手は次第に「この人なら信頼できそうだ」と思ってくれるようになる。この段階まで来て初めて、顧客は胸襟を開く。「実はこういうことで困っているんだ、こういうものがほしいんだ」と、ニーズを口に出すようになる。それでも、そのニーズはまだ曖昧なままである。なぜなら、潜在ニーズの段階でアプローチしているからだ。

 営業担当者は、「それはこういうことですか?」、「他のお客様はこういうこともお望みでしたが?」と多角的な質問を投げかける。または、顧客のことをよく観察し、「実はこういうことでもお困りではないですか?」と顧客が気づいていなかった点に注意を向ける(優秀な営業担当者は、顧客企業のオフィス・工場の中の特徴や、顧客の家の様子の変化に敏感である)。そして、「そういうことでしたら、我が社のこの製品・サービスがお役に立ちそうですが?」とジャブのように提案を投げてみる。営業担当者は、あれやこれやの手を尽くして、顧客の心の奥へと入り込む。

 顧客への理解が不十分なうちは、顧客から「いや、違う」と返されるかもしれない。だが、すんなり「その通りだ」と言われるよりも、「いや、違う」と言われた方が、営業担当者にとってはありがたい。なぜならば、なぜ違うのか、その認識のずれを確認する作業を通じて顧客理解が深まるし、相手もまた自分を深く理解してくれるからである。こうして、しつこいぐらいの問答を、しつこいぐらいの商談で繰り返した後に、ようやく顕在ニーズが姿を現すものである。

 このように見てくると、コンサルティング営業は実は御用聞き営業そのものである。普段から足しげく顧客のもとに通うこと、顧客にとって役立つ情報をさりげなく提供し続けること、顧客のニーズに真摯に耳を傾けること、顧客をじっくりと観察して言外からもニーズを探ること、そのいずれもが御用聞き営業の特徴と合致する。

 コンサルティング営業は、顧客の情報を机上であれこれと分析しても始まらない。それに、顧客は初対面の人にいきなり「あなたが本当に困っていることはこういうことですね?」、「御社の潜在的な課題はこれですね?」といった具合に、ずけずけと土足で踏み込まれるようなことは望んでいない。もっとゆっくり信頼関係を構築し、本当に気が置けない企業から製品・サービスを購入したいと望んでいる。この点を勘違いしてはならないと思う。

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