プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考
Prev:
prev 平成25年度補正「新ものづくり補助金」の2次公募は7月予定??
2014年05月23日

湯之上隆『日本型モノづくりの敗北―零戦・半導体・テレビ』―日本の部品メーカーの戦略的方向性について


日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)
湯之上 隆

文藝春秋 2013-10-18

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 旧ブログでエルピーダが経営破綻した原因について分析した記事を書いたのだが、今読み返すと文章が長い割に大したことを言っていなくて恥ずかしくなる(苦笑)。要するに、インテルがウィンテル連合によってPCのアーキテクチャを支配していたのと同じようなことが、エルピーダにはできなかった、という1点に尽きる。

 ただ、今になってもう少し冷静に考えてみると、部品メーカーで最終製品のアーキテクチャに強い影響力を及ぼせるようなところはそうそうない。部品メーカーが生き残るためには、限られた川下産業だけに部品を供給するのではなく、幅広い川下産業を抑えることが重要だろう。そうすれば、特定の川下産業が衰退しても、他の川下産業でリスクヘッジできる。自動車、家電、光学精密機器、音響映像機器など幅広い業界に製品を提供し、世界シェア50%を占めるマブチモーターはその好例ではないだろうか?逆に、エルピーダはPCとモバイルに極度に依存していた。

 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)~円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)~シナリオなきPC分野への進出
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)~スマイルカーブの嘘
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(4)~産活法という縛り
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(5終)~復活のカギは”インテル化”?
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

 エルピーダの経営破綻について関係者が書いた内部告発本みたいなものはないかと探したところ、本書にたどり着いた。著者の湯之上隆氏は、1987年に日立製作所に入社した。この頃の日本の半導体産業は世界最強を誇り、DRAMの世界シェアは80%を占めていた。その後、90年代になると韓国・台湾勢の猛追を受けて日本のシェアは急落。日立とNECがDRAM部門を切り離して設立したエルピーダに、著者は2000年2月に出向した。

 率直な感想を言うと、私が期待しているほどの内容ではなかった。本書の副題に「零戦」とあるから、太平洋戦争の敗因と関連させた分析が展開されるのかと思ったが、零戦に触れられているのは冒頭の部分だけだった。また、半導体に加えてテレビ業界の分析も行われているが、かいつまんで言えば、日本の本来の強みであった(1)製造工程における競争力、(2)高度なすり合わせ(インテグラル)技術、(3)持続的技術の3つが、(1)マーケティング・販売における競争力、(2)モジュール技術、(3)破壊的イノベーションという新しい競争ルールによって無力化されたという、よくある論調の域を出ていなかった。

 個人的には、半導体とテレビは同じ土俵の上で議論できないと思う。一方は部品メーカーであり、他方は最終製品メーカーである。部品メーカーの戦略的方向性は、前述のように供給先の川下産業を多様化させ、製品設計や製造ラインをそれに適合させることである。これに対して、最終製品メーカーは、顧客に密着したマーケティングとブランド構築を重視しなければならない。さらにつけ加えると、最終製品メーカーにとってテレビは事業ポートフォリオの一部にすぎない。よって、「捨てる」という選択肢もありうる。ところが、半導体メーカーにとっての半導体は事業そのものであり、それを容易に捨て去ることはできない。この点も考慮されなければならないだろう。

 本書ではルネサスの苦境も取り上げられている。エルピーダはDRAMの会社であったが、ルネサスはSOC(System-on-a-chip)の会社である。ただ、著者によれば、「SOCとはニッチの集合」であるらしい。つまり、SOCという半導体製品は存在しておらず、何千種類にも及ぶ特定用途向けロジック半導体ASIC(Application Specific Integrated Circuit)の中で、特に集積度の大きな半導体製品をまとめてSOCと呼んでいるにすぎないのだという。

 ということは、ルネサスの顧客である川下産業は多様化しているはずだ。この点だけを見れば、ルネサスにはエルピーダよりもまだ希望が残されていると言えなくもない。しかし、ルネサスが昨年の8月2日に公表した資料「当社グループが目指す方向性」によると、自動車、産業・ネットワーク、汎用の3分野に経営資源を集中させる方針だという。選択と集中は、経営不振に陥っている企業がとる常套手段である。

 だが、これはかえってルネサスの首を絞めるかもしれない。特に自動車業界への依存が高まるのは危険だ。本書の中で、自動車メーカーは「100%不良がない製品」というとんでもない要求をしてくる上に、値下げを強く迫ってくることが明かされている。ルネサスは、利益が出なくて誰もやりたがらない自動車メーカー向けSOCを他社から押しつけられている、とまで書かれている。今回の決断によって、利益率はむしろ悪化し、経営破綻がより一層近づく可能性すらある。

 本書を読んで1つ勉強になったのは、半導体産業は大規模な設備投資を必要とする装置産業であるが、規模の経済性が効かない業界である、ということだ。日立、NEC、三菱がそれぞれDRAM部門を切り出してエルピーダを、SOC部門を切り出してルネサスを設立した時には、当然のことながら統合シナジーを期待し、規模の経済性によるコスト削減を狙っていたことだろう。しかし、実際にはそうならなかった。

 半導体製造装置は、同じ装置であっても性能に微妙な差がある。これを「機差」と呼ぶ。機差は、半導体製造装置メーカーが同一の製造装置を作る際、コントロールできない要因のために生じる装置の違いである。それゆえ、半導体製造装置には「顔がある」とまで言われる。機差は、半導体の微細化が進むにつれて、より顕在化してきた。この機差があるため、工程フローは製造装置ごとに設計しなければならない。これが、規模の経済性を妨げている大きな要因だ。

 もう1つは、DRAM製造工程の約30%を占める洗浄工程にある。洗浄液は半導体メーカーごと、それどころか半導体メーカーでも工場ごとに違うという。それぞれの工場が数十年かけて、まるで秘伝のたれを醸成するかのごとく、異なる洗浄液の文化を築いている。これも、規模の経済性にとってはマイナスにはたらいてしまう。

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like