プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年05月30日

「平成25年度荒川区製造業実態調査・経営支援事業」サマリ


http://www.city.arakawa.tokyo.jp/jigyosha/shien/seizougyouchousa.html 昨年、「荒川区中小企業経営協会」に所属する中小企業診断士が中心となって、荒川区に活動拠点を有する中小製造業を対象に、経営状況や経営環境、区への要望などに関する調査を実施した。私も事務局メンバーとして、調査データのとりまとめや分析に関わらせていただいた。報告書が膨大なので、今日の記事ではポイントを列記してみたいと思う(本当はこういうサマリページを報告書の最初につけるべきなのだが、それができなかったのは反省点である)。

 《報告書全文はこちら》
 平成25年度荒川区製造業実態調査・経営支援事業実施報告書(PDF:3,984KB)
 実施報告書(概要版)(PDF:774KB)

 (1)荒川区が持っているデータベースによると、荒川区には約2,500の中小製造業が存在する。そのうち、今回の調査対象となった企業数は1,898社であり、1,532社から回答を得ることができた(回答率80.7%)。回答率が高いのは、郵送による調査ではなく、中小企業診断士が1社ずつ訪問し、対面で調査を行ったことが大きいと考えられる(お忙しい中調査に協力してくださった経営者の皆様には、本当に感謝の意でいっぱいである)。

 荒川区の中小製造業の特徴としては、ⅰ)資本金で見ると1,000万円以下の企業が約8割、社員数で見ると5人以下の企業が約4分の3、20人以下の企業が約9割と、小規模・零細企業が非常に多い、ⅱ)経営者の高齢化が進んでおり、60歳以上の経営者が約7割を占める、ⅲ)業種別に見ると印刷業、金属製品製造業が多い、という点が挙げられる。

 (2)景況を尋ねたところ、「増収増益」と回答したのはわずか6.3%(97社)にすぎなかった。「横ばい」が17.4%(266社)、「減収減益」が66.9%(1,023社)であった(「増収減益」、「減収増益」などの「その他」は9.4%(144社))。また、「減収減益」企業の約4割(379社)が、事業の廃止・清算を予定していると回答した。60~70代の経営者が多いことを踏まえると、今後10年の間に荒川区の中小製造業が激減する恐れがある。

 (3)現状の経営課題については、「増収増益」企業は「人材不足」、「設備老朽化」といった経営資源面の課題や、「製品技術開発」、「販路開拓」といったマーケティング面の課題を挙げる企業が多かった。これに対して、「横ばい」、「減収減益」企業では、「売上数量減少」、「売上単価低下」、「顧客減少」の割合が高かった。

 これは設問の設計の仕方にも問題があるのだが、「売上数量減少」、「売上単価低下」、「顧客減少」というのは経営悪化という事象を言い換えただけであり、原因を掘り下げたものではない。「横ばい」、「減収減益」企業は、自社の経営課題を正しく認識できていない可能性がある(※)。

 (4)「融資の斡旋」、「セーフティネット保証認定」など、区が実施する24の施策について、認知度と活用度を尋ねたところ、「横ばい」、「減収減益」企業よりも「増収増益」企業の方が、認知度・活用度ともに高い傾向が見られた。逆に、景況感が悪くなるにつれて「いずれの施策も知らない」という回答の割合が高くなった。「増収増益」企業は、区の各種施策についてアンテナを張っており、業績向上のために施策をうまく活用していると思われる。

 (5)「増収増益」企業の方が借入れに積極的であり、借入金額も大きいことが分かった。「増収増益」企業の約8割が借入れを行っている。これに対して、「横ばい」、「減収減益」企業で借入れを行っているのは約5割にとどまる。事業をある程度大きくしようと思ったら、やはり一定のリスクをとって借入れを行い、設備投資などを実施する必要があるのではないだろうか?リスクに及び腰になると、企業の成長可能性を自ら狭めてしまうことになる。

 (6)事業を「後継者に継承」すると回答した企業の割合は、「増収増益」企業が約6割であるのに対し、「横ばい」企業が約3割、「減収減益」企業が3割弱と、だんだん低くなる傾向が見られた。一方、「事業を廃止・清算予定」と回答した企業の割合は、「増収増益」企業が1割弱、「横ばい」企業が約3割、「減収減益」企業が約4割と、だんだん高くなる。ここからは推測の域を出ないが、「減収減益」企業で「事業を廃止・清算予定」と回答した企業の経営者に60~70代が多いことと合わせて考えると、次のようになるのではないか?

 つまり、「減収減益」企業は経営悪化が長く続いていて、経営者が自分で何とかしなければと頑張ってみたものの、結局業績が好転しなかった(むしろ悪化した)。そうこうしているうちに自らも高齢となり、今から後継者を見つけることも難しいため、廃業・清算を決めた、ということである。

 大企業のように、社員が30代の頃から幹部候補生を選抜して中長期的に育成せよとは言わないが、経営者の目が青いうちに事業承継のことも考えておかないと、取り返しがつかなくなってしまう。代替わりの節目というのは、実は大きな変革を行うチャンスでもある。たとえ業績が悪化していたとしても、業績悪化が慢性化して手遅れになる前に事業承継をすれば、業績好転のチャンスが残る。その意味でも、計画的に事業承継を考えることは経営者の責任である。

 (7)「横ばい」、「減収減益」企業に比べて、「増収増益」企業の方が海外と積極的に関わっている。「直接海外と関わりあり」と「間接的に海外と関わりあり」を合わせると、「増収増益」企業では過半数を超える。他方、「横ばい」、「減収減益」企業では、両者の合計は3割弱にとどまる。これについては、海外と関わりがあるから業績がよいというよりも、国内で業績がよいから海外と関わる余力がある、と解釈した方がよいかもしれない。

 ただ気になるのは、海外との関わりに積極的なのは実は少数派であり、海外に「進出したくない」と回答した企業が、「増収増益」企業でさえ約6割、「横ばい」企業では約8割、「減収減益」企業では何と約9割に上る。荒川区の中小製造業は、非常に内向きな性格なのかもしれない。

 (8)販路開拓、新製品・技術開発については、当然の結果であるが「増収増益」企業の方が積極的であるという結果が出た。ちょっと驚いたのは、「横ばい」、「減収減益」企業では、販路開拓に「取り組んでいない」という回答が6割超、新製品・技術を「開発しない」という回答が5割超を占めたことである。新製品・技術を開発せず、販路も開拓しなければ、業績が悪くなるのは必至だろう。「横ばい」、「減収減益」企業は、既存の元請企業から言われた通りの製品を作り続けているだけかもしれない。これでは業績改善・事業拡大は難しい。

 (9)荒川区には「MACCプロジェクト」というものがある(MACC=Monozukuri Arakawa City Cluster)。MACCプロジェクトでは、区内企業を中心とした有機的なネットワークを構築し、技術と知恵を集結して新たな事業を絶え間なく生み出す「荒川区版産業クラスター」の形成を目指している。具体的には、区内に拠点を持つ3つの大学・高専を中心に様々な機関と連携を図るとともに、「MACCコーディネータ」という専属コーディネータを配置し、参加企業・機関同士の調整役としてきめ細かい企業支援を行っている。

 MACCプロジェクトの参加企業を調査企業全体と比較してみると、ⅰ)事業が比較的順調で、売上・利益水準がアップしている企業が多い、ⅱ)顧客企業数が多く、顧客1社あたりへの依存度が低い、ⅲ)制度融資をはじめとする区の各種施策に対する認知度が非常に高く、また施策を利用している割合も高い、ⅳ)新製品・技術開発や販路開拓に対して積極的であり、区に対しても支援を期待している、ⅴ)大学・研究機関との連携に対して高い関心を示している、ⅵ)廃業・清算を検討している企業は1社もない、といった特徴がある。


(※)中小企業経営の研究者である中沢孝夫氏の著書『中小企業の底力―成功する「現場」の秘密』に興味深い記述があったので引用しておく。
 以前、雑誌『プレジデント』(2013年5月13日号)で、中小企業へのアンケートの分析をしたことがある。そのときの項目に「優先的に取り組む経営課題はなんですか」というのがあった。答えを見たら、伸び悩み企業は「売り上げの拡大」「利益を上げること」と答えた会社が多い。業績のよい会社はいうまでもなく、従業員教育を重視していた。
中小企業の底力: 成功する「現場」の秘密 (ちくま新書 1065)中小企業の底力: 成功する「現場」の秘密 (ちくま新書 1065)
中沢 孝夫

筑摩書房 2014-04-07

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