プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年06月02日

飯田順『目指せ!経営革新計画承認企業』―中小企業診断士が策定する戦略に対する5つの疑問(前半)


目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法目指せ!経営革新計画承認企業―中小企業新事業活動促進法
飯田 順

税務経理協会 2009-10

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 「経営革新計画」とは、中小企業が「中小企業新事業活動促進法」に基づいて、新製品の開発や生産、新サービスの開発や提供などの新たな取り組みを行い、経営基盤を強化するための計画である。経営革新計画の提出先はその企業が事業を営んでいる都道府県であり、都道府県から承認を受けると様々な優遇措置を受けることができる。例えば、政府系金融機関による低利融資制度、信用保証の特例、高度化融資制度、小規模企業設備資金貸付制度の特例、設備投資減税などがある。

 恥ずかしながら、私は事業戦略を策定する通常のコンサルティングはいくつも経験したが、経営革新計画の作成支援を行ったことがない。私みたいな中小企業診断士があまりに多いので、中小企業庁が中小企業診断士に見切りをつけてしまい、中小企業をサポートする専門機関として「認定支援機関」という制度を作ってしまった(以前の記事「認定支援機関制度で岐路に立たされる中小企業診断士」を参照)。

 しかし、認定支援機関の大多数は税理士だ。これは、1万人以上の税理士を束ねるTKCグループが、税理士に対して認定支援機関になるようハッパをかけたためである。税理士は会計処理はできるものの、経営支援ができる税理士はほとんどいないと言われている。こういう”名ばかり認定支援機関”に負けてはいけないと思い、私も経営革新計画について学習することにした。

 ただ、経営革新計画の策定プロセスは、以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(3)~一般的な戦略策定プロセスに沿って整理」で述べた戦略策定プロセスとそれほど大きな違いはないことが解った。最後の投資対効果のシミュレーションの部分だけ、私のコンサルティング経験ではROIの試算で終わることが多かったのだが、経営革新計画の場合は、毎年の資金需要と資金調達計画、さらに返済計画まで細かく立案しなければならないという違いがある(本当は私の経験したコンサルティングでも、そこまでやるべきだったのかもしれない)。この点は勉強になった。

 本書の著者は中小企業診断士である。本書でもそうだが、中小企業診断士が策定する戦略や経営革新計画は、私からすると「?」となることがある。そこで、私がよく突っ込みを入れたくなるポイントを5つほど整理してみた。もちろん、私の考え方が全て正しいとは思わないが、こういう突っ込みどころをなくしていかないと、中小企業診断士も税理士と同様に信頼を失ってしまうのではないか?と心配になる。

(1)ターゲット市場に関する定量分析がない
 飲食店や商店街の戦略を立てる時はさすがに商圏分析を行うけれども、中小製造業などによく見られるBtoBビジネスになった途端に、市場分析がなおざりになる傾向がある。もちろん、「元請企業からこういう要求を受けている」という定性的な情報はあり、それはそれで重要である。しかし、それ以上に重要なのは、同じようなニーズを持っている潜在的な顧客企業がどのくらいいるのか?という定量的な情報である。

 経営革新計画では、「付加価値額または従業員1人あたりの付加価値額が、年率平均3%以上伸びていること」、「経常利益が年率平均1%以上伸びていること」という2つの条件を満たす必要がある。そして、この条件を満たす3~5年スパンの収支計画書を作成しなければならない。当然のことながら売上高の目標を設定するわけだが、そのためにはターゲット市場の規模がどのくらいで、競合他社が何社ぐらいひしめいており、自社はその市場でどの程度のシェアを目指すのか?という定量的な分析をしなければ、目標設定などできないはずだ。

 BtoBビジネスはBtoCビジネスと違って統計情報が十分ではなく、市場規模を調べようと思ってもすぐにはたどり着けない。だが、普通の人がすぐにはたどり着けないからこそ、中小企業診断士=コンサルタントの出番なのである。手に入る限られた情報に様々な仮説を組み合わせながら、何とか推計値を導き出す力が要求される。これは、一時期「地頭力」と呼ばれていたものだ。

(2)何でもかんでもSWOT分析で戦略を導こうとする
 多分、私が一番辟易しているのはこの点かもしれない。中小企業診断士の試験に合格した後に実施される「実務補習」では、標準的な企業診断プロセスが定義されており、その中には戦略を立案するためのツールとしてSWOT分析が入り込んでいる。その影響もあってか、中小企業診断士はとにかくSWOT分析で戦略を導こうとする。

 経営学者のヘンリー・ミンツバーグは、過去の戦略論を体系化した大著『戦略サファリ』の中で、SWOT分析を「デザイン・スクール」(スクール=学派)に位置づけており、また私もいろんなSWOT分析を見てきたが、はっきり言ってSWOT分析は戦略策定のフレームワークでは「ない」。本書で例示されているSWOT分析からは「生産体制の整備」、「販売部門の強化」、「競合他社との提携」といった”戦略”が導かれているものの、これらは戦略ではなく”戦術”である。

 戦略とは、自社が市場でどう戦うのか?というポジショニングである。言い換えれば、誰(=Who)に対して、何(=What)を、どのように競合他社と差別化を図りながら(=How)提供するのか?という基本構想である。その基本構想を実現するために必要な戦術が「生産体制の整備」なのかもしれないし、「販売部門の強化」なのかもしれない。

 SWOT分析では、強みと弱み、機会と脅威の境界線が曖昧になりやすいと言われる。つまり、同じ要因が見方によって強み(機会)にも弱み(脅威)にもなるというわけだ。その原因は、評価基準がきちんと定まっていないことにある。逆に言えば、この評価基準を明確にするものこそ戦略である。戦略が明白であれば、その戦略に照らし合わせて何が強み・弱みで、何が機会・脅威なのかを峻別しやすくなる。例えば、特定の市場をターゲットと定めた場合に、どのような機会が存在し、逆に何が脅威となるのか?また、ある差別化要因を実現するにあたって、自社の経営資源の何が強みとなり、何が弱みとなるのか?といった具合である。

 戦略を基軸としたSWOT分析から導かれるのは、戦略を実現するための手段、すなわち戦術である。よって、SWOT分析は戦略ではなく戦術を導出するためのツールだと私は考える。

 (続く)

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