プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年06月06日

中小製造業を国が支援する際の2つの方向性―平成25年度補正「新ものづくり補助金」を受けて


 平成25年度の補正予算で実施されている「新ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」が、昨年度のものづくり補助金に比べて大人気のようだ。新ものづくり補助金では、製造業に比べて商業・サービス業も対象になったことが注目される中、製造業についても1つ見逃せない変化がある。製造業の場合、申請する事業で用いられる技術が、国の定める「特定ものづくり基盤技術」に該当している必要があるのだが、今年に入ってからその内容が従来の22分野から11分野に変更されている。

 このことは以前の記事「「特定ものづくり基盤技術」が22分野⇒11分野に見直されるらしい」でも触れた。この記事を書いた時には、従来の22分野は中小製造業で用いられている技術を幅広くカバーしたものであり、今回の変更は単にその区分を見直しただけなので、新ものづくり補助金への申請にはほとんど影響がないだろうと楽観視していた。ところが、いざふたを開けてみると、困った事態がいくつか発生するようになった。

 私が相談を受けた範囲での話になるが、一番多かったのは印刷業からの相談で、「印刷技術の向上のために設備投資する場合は、申請が可能なのか?」というものであった。高度で精密な印刷を行う機械を導入する場合、従来の22分野であれば「位置決め」を選択することができた。あるいは、紙に特殊な液体などで印刷を行う場合は、「溶射・蒸着」を選択することができた。ところが、いずれのケースでも、新しい11分野だとストレートに該当する技術がない。

 また、食品加工業からの相談も多かった。例えば、「かまぼこの生産性を向上させるための設備投資は認められるのか?」といった具合である。かまぼこの製造プロセスには加熱や冷却があるから、従来の22分野であれば「熱処理」や「冷凍空調」を選択すればよかった。しかし、新しい11分野ではどうやら該当しそうなものがない。食品加工に直接関係する技術は「バイオ技術」だけであり、微生物などを使う食品加工でなければ申請できないようである。

 どうしてこうなってしまったのか?それは、11分野を定める際に、「川下製造業者が抱える課題やニーズを分析し、それらを踏まえて高度化が必要な技術分野を定めた」という点にポイントがある。具体的には、国が強化したい川下産業をまずは特定し(医療・健康、環境・エネルギー、航空宇宙、ロボット、自動車、情報家電、コンテンツビジネスなど)、その下請企業となる中小製造業に必要な技術を体系化したのである。

 しかし、国が指定した川下産業は、必ずしも最終製品を幅広く網羅しているわけではない。11分野に関する資料を見てぱっと思いつくのは、BtoCビジネスであればアパレル、BtoBビジネスであれば輸送機器が抜けている、ということである。先ほど言及した印刷業や食品加工業は分析の対象にこそなっているものの、課題の掘り下げが十分ではないとの印象を受ける。こういう経緯があるため、11分野はヌケモレが多くなってしまっているのではないだろうか?

 思うに、中小製造業を国が支援するのは、「下請体質」から脱却させ、競争力のある製造業へとランクアップさせるためであろう。多くの中小製造業は、特定の産業に属し、特定の完成品メーカー(もしくは2次加工メーカー)から仕事を下請している(下図の薄いグレーのボックス)。だが、これでは元請企業の意向に大きく左右されてしまい、経営が不安定になりやすい。

 そこで、下請依存からの脱却が模索されるわけだが、その戦略的方向性には大きく2つあると思う。1つは、産業の垣根を越えて複数産業に部品を供給するメーカーとなることであり(以前の記事「湯之上隆『日本型モノづくりの敗北―零戦・半導体・テレビ』―日本の部品メーカーの戦略的方向性について」を参照)、もう1つは川下へと降りて行って自らが完成品の製造・販売を行い、ニッチ市場を押さえるというものである。前者を「川上統合型」、後者を「川下統合型」と呼ぶことにする(下図の濃いグレーのボックス)。

中小製造業の戦略的方向性

 国は、この2つの戦略的方向性にチャレンジする中小製造業を支援するべきではないだろうか?「川上統合型」の場合は、複数産業で通用するコア技術を開発しなければならない。また、「川下統合型」の場合は、中小製造業がそれまでほとんど行ったことがなかったマーケティングに着手する必要がある。国が補助金を出すならば、このような活動に対してではないだろうか?もっと具体的に言えば、技術開発や研究開発の費用を手厚く補助する「川上統合型」向けの補助金と、マーケティングや販売活動の費用を手厚く補助する「川下統合型」向けの補助金の2本立てで運用するのが望ましいのではないだろうか?

 残念ながら、現在の新ものづくり補助金はそのような制度になっていない。「川上統合型」も「川下統合型」もごちゃごちゃである。もっと言えば、そのどちらにも該当しない従来通りの下請的な中小製造業も、所属する産業が国の重視する産業であれば、補助金の対象となる。しかし、特定の産業の栄枯盛衰は、国が決めることではない。国があれだけ半導体産業を重視しながら、日本の半導体メーカーが壊滅してしまったのは周知の通りである。それよりも、複数産業に手を伸ばそうとするフットワークとタフさとコア技術を備えた中小製造業を育成する方が得策である。

 「川下統合型」についても、新ものづくり補助金の対象とはなるが、事業の遂行を考えると必ずしも使い勝手がいい制度とは言えない。「川下統合型」の場合は、技術的な課題の解決よりも、製品コンセプトの企画や市場調査の実施、プロモーション活動に力点が置かれる。製造そのものはリードタイム短縮のためにアウトソーシングすることが多い。ところが、新ものづくり補助金では自社が製品開発・製造のイニシアティブを握っていることが要件とされており、さらにマーケティング関連経費は補助対象とならない。繰り返しになるが、「川下統合型」については別の補助金として運用する方が適切だと思うのである。

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