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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年07月02日

「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁


 「平成26年度中小企業・小規模事業者政策の概要」を見ると、今後の中小企業・小規模事業者政策の柱として以下の6つが挙げられている。

 1.被災地の中小企業・小規模事業者対策に万全を期す
 2.小規模事業者に焦点を当てる
 3.開業率10%台を目指す
 4.黒字の中小企業・小規模事業者の倍増を目指す
 5.新たに1万社の海外展開の実現を目指す
 6.消費税転嫁対策に万全を期す

 3に関して、中小企業庁は中小企業の減少に強い危機感を覚えているようである。1999年に約480万社であった中小企業(農林漁業を除く)は、10年後の2009年には約420万社まで減少している(※1)。さらにその後の3年間で減少スピードは加速し、2012年の統計では385万社となっている(※2)。1999年から2009年の10年間に約60万社減ったが、その後わずか3年間でさらに30万社以上減少しているという、危機的状況なのだ。

 中小企業の数が減っているということは、廃業率が開業率を上回っているということである。日本では1990年代の後半から開業率と廃業率が逆転しており、今もその傾向が続いている。1990年代後半というとバブル崩壊の後遺症で金融機関の経営破綻が相次いでいた時期であり、アジアで通貨危機が起きた頃である。

 開業率の高さ≒起業活動の活発さと経済成長との間には緩やかな相関が見られる。世界各国の起業活動の状況を調査している「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター調査」(※3)によると、先進国においては、起業活動の活発さを表す「TEA(Total Entrepreneurial Activities:総合起業活動指数)」の数値とGDP成長率、ならびに1人あたりGDPとの間に緩やかながら相関がある。経済成長を実現したい経済産業省と中小企業庁が起業の支援に前向きになっているのは、こういう背景もあるだろう。中企庁は、現在4.5%と低迷している開業率を、アメリカやイギリス並みの10%にまで高めたいと考えているようだ。

 第2次安倍政権が発足した直後の平成24年度補正予算では、「創業補助金」という事業に200億円の予算がついた。1社あたり最大で200万円(※4)の補助金が出るから、単純計算で約1万社の創業を支援したことになる。前述の通り、現在の中小企業数が約385万社、開業率が4.5%ということは、年間の総起業数は約17.3万社である。そのうち1万社を支援したわけだから、かなり大がかりな取り組みであった。

 平成26年度は、冒頭で述べたように中小企業庁が「開業率10%台を目指す」と明言したため、私も創業補助金は継続されると思っていた。だが、平成25年度補正予算で実施された創業補助金は、予算規模が40億円と、前年度の5分の1に減らされてしまった(補助上限額200万円は変わらず)。平成26年度の本予算には、創業補助金に類する事業は入っていない。代わりに入ったのは、「地域創業促進支援事業」という事業である(予算20億円)。これは、全国300箇所の認定支援機関において、女性・若者などを対象にビジネスプランの作成を支援するというもので、簡単に言えば、創業のための研修やセミナーを行う拠点を全国に作るというものである。

 これを見た時に、創業支援の取り組みは随分と後退してしまったという印象を受けた。創業補助金は、成功するかどうか解らない事業に国民の大切な税金をつぎ込むことになるから、批判が大きかったのかもしれない。補助金を受けると、補助事業終了から5年間は毎年、事業の状況を国に報告する義務が生じる。その際に廃業が明らかになれば、補助金はムダだったことになってしまう。これに対して、創業のための研修などであれば、参加者が実際に起業するかどうかは別として、参加者が内容に満足すればいいので、国としてもリスクが少ないと判断したのだろう。

 確かに、創業間もない会社に投資するのは勇気がいる。だが、「中小企業白書」の2011年度版によれば、1980から2009年に創設された企業の廃業率は、起業5年目で18%、起業10年目で30%となっている(※5)。また、2006年度版によれば、1993年に開業した企業の廃業率は、全事業所ベースで見ると5年目で58.2%、10年目で73.9%、会社ベースで見ると5年目で47.4%、10年目で64.1%、個人事業主ベースで見ると74.4%、10年後で88.4%である(※6)。

 2つの統計では数字に開きがあるものの、個人事業主を除いて”会社”に限定すると、起業から5年後の生存率は約6~8割と言えるのではないだろうか?この数字は思ったよりも高い。全ての会社から無作為に抽出して5年後の生存率を調べれば、それほど変わらない結果が得られるに違いない。何せ、会社の寿命は30年と言われる時代だ。だから、通常の補助金でも5年後には泡と化すリスクはあるのであって、創業補助金だけが特別に責められるいわれはない。それよりも、実際に起業につながるか解らない創業セミナーなどの方が、後々非難の的になる気がする。

 起業時の最大のネックは、資金調達である。ただ、日本はアメリカのようにベンチャーキャピタル(VC)が発達しておらず、また全ての起業家がVCからの出資を必要とするほど大規模な事業を検討しているわけでもない(※7)。本来は金融機関、特に中小企業を主要顧客とする信用金庫・信用組合が起業家の支援をすべきなのだが、今は経営的に苦しいところが多く、あまり融資に前向きではない。となると、市場原理ではどうにもならないのだから、後は政府がカバーするしかない。200億円で1万社もの起業を後押しでき、開業率アップに直接貢献できるのだから、創業セミナーなどという解りにくい施策なんかよりも、もっと積極的にやればいいのにと思う。

《2014年7月4日追記》
 旧ブログの記事「東京都の中小企業振興施策は”浅く狭く”になっているのでは?という疑問」で書いたが、補助金はある程度の規模がないと効果がない。補助金は、優れた事業計画や組織能力を持ちながら、財務状態などに難があるために金融機関から融資が受けられない企業に対して支給されるものだと思う。端的に言えば、市場の失敗をカバーするものだ。では、そうした市場の失敗がどのくらいあるのかというと、感覚的な話で大変恐縮だが、だいたい全体の1%ぐらいではないだろうか?(補助金の適正規模に関する研究があればご教示いただきたい)

 創業補助金に関して言えば、開業率を10%に上げるという中小企業庁の目標があるので、年間で約38万社の起業を目指していることになる。そのうちの1%が補助金の対象になるならば、その数は約3,800社である。1社あたりの補助金が200万円だとすると、約76億円が補助金の適正規模となる(1社あたりの補助金=200万円が適正規模なのか?という別の議論はある)。だから、40億円ではちょっと少なすぎると書いたわけである。

 逆に、平成25年度の補正予算で実施されている「新ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」には約1,400億円(平成25年度補正予算)もの予算がついているのだが、これは多すぎるように感じる。1社あたりの補助金の平均額が1,000万円とすると、全体で約1.4万社を採択する計算となる。

 日本の中小製造業は約41.2万社(中小企業庁「中小企業白書(2012年度版)」第1章第1節を参照)、製品ライフサイクルは業種によって異なるが大雑把に平均を取って3年だとすると(中小企業研究所「製造業販売活動実態調査」〔2004年11月〕によれば、75%の経営者が自社製品のライフサイクルを3年未満と回答している)、1年間に新製品開発に取り組む中小企業数は41.2万社÷3年=約13.7万社である。その1%が補助金の対象になるとすると、補助金の適正規模は13.7万社×1%×1,000万円=137億円ということになる。

 商店街のイベントなどに対する補助金である「にぎわい補助金(地域商店街活性化事業)」の予算は53億円(平成25年度補正予算)であり、単独の商店街が受けられる補助金の上限は400万円である。単純に考えると、53億円÷400万円で約1,300の商店街が補助金の対象となる。全国の商店街の数は約1.2万であるから、実に1割以上をカバーする計算になる。

 関係者によると、「にぎわい補助金」の申請が思ったより少なくて困っているそうだ。商店街の役員は小規模事業者ばかりで、補助金申請に必要とされる膨大な事務処理に耐えられないため敬遠されているらしい。だが、単に予算規模が適正サイズを超えているだけではないだろうか?

 以上のように、中には予算が多すぎると思われる補助金もあるが、全国には約4,000以上の補助金・助成金があり、その大半は予算規模が小さい細々とした施策である(中小企業庁はポータルサイト「ミラサポ」で、補助金・助成金の検索ができる「施策マップ」を開設した)。採択予定件数が数件というものもざらだ。政治的な思惑がいろいろと絡んで施策が増えているのだろうが、個人的にはもっと施策を集約して、効果が見込める分野に集中投資した方がいいと考える。



(※1)経済産業省「日本の中小企業政策」(2011年9月)
(※2)経済産業省「中小企業・小規模事業者の数(2012年2月時点)の集計結果を公表します」(2013年12月26日)
(※3)高橋徳行「わが国の起業活動の特徴―グローバル・アントレプレナーシップ・モニター調査より―」(2007年11月)
(※4)第二創業の場合は300万円、海外需要獲得型の場合は700万円である。ただし、通常の200万円のパターン=地域需要獲得型に比べると、件数は圧倒的に少ない。
(※5)中小企業庁「中小企業白書(2011年度版)」第3部第1章
(※6)中小企業庁「中小企業白書(2006年度版)」第1部第2章
(※7)本当はアメリカにも同じことが言える。アメリカの起業を支えているのはVCだと言われるが、アメリカ人の起業家も、皆がVCを必要としているわけではないし、皆がIPO(新規株式公開)を目指しているわけでもない。

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