プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年07月10日

『良い価格 悪い価格(DHBR2014年7月号)』―「下げで儲けるな、上げで儲けよ」


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 DHBR2014年7月号の特集は「プライシング」。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第36回)】「この人とは馬が合いそうだ」という直観的な理由で採用⇒そして失敗」で、GEの元CEOであるジャック・ウェルチの「経営には時に直観が必要だが、人事だけは直観で決めてはならない」という言葉に触れながら、人材の採用は一度間違えると変更が効かないと書いた。ここで、もう1つ重要な教訓をつけ加えなければならないだろう。すなわち、「価格は一度間違えると変更が効かない」ということだ。特に、一度下げた価格は再び上げることが難しい。目先の売上に気を取られて安易に値引きすると、その価格が将来も固定してしまい、収益を圧迫する。

 以前の記事「中小企業診断士が断ち切るべき5つの因習(+2個追記)」でも少し書いたが、中小企業診断士は時に信じられないようなプライシングで仕事を受注している。ある自治体から、域内の中小企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)策定支援業務を受注した時は、中小企業診断士の1日あたりの単価が約1.5万円で計算されていた。また、別の自治体から中小企業の経営実態調査の案件を受注した時には、数千社の中小企業を50人程度の中小企業診断士で手分けして1社ずつ訪問したのだが、調査員に支払われた謝金は1日あたりに換算すると1万円を切るほどであった。

 これでは派遣社員の時給とそれほど変わらない。しかも、将来的により大きな案件を受注するために最初の案件は安く受注した、というような戦略的意図があったわけではなく、これらの案件はいずれもスポット案件にとどまっている。こんな案件を繰り返していると、「中小企業診断士は安い単価で仕事をしてくれる」と自治体が思い込んでしまう(最近、ブラック企業が話題だが、自治体側にもブラックな仕事を生み出すような案件を発注しないでほしい、と言いたいところだ)。また、案件に協力してくれる中小企業診断士もやがていなくなるに違いない。

 中小企業診断士の中には、「公的な仕事だから安いのは仕方ない」と諦めているような人もいる。しかし、穿った見方をすれば、広く公益に資する仕事なのだから民間の仕事よりむしろ高くてもおかしくない、という理屈も成り立つはずだ。公務員の給与は、以前に比べるとだいぶ下がったが、それでもまだ民間より高いと言われているではないか?

 これらの事例はプライシングの失敗であり、中小企業診断士の価値を適切に訴求できなかった営業の失敗である。コンサルティングの価値の考え方には、2通りのパターンがあると思う。1つは、顧客企業がコンサルタントに依頼しようとしている業務を仮に社内でやった時にかかる時間とコストをベースにする考え方である。社内でやると半年で1,000万円かかる業務があったとしよう。これをコンサルタントがやれば2か月で完了でき、しかも顧客企業が自分でやるよりも高い品質のアウトプットを提供できるとする。この場合、顧客企業は時間と品質をお金で買うことになるから、コンサルタントは1,000万円よりもはるかに高い金額を提案してもよいだろう。

 もう1つは、コンサルティングの成果によって顧客企業が享受できるであろう利益をベースにする考え方である。例えば、営業コンサルティングの結果、営業部門の利益が1億円ほど上がる見込みであれば、その何割かをコンサルティングフィーとして提案する、といった具合だ。成功報酬型のコンサルティングでは、このようなプライシングが行われている。

 先ほどの事例で言えば、BCPの策定によって、震災が起きた時に早く事業を復旧できる企業が増え、機会損失が減ることで自治体の税収減をいくばくか抑えることができる。また、中小企業の経営実態調査に関しては、調査結果が自治体の産業振興策に反映されることで、自治体の税収増が期待できる。よって、税収の何割かをコンサルティングフィーとして提案することになる。

 ただし、後者については、コンサルティングの結果を提案段階で予測することが難しい。実際、税収の増減を概算ベースであっても事前にシミュレーションするのは困難を極める。コンサルティングをやってみて、初めてコンサルティングの費用対効果が明らかになることが大半だ。だから、現実的な路線としては、まずは前者の考え方で提案をし、コンサルティングプロジェクトが始まれば、フィーに見合った成果が得られるような施策を必死に考える、という形になる。

 イオングループの創業家である岡田家には、「上げに儲けるな、下げに儲けよ」という家訓がある。これは、バブルのような好景気の時に儲けるのではなく、景気が傾いた時に儲けられるかどうかが商人の価値だ、という意味である。つまり、景気がいい時は放っておいても価格が上がって儲かる。しかし、景気が下がった時にもっとお値打ちな商品を顧客に提供し、かつ利益を出すこそが商人の使命だというわけである。私は、この家訓を少し変えて、次の言葉を中小企業診断士に送りたい。「下げで儲けるな、上げで儲けよ」と。

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