プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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○ポケット・プライシング3.0 値上げをせずに利益を増やす法(菅原章、佐藤克宏)
 顧客との取引ごとの収益性を表す指標として、マッキンゼー・アンド・カンパニーはポケット・プライスという概念を提唱してきた。ポケット・プライスとは、顧客との個別の取引において、企業のポケットに実質的に入る価格である。個別の取引において、製品ごとの「定価」を起点として、数量値引きなど請求書に表示される値引きを引いたものが「請求書上の売り値」になる。

 この請求書上の売り値に対して、販売促進のための割戻金(リベート)など請求書には表示されない値引きを差し引いたものが「正味の売り値」となる。さらに、正味の売り値に対して、販売した製品の物流・配送費、代理店に支払う販売手数料、返品を受けることに伴う諸費用など、顧客との個別の取引に付随して発生する費用を差し引いたものが「ポケット・プライス」になる。つまり、顧客との個別の取引ごとの実質的な販売価格となる。

 このポケット・プライスから、顧客との個別の取引に直接は付随しないその他のコストである製品の製造費用、製品ブランド総体として支払う販売費、一般管理費などを差し引いたものが「ポケット・マージン」である。ポケット・マージンには、損益計算書として表れる会計基準による形式的な損益ではなく、顧客との個別の取引から企業のポケットに入る実質的な損益を表している。
 マッキンゼーは20年ほど前から「ポケット・プライス」という概念を使っているらしく(勉強不足で知りませんでした・・・)、現在は「ポケット・マージン」を算出できる「ペリスコープ(Periscope)」というシステムを持っているという。ここまで細かく分析するのは、いかにもマッキンゼーらしい。

 私の前職の教育研修会社では、講師と営業担当者がチームになって顧客企業を担当することが多かった。赤字が慢性化していたのだが、社内の危機意識があまりに薄かったので、私が各チームの損益を計算したことがあった。ただ、その時は営業活動に関するデータが十分に得られず、販売管理費などはいくつかの仮定を置いて、ざっくりとしか計算できなかった。マッキンゼーのペリスコープがあれば、もっと精度の高いデータが得られたのかもしれない。

 もっとも、前職の会社が赤字だったのは、不当な値引きをしていたとか、過剰な要求をしてくる顧客がいてコストが膨らんでいたというレベルの話以前に、販売量が圧倒的に不足していたのが原因だった(「シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】」を参照)。また、そもそも弱小のベンチャー企業がマッキンゼーのペリスコープなどを導入したら、それだけで経営が破綻したかもしれない。

 ペリスコープのようなシステムを使えば、究極的には顧客1人あたり、製品1個あたりの利益を算出することができるだろう。だが、分析の切り口を適切に設定しないと、有益な分析結果は得られない。先日、居酒屋のコンサルティングをしている中小企業診断士の先生から、「飲み放題の原価をどうやって計算すればよいか?」という相談を受けた。飲み放題のコースを注文したグループの注文内容を分析して、顧客1人が注文するお酒の種類と量の平均を算出すれば、おおよその原価を算出することは可能だ。しかし、店舗全体の飲み放題の原価が解ったところで、次にどのような改善策につながるのか、私には疑問であった。

 1つの方法としては、「飲み放題あり―なし」と「大人数―少人数」という2軸からなるマトリクスで顧客グループを4つに分類し、象限ごとにお酒と料理の利益を計算して、お酒と料理の利益がお互いにどのように補完し合っているのかを明らかにする、という手が考えられる。そうすれば、大人数の顧客と少人数の顧客にどのようなメニューを提案すれば利益が増えるのか、改善策を検討できるだろう。やみくもに分析するのではなく、改善策が導き出せそうな仮説を持って分析することが重要だ。これはペリスコープを使う場合でも同様である。

(※)別の中小企業診断士から聞いた話だが、飲食店のビールはほとんど利益が出ないそうだ。卸・小売ともに、粗利率は数%にすぎない。ビールは客寄せ用であって、他のお酒などで利益を稼がないと絶対に赤字になる構造なのだという。

○アメリカ国防総省国防高等研究計画局のイノベーション DARPAの全貌:世界的技術はいかに生まれたか(レジナ・E・デュガン、カイガム・J・ガブリエル)
 プロジェクトの期間を定め(DARPAでは最長5年、ATAPでは最長2年)、プロジェクトが終了したリーダーを解任。契約ベースの業務プロジェクト実施担当者を増減しやすくして、多様性と機動力を確保するという方法は、従来型の社内研究部門より雇用の流動性が高い。だからこそ、幅広い分野から有能なチーム・メンバーを採用し、素早く軌道に乗せられるのだ。(中略)

 あるプロジェクトで、ATAPは5カ国の30の事業体(大学、部品供給業者、システム・インテグレーターなど)から、世界最高峰のコンピュータ・ビジョン(次世代の視覚情報処理)のエキスパート40人を集めて契約し、きわめて難易度の高い技術的課題を半年足らずで解決してみせた。もし正社員を募集したなら、40人のうちごく一部ですら雇えなかったと我々は確信している。雇用できたとしても、採用して業務に着手させるまで1年以上かかっただろう。
 アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が半世紀にわたって生み出してきたイノベーションは、私たちの生活と切っては切り離せないものばかりだ。インターネット、RISCコンピューティング、全地球測位システム(GPS)、ステルス技術、無人飛行機(通称「ドローン」)、微小電気機械システム(MEMS)―これらのイノベーションを、DARPAはいわゆる「オープン・イノベーション」で生み出してきた。オープン・イノベーションというと、P&Gの「コネクト・アンド・デベロップ」が有名だが、DARPAの取り組みはP&Gよりもずっと古い。

 最近は日本でもオープン・イノベーションが注目されているようだが、個人的にはオープン・イノベーションはあまり日本に馴染まないような気がする。アメリカでは、ある目的を達成するためであれば、社内のリソースを使おうと社外のリソースを使おうと関係ない、という風潮がある(アメリカではコンサルティングが一大産業になったのに対し、自前主義が強い日本企業はなかなかコンサルティング会社を使いたがらないのもこのためである)。大きな目的を持つ組織は、自らの目的を実現するために、他の組織を手段化してしまうことができる。

 一方、日本の場合は、それぞれの組織が独立・完結した多様な目的を持っている。だから、複数の企業が協業する際には、目的のコンフリクトが起きやすい。複数の目的を包括する大目標を設定できればいいのだが、そういうことは稀であって、そのような取り組みはたいてい、玉虫色の目的を設定するという妥協に終わる。和の精神を尊重する日本では、すぐに同業他社や関連会社が集まってコンソーシアムだの業界団体だのを作りたがる。だが、うまく行かないことが多いのはこのためだ。もしも、ある大きな目的のために複数の組織を束ねようとするならば、いわゆる系列のように、まるで1つの企業であるかのような強いつながりを醸成しなければ難しい。

 インドのジャイナ教には、「群盲象を評す」という伝承がある。6人の盲人が、それぞれゾウに触れて次のように答えた。足を触った盲人は「柱のようです」と、尾を触った盲人は「綱のようです」と、鼻を触った盲人は「木の枝のようです」と、耳を触った盲人は「扇のようです」と、腹を触った盲人は「壁のようです」と、牙を触った盲人は「パイプのようです」と。それを聞いた王は答えた。「あなた方は皆、正しい。あなた方の話が食い違っているのは、あなた方がゾウの異なる部分を触っているからです。ゾウは、あなた方の言う特徴を、全て備えているのです」。

 オープン・イノベーションは、多様性を活用する取り組みだと言われる。これを「群盲象を評す」の寓話を借りて表現するならば、アメリカにおけるオープン・イノベーションとは、足、尾、鼻、耳、腹、牙を触っている6人を1つに束ねる取り組みである。参加者は確かに多様であるが、「象を触っている」という根っこの部分ではつながっているのである。だから、多様なプレイヤーが一斉に集まっても、同じ目的のために協業することができる。

 日本も多様性のある社会だが、その多様性とはつまり、ある人は象を、ある人は牛を、ある人は馬を、ある人は鹿を、ある人は豚を、ある人は猪を触っているようなものである。したがって、複数の組織が協業することは容易ではないと思うわけだ。

 コンソーシアムなどに意味があるとすれば、コンソーシアム全体で何か1つの共通目標を成し遂げるというよりも、多様な目的を持ったメンバーが、言い換えれば多様な動物を触っているメンバーがまずは一堂に会し、お互いに様子をうかがいながら、自分と同じ動物を触っているメンバーを探しあてることにあるのではないだろうか?この場合、コンソーシアムは交流の場としての機能を果たすにすぎず、成果は同じ動物を触っているメンバー同士の強い結びつきに委ねられる。

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