プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年07月15日

D・クイン・ミルズ『ハーバード流人的資源管理「入門」』―経営戦略と人材育成計画を連動させる方法について


ハーバード流人的資源管理「入門」ハーバード流人的資源管理「入門」
D.クイン ミルズ アークコミュニケーションズ

ファーストプレス 2007-02-01

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 人的資源計画とは、人的資源に関する課題とそれへの対応である。人員不足の会社や事業環境の大きな変化が見込まれる企業は、人材ニーズを慎重に検討してその問題に対応する。人員不足は予想されるか。人材争奪戦は加熱しそうか。技術変革に伴い必要なスキルも変わってきているか。もしそうであれば、人的資源計画もそれにそって変えなければならない。
 著者はこのように書いているが、実は「どの企業も人的資源計画を立てなければならない」とまでは言い切っていない。世の中には人的資源計画を立てる企業と立てない企業の2タイプがあり、その違いは経営者の認識の違いによる、と述べている。ちょっと歯切れの悪い文章である。

 これは、アメリカの労働市場の特徴が影響しているのではないだろうか?アメリカの労働市場は流動性が高く、社内市場で調達できない人材は、比較的容易に社外市場で調達できると考えられている。よって、人材育成計画を立てなくても、いざ人材が必要になったら、その都度社外市場から獲得すればよいと思われているのかもしれない。

 これに対して、日本は労働市場の流動性が以前より高くなったとはいえ、未だに社内市場中心で動いている。必要な人材はできるだけ社内で育成する、という方針をとっている企業が多い。よって、人材育成計画を持たないと、経営戦略の実現に不可欠な人材を得ることができない。

 本書は入門書なので、人材育成計画の詳細な立案方法については残念ながら踏み込んでいない。具体的な事例としては、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2008年10月号に掲載されているボストン・コンサルティング・グループの論文「労働力の高齢化による2つのリスク 「超高齢社会」の人材管理論」(ライナー・ストラック、ジェンス・バイエル、アンドレ・ファーランダー)が参考になる。高齢者に限定された事例だが、将来の戦略の変化によって必要となる人材と、社員の高齢化に伴う人員減や生産性低下を予測して人材の需給ギャップを明らかにし、ギャップを埋めるための様々な対策を講じている。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2008年 10月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2008年 10月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2008-09-10

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 日本企業は人材育成計画を持つべきだと書いたが、これを実践できている企業は意外と少ないとの印象である。私の前職の会社は教育研修会社であり、人事担当者とお会いする機会も多かった。しかし、自社の戦略と紐づけて教育研修の必要性を語る方はどちらかというと少数派であった。漠然と「我が社はこういう方向性で動こうとしているから、こういうスキルを持った人材が必要だ」と説明することはできても、「我が社はこの市場に対してこの製品・サービスでいくらぐらいの売上高・利益を目指しているから、こういうスキルを持った人材が何年後までに何人ぐらい必要である」と明確に答えられる人は少なかった。

 前職では「事業戦略立案コンサルティング⇒人材育成計画策定コンサルティング⇒教育研修プログラム開発・提供」という一気通貫のサービスを志向していたが、実際にここまでできた顧客企業は本当に少ない。手前味噌ではあるが、その中で不完全ながらも一気通貫型に近いサービスを提供できた事例を1つ紹介したいと思う。

■顧客企業の概要:
 中堅のSIer。競争激化に伴う売上高・収益率の低下をカバーするために、従来の「ソリューション提案」に加えて、顧客企業にとってより付加価値の高い「コンサル提案」という新しい提案スタイルを開発した。ソリューション提案では、顧客企業からのRFPに沿ってパッケージソフトやハードウェアなどを提案していたのに対し、コンサル提案ではRFPよりも前の段階から顧客企業とのリレーション構築を行い、顧客企業の経営課題を分析して、経営課題の解決に貢献する複合的なソリューションを提案することを目指していた。コンサル提案によって、受注率や粗利率の向上、1件あたり受注金額の増加が期待されていた。

■顧客企業からのリクエスト:
 (1)営業部門に所属する約770名の営業担当者に、コンサル提案を3年ほどで浸透させたい。
 (2)コンサル提案の手法を身に着けた営業担当者=「コンサル営業」を4つぐらいのレベルに分けて育成したい。具体的にはLevel1~3と、Level3の中でも特に優秀な営業担当者=Level3★の4つとする。半年ごとの評価で、Level3のうちLevel3★に相当する実績を上げた営業担当者には、特別報酬を与えたい。Level3★に認定されなかった場合はLevel3のままとする(この点がややイレギュラーな要求であったが)。
 (3)3年後には、Level2以上の営業担当者数を全体の40%以上、Level3(Level3★を含む)の営業担当者数を全体の10%以上としたい。
 (4)現在の営業部門の売上高は約1,150億円、粗利率は約18%であるが、3年で売上高を約100億円増やし、粗利率を20%台に乗せたい。

■コンサルティングで実施した内容:
 (1)「3年後には、Level2以上の営業担当者数を全体の40%以上、Level3(Level3★を含む)の営業担当者数を全体の10%以上としたい」というリクエストに従って、3年後の各Levelの目標人数を設定した。その上で、3年後にその目標人数に到達するために、半年ごとの評価で何人ずつぐらいLevelアップさせればよいのかをシミュレーションした。

経営戦略と連動した人材育成計画(1)
経営戦略と連動した人材育成計画(2)

 (2)「3年で売上高を約100億円増やし、粗利率を20%台に乗せる」という目標を達成するためには、各Levelの営業担当者のコンサル提案実施件数、受注率、1件あたり受注金額、粗利率をどの程度に設定すべきか、シミュレーションを繰り返した(下図の黄色のセルの数値をいろいろと変えながら、(1)と(2)は同時並行的に進めた)。

経営戦略と連動した人材育成計画(3)

 (3)上記シミュレーションに沿って営業担当者をLevelアップさせるために、各Levelの営業担当者向けにどのような内容の研修を何回実施すればよいのか、計画を立てた。
 (4)(2)で導かれた各Levelのコンサル提案実施件数、受注金額などの目標値をベースに、半年ごとの評価で用いる評価指標・評価基準を設定した。

■課題:
 (1)「3年で100億円の売上増」という戦略の妥当性について十分な検証ができなかった。100億円という数値の根拠は何か?どんな基準で市場をセグメンテーションするのか?(顧客企業の業種、売上規模、社員数など)そのセグメントのうち、重点的に攻めるのはどこか?何のソリューションの提案に力を入れるのか?といった論点に十分答えないまま、作業を進めてしまった。

 (2)4つのLevelの違いがコンサル提案件数や受注金額などといった数値面にとどまっており、違いが曖昧になってしまった。例えばLeve1=既存小口顧客、Level2=新規小口顧客、Level3=既存大口顧客、Level3★=新規大口顧客といった役割分担も考えられただろう。

 (3)クライアントは「コンサル提案をすれば売上高、粗利率が上がる」と考えていたが、この点も十分に議論すべきだった。前述の試算によると、コンサル提案の1件あたりの受注金額は、ソリューション提案の2倍も必要である。加えて、粗利率、受注率も大幅に向上しなければ、3年後の経営目標を達成できない。だが、提案手法を変えただけで、これほどまでの劇的な変化が本当に期待できるのか?提案手法と合わせて、商材の見直しも必要だったのではないだろうか?

 (4)研修と評価制度をデザインすることが中心となってしまい、コンサル提案を現場で実施しやすくするための業務プロセスの整備や組織変革などのソリューションを提案することができなかった。このため、「研修を受講しても現場で実践できない」といった声がしばしば聞かれた。

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