プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年07月21日

『日本企業の組織と戦略―新ミドルマネジメントへの期待(一橋ビジネスレビュー2014年SUM.62巻1号)』


一橋ビジネスレビュー 2014年SUM.62巻1号: 日本企業の組織と戦略一橋ビジネスレビュー 2014年SUM.62巻1号: 日本企業の組織と戦略
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-06-13

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 本号では、一橋大学イノベーション研究センターが2004年度から10年近い期間にわたって実施してきた、日本企業の事業組織における戦略と組織に関する5回の調査(組織の<重さ>調査)について、様々な角度から分析が行われている。組織の<重さ>を構成する要素は以下の4つである。そして、組織の<重さ>と業績との間には、負の相関が見られるという。

 (1)過剰な『和』志向
 組織が機能するには、適度な「和」は必要だが、過剰になると、一人でも反対意見が出れば議論がまとまらなくなるといった事態を招き、必要な議論すら敬遠されてしまう。また、変化を拒み、現状維持への志向が強くなる。

 (2)内向きの合意形成
 製品市場でライバル企業よりも優位に立つには、顧客を重視し、ライバル企業の動向を注視しなければならない。ところが、組織内部の事情が優先されると、この最も重要な部分がおろそかになり、製品市場で有効な手段を講じることができなくなってしまう。

 (3)フリーライド(ただ乗り)
 評論家のように口は出すけれど責任はとらない。チームの一員としてやるべき仕事であっても、どこか他人事のように考えている。こうした社員が多いと、組織を動かそうとすると多大な労力を必要とする。

 (4)経営リテラシー(基本的な考え方)の不足
 経営に関する基本的な考え方が理解できていない管理職が多いと、問題解決につながらない方策が打ち出されたり、誤って理解されたりして、的外れな方向に組織が動いてしまう。

組織の“重さ”―日本的企業組織の再点検組織の“重さ”―日本的企業組織の再点検
沼上 幹 加藤 俊彦 田中 一弘 島本 実 軽部 大

日本経済新聞出版社 2007-08

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 最近は、経営の新しい潮流としてマネジメントやマーケティングよりもリーダーシップやイノベーションが重要視され、それを実現するための組織形態として、従来の機能的・官僚的組織に対し有機的組織の有効性が主張されている。ところが、本号の分析によれば、こうした新しい潮流に乗ったとしても、必ずしも企業が業績を高められるわけではないことが明らかにされている。

 (1)リーダーシップ論によれば、ミドルマネジメントは部下に対してビジョンや理念をはっきりと示し、ビジョンを通じて部下を鼓舞することが重要だとされる。しかし、調査結果からは、ビジョンよりも事業戦略を示した方が効果的であることが解っている。また、部下が事業計画をいつでも参照できるようにし、さらには事業計画を日常業務における目標に細かくブレイクダウンして、目標達成に対してちゃんと報いる組織の方が、高い業績を上げているという。

 (2)官僚的組織の特徴であるルーティンや標準化は創造性を駆逐し、イノベーションを妨げると言われる。ところが、近年はルーティンがあるからこそ柔軟性が発揮されるという主張が現れ始めている。そもそも、完全無欠なルーティンなどというのは存在しない。現場の人々はルーティンがうまくいかない時に、それを学習の機会として活用しやすいように設計していく。また、一見表面的な静的構造の側面では硬直的に見えるルーティンも、それが実演されている動的な測面では柔軟性に満ちているとの指摘もある。

 (3)リーダーシップを発揮する上では、組織の公式なコミュニケーション系統に頼るのではなく、組織図上の明示的なつながりを超えた非公式なコミュニケーションをとることが不可欠だとされる。地位に付属する権威にとどまらず、非公式な手段で影響力を発揮することで、広く組織のメンバーを変革に巻き込むことができるというわけだ。だが、調査によれば、非公式なコミュニケーションが増えると組織の<重さ>が増大し、業績を阻害する。むしろ、公式な階層間で活発に情報がやり取りされている方が、事業組織は円滑に運営されている。そこでやり取りされる情報とは、(1)とも関連するが、事業計画に関する細かい情報である。

 (4)イノベーションを重視する立場からは、現場に近いミドルマネジメントに戦略立案の権限を委譲し、ミドルマネジメントのリーダーシップをもっと引き出すべきという主張が出ている。しかし、意外なことに、ミドルマネジメントの自律的な戦略的イニシアチブは必ずしもプラスに作用しない。むしろ、組織成果に対する負の影響も確認されている。(1)で見た通り、ミドルマネジメントが戦略に関して部下と十分に情報交換することは重要であるものの、ミドルマネジメント自身が戦略を立案することについては、積極的に評価することができない。

 マネジメントとリーダーシップ、マーケティングとイノベーションの違いについては、これまでにブログでいろいろと書いてきたが、マネジメントとリーダーシップ、マーケティングとイノベーションのどちらが重要なのかについては、私の中でも見解が揺らいでいた。

 例えば、「【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(上)』―戦略立案の客観的アプローチと主観的アプローチ(1)(2)」では、ドラッカーの戦略観について、リーダーシップ的な要素が不足しているのではないか?と疑問を投げかけた。また、旧ブログでは、「P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』」などでP&Gについて頻繁に取り上げ、イノベーションを組織のプロセスに組み込むことが重要ではないか?と考えたこともあった。「『理想の会社(DHBR2013年12月号)』―私が考える「よい会社」の条件(約150個)」で挙げた条件にも、イノベーションやリーダーシップに関するものが数多く入っている。

 だが、組織運営の基本はマネジメントとマーケティングであり、リーダーシップやイノベーションはあくまでも例外ととらえた方がいいのかもしれない。基本がしっかりしていなければ、何が例外なのか見定めることができない。「20%ルール」を導入してイノベーションに積極的に取り組んでいると言われるgoogleでも、見方を変えれば、イノベーションのために社員が使える時間は20%にすぎない。残り80%は本業のマネジメントにいそしんでいるわけだ。

 私の前職の研修会社では、ミドルマネジメント向けにリーダーシップ研修を販売していたが、顧客企業の人事担当者からは、「リーダーシップ以前に、業務のPDCAサイクルを回すといったマネジメントができていないマネジャーが多い」という声をたくさん聞いた。また、経営スキル研修などを提供していた顧客企業内では、「これからは創造力を活かしたイノベーションが重要だ」と主張する経営幹部層と、「顧客のニーズを丹念に拾い上げるマーケティングができていない」と嘆く現場サイドが対立することもあった。

 アメリカからは、リーダーシップやイノベーションを重視する経営メソッドが日本に流入している。しかし、これは日本企業の目をマネジメントやマーケティングから逸らし、日本企業の弱体化を狙ったアメリカの高度な陽動作戦かもしれない、と勘繰るのは行きすぎであろうか?日本企業は基本に立ち返って、マネジメントとマーケティングによって堅牢な組織を作り上げなければならない。

 《補足》
 もう1つ、本号の調査から見えてきた重要な事実を補足しておく。調査によれば、経営環境要因の中でも、製品ライフサイクル段階、競合企業数、競争相手の地理的多様性(海外を含む)と、収益水準や他社との比較優位性との間に強い相関関係は全く見られないという。

 一般論で言えば、成長期にある事業は売上高が急増する反面、続々と参入してくる競合他社への対策にコストがかかるため、収益は低水準にとどまる。これに対して、成熟期にある事業は、売上高の伸びこそ鈍化するものの、競合他社が自然淘汰されて寡占化が進み、マーケティング投資がそれほど必要でなくなるため、高い収益を上げられる。

 しかしながら、今回の調査は、そういう外部環境のパラメータが企業の収益とは無関係であることを示している。競争優位性は、外形的な経営環境の相違や市場地位の相違によって、必ずしも明らかにできない。これは言葉を変えれば、企業の業績は経営の仕方によっていかようにもなるのであって、たとえ業績が悪化してもそれを環境のせいにしてはいけない、ということだろう。

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