プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年09月09日

果たして日本企業に「明確なビジョン」は必要なのだろうか?(2/2)


 (前回の続き)

 日本企業の社員は、「経営陣が明確なビジョンを持っていない」、「会社がどういう方向に向かっているのか解らない」と不満を漏らすことが多い。しかし、今までの議論を総合すれば、これこそ日本企業の正常な状態なのであり、何も心配することはない。こう書くと、以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第1回)】経営ビジョンのない思い入れなき経営」と矛盾しているのではないかと思われるかもしれないう。確かに、前職の会社には明確なビジョンがなかった。だが、前職の経営陣は現在に対しても不誠実であった。こに問題の本質があると思う。

 前職の会社には、シニア社員向けのキャリア開発研修というサービスがあった。これは、中高年社員の再雇用・雇用延長などが問題になることを先取りした研修であった。ところが、いつまでも売上が立たないので、マーケティングを兼務していた私はしびれを切らして「この研修をどうするつもりなのですか?」と社長に問いただしたことがあった。すると、「8年後ぐらいには売れるようになるんじゃない?」などという呑気な答えが返ってきた。かといって、その8年間を埋める手立てもない。社長には、8年間必死で食いつなぐ姿勢があまりにも欠けているように感じた。

 明確なビジョンを設定し、明確なプランを策定するという企業経営に対するアメリカ人の考え方は、個人のキャリア開発にも反映されている。企業の経営戦略と個人のキャリア開発は非常によく似ている(以前の記事「リチャード・モリタ『これだっ!という「目標」を見つける本』―キャリアデザインと戦略立案のアナロジー」を参照)。キャリア開発は、ビジョンや戦略の個人版を作ることだとも言える。アメリカ人は、人生のビジョン、人生のゴールをはっきりと意識し、そこから逆算して人生のプランを設計する。

 以前、『週刊ダイヤモンド』2014年7月5日号の「野村證券 リテール改革の真贋」を読んでいたら、野村證券は長年メリルリンチを改革の手本にしているとあった。メリルリンチは、顧客がどういう人生を送りたいのかというビジョンを描き出し、そのビジョンの実現に必要な資金を算出する。その上で、目標とする資金が得られるような最適な金融商品を提案するらしい。いかにもアメリカ的な発想である。これに対して野村證券の営業担当者は、顧客に次から次へと新しい金融商品を提案し、”乗り換え”を促す。乗り換えによって得られる販売手数料が、彼らのノルマになっているからだ。ある意味、現在を生きることしかできない日本的なやり方である。

週刊ダイヤモンド2014年7月5日号[雑誌]週刊ダイヤモンド2014年7月5日号[雑誌]

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 アメリカ人の一般的なキャリア開発に対しては、疑問の声がないわけではない。例えば、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツは「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」というものを提唱している。クランボルツによれば、個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定されるという。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアをよいものにしていこうという考え方である。簡単に言えば、今を必死に生きることで、偶然を味方につけるということだ。クランボルツは、クリントン元大統領の娘が大学の卒業式のスピーチで、将来の綿密なキャリアプランを披露したことに対して、苦言を呈したことがあった。

 とはいえ、クランボルツの考え方はアメリカ人にとって一般的ではない。大部分のアメリカ人は、クリントン元大統領の娘に賛同する。計画的偶発性理論は、日本人の方が親和性が高い。キャリア開発論を専門とする金井壽宏氏は、「キャリアドリフト」という概念を提唱している。金井氏は決して、キャリアプランの有用性を否定はしない。むしろ、人生の節目ぐらいはキャリアプランを策定しようと述べている。だが、そのプランにとらわれず、プランはあくまでも大まかに策定して、後は環境や時の流れに身を任せようというのが、キャリアドリフトの意味するところである。

 日本人はアメリカ人のように明確なキャリアプランを持つことができず、キャリアドリフトをしながら生きるしかない。ならば、日本人が集まった日本の組織もまた、ドリフトをしながらマネジメントするしかないのではないだろうか?個人はドリフトすることが許されるのに、組織に対しては明確なビジョンを要求するのはちょっと酷な話である。

 企業に明確なビジョンがないことを嘆くのは止めよう。明確なビジョンがないことが普通なのだと捉えよう。その代わり、今この時を必死に生きなければならない。今の自分に何ができるのか?それをもっとよい方法で行うことはできないのか?ということを厳しく問う必要がある。そうすれば、組織も個人も、事態を好転させる偶然を味方に引き込むことができるに違いない。

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