プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年09月19日

『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて


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○どうすれば真のグローバル化を実現できるのか 保護主義化する世界で戦う8つのルール(イアン・ブレマー)
 国家資本主義(ステート・キャピタリズム)は自由市場の働きをゆがめ、ひいてはグローバル化を大きく様変わりさせるおそれがある。しかしこれが、ロシア、インド、ブラジルなど、中国以外の新興国市場で支持されつつある。

 こうした国々のリーダーは、経済の発展と生活水準の向上のためには自由市場がきわめて重要な役割を果たすと理解している。それゆえに独裁政権や腐敗した政府が権力保持に役立つと身をもって知っているのだ。しかし、どの企業が勝つかを市場任せにしたら、みずからが政治的な力を失うおそれがあることも認識している。なぜなら、雇用創出や市民の生活水準をコントロールできなくなるからだ。そればかりか、はからずも彼らの権力に疑問を抱く市民を豊かにしてしまう可能性もある。

 国家資本主義の目的は、公共部門の企業と政府に忠実な企業を通じて政府が主導権を握り、市場が創出する富をコントロールすることだ。
 昔、「『島井宗室』―政治と密着しすぎた事業はもろい」という記事を書いたのだが、この見解は改める必要があるかもしれないと感じた。新興国市場に進出するためには、単に市場を深く理解するだけでなく、政治の流れを把握し、当局の人たちともリレーションを構築しなければならないことは今や常識となっている。政治と密着したビジネスは確かにもろいけれども、政治と密着しなければ新興国で事業を展開することはできない。

 新興国に比べれば、日本は政治的にはるかにクリーンであるから、経営は政治から独立していればよいと思われるかもしれない。ところが、日本企業の今後のポジショニングを考えると、実は日本でも政治や行政との関係がますます深くなるような気がする。

 以前の記事「『自分の花を咲かせる(『致知』2014年7月号)』―「住するところなきを、まず花と知るべし」(世阿弥)、他」で、日本企業は「壊れたら人が死ぬという製品」、「ミスがあったら人に危害が及ぶというサービス」にフォーカスすべきだと書いた。日本人の丁寧さ、精緻さ、謙虚さ、チームワークによる擦り合わせなどといった強みは、このような分野でこそ威力を発揮する。

 逆に、壊れても人が死なない製品は、中国などの新興国企業が安価に製造できるので、日本など先進国ではとても太刀打ちできない。アメリカだけは例外的に、壊れても人が死なない製品をイノベーションによって創り出すことに長けており、新興国の低価格戦略に対抗することができる。しかし、これはアメリカだからできる芸当であって、日本にはおそらく真似できない。

 失敗すると命にかかわる製品・サービスは、イノベーションのような派手さはない。しかし、高い品質基準が要求される必需品であるから、安定した市場があるし、何よりも日本の強みを十分に活かすことができる。逆に、失敗しても命にかかわることがない製品・サービスに日本の強みを適用すると、例えば機能過多の家電のように、顧客のニーズとかけ離れたものができてしまう。

 失敗すると命にかかわる製品・サービスは、市場競争によってプレイヤーが自由に出入りすることを許すわけにはいかない。また、参入してきたプレイヤーに対しても、国民の命を守るという目的で、様々な規制が課せられる。したがって、こうした製品・サービスで勝負するためには、プレイヤーの選定やルールの策定に大きな影響力を持つ政治家と、実際の選定作業やルール作りを行う行政をいかに味方につけるかがカギとなる。

 伝統的な「3C分析」や「ファイブ・フォーシズ・モデル」には、このような視点はなかった。だが、3C分析には政治(Politics)と行政(Administration)という新しい枠を入れて「3C+PA分析」とするべきかもしれないし、ファイブ・フォーシズ・モデルにもこの2つ(政治の影響力、行政の影響力)を入れて「セブン・フォーシズ・モデル」と変えるべきなのかもしれない。顧客のニーズに応えるだけでなく、彼らのニーズも十分に検討することが求められる。

 日本企業は、失敗すると命にかかわる製品・サービスで、海外市場も狙うだろう。その際、日本企業を受け入れる外国側の立場に立てば、自国の国民の生命を日本企業に委ねようというわけだから、より一層厳しい政治の監視下に日本企業を置き、厳しい規制を適用するに違いない。よって海外市場では、日本以上に政治家や行政との関係が重要になると考えられる。

 だが、日本企業が全て、失敗すると命にかかわる製品・サービスで勝負するわけではない。限定的だが、失敗しても命にさほど影響のない製品・サービスで勝負する企業もある。典型的な例が、アニメなど文化やクリエイティビティを売りとする企業であろう。ストーリーに多少誤りがあっても、画風が多少雑であっても、視聴者の評価は下がるかもしれないが、人が死ぬわけではない(アニメ業界のクリエイターは、命に危険が及ぶほどの過酷な労働環境下にあるようだが)。

 ここで1つポイントになるのは、クリエイティビティがカギとなる製品・サービスは、強い信念を持つ作り手と、それに深く共感する人々が集まって、非常に排他的なコミュニティを形成している、という点である。コミュニティのメンバーには製品・サービスのよさが痛いほど解るのに対し、コミュニティの外部の人には、その製品・サービスのどこがよいのかさっぱり解らない。

 私はコミケに50万人も集まる理由が全く解らないし、AKB48に多くの人が熱狂的になる理由も全く解らない。一方、私は水曜どうでしょうという北海道テレビのバラエティー番組が大好きなのだが、興味がない人には私がその面白さをどんなに説明しても全く解ってもらえない。しかし、祭りをやれば何万人もの藩士(=どうでしょうファンのこと)が全国から集まるくらい、藩士は強い心理的ネットワークでつながっている(と説明しても、解らない人にはなしのつぶてである)。

 これが何を意味するのかと言うと、クリエイティブな製品・サービスについては、成功要因を外部から分析することが非常に難しい、ということだ(コンサルタントなら頑張って分析しろと言われそうだが)。以前紹介した久繁哲之介氏の『商店街再生の罠』という本では、商店街活性化に取り組む行政の人が、何かにつけて他県の成功事例を視察しては真似したがると書かれていた。

 事例好きは行政の人に限った話ではなく、一般的に言って日本人は事例が大好きである。例えば、新製品を持って営業に行くと、「他の企業での導入事例はあるのか?」と聞かれる。他社が導入した製品・サービスでなければ、怖くて自社に導入できないようだ。しかし、クリエイティブな製品・サービスに関しては、この手が通用しない。安易に模倣しようものなら、顧客には二番煎じと映ってしまう。クリエイターにとって、二番煎じと言われることほど辛いものはないだろう。


《追記1》
 医療機器業界は今後成長が見込める分野の1つであり、国内売上高が2.4兆円にも上る。だが、内訳を見ると、国内生産額は1.8兆円、そのうち輸出が0.5兆円であり、実は輸入が1.1兆円もあることを関東経済産業局の方から教えてもらった。しかも、医療機器業界は品数が30万ぐらいあるニッチ市場の集合体であるから、中小企業にも参入のチャンスがあるという。欧米からの輸入品には、性能や操作性の面で改善すべきポイントが多々あり、中小製造業の技術力を持ってすれば、十分に競争できると主張していた。

 と同時に、「顧客のニーズを聞きすぎて、ニッチすぎる製品を作ってしまうことには注意しなければならない」とも忠告していた。顧客である大学の教授から「こんな製品を作ってほしい」と言われて作ったものの、実はその教授が個人的にほしかったにすぎない、という例が散見されるそうだ。

 《参考》
 医工連携による医療機器事業化ガイドブック

《追記2》
 先日、台東区谷中にある澤の屋という旅館のことを教えてもらった。昔は東京の他の旅館と同様に修学旅行生を相手にしていたものの、修学旅行の減少と目的地の多様化により、事業の継続が難しくなった。そこで、ターゲットを「東京にやって来る外国人観光客」に変更した。この思い切った方向転換が功を奏し、今までに利用した外国人は100か国、のべ15万人に上るそうだ。

 澤の屋の「おもてなし」が外国人観光客から高く評価されていることもさることながら、彼らが最も喜ぶのは、客室の窓から見える「谷中の町並み」なのだという。どんなに素晴らしい景色が見えるのかと写真を見せてもらったが、日本人からすれば、至って普通の景色である。普通の日本人が普通の住宅から見る近所の風景とさして変わらない。しかし、そういう景色に外国人観光客は旅情を感じるというのだ。これも、他人の好みは容易には理解しがたい一例かもしれない。

 本文で「水曜どうでしょう」に触れたが、同番組の「ヨーロッパ20カ国完全制覇完結編」で、どうでしょう班がスペインのアルコス・デ・ラ・フロンテーラにあるパラドール(古城などを改装した半官半民の宿泊施設)に泊まり、白い建物が並ぶ町並みをバルコニーから眺める、というシーンがある。あの風景は視聴者目線から見ても美しいなぁと思うのだけれども、ひょっとしたらヨーロッパ人にとってはそんなに驚くような景色ではないのかもしれない。人の好き・嫌いに依存するビジネスは、何が顧客の琴線に触れるのか予測することが本当に難しい。

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