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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年12月03日

フィリピンビジネス基本情報(メモ書き)


 以前、「ミャンマービジネス基本情報(メモ書き)」という記事を書いたが、今回はそのフィリピン版。フィリピンに駐在している中小企業診断士の方が一時帰国されていたので、いろいろと話をうかがうことができた。

 《参考》
 フィリピン共和国 Republic of the Philippines|外務省
 フィリピン|Wikipedia

 (1)現在のフィリピンは、1966年頃の日本と同じ経済水準にあると考えてよい。人口は2014年8月に1億人を突破した(日本の人口が1億人を突破したのは1966年)。また、1人あたりGDPは2,791ドルである(1966年の日本の1人あたりGDPは約2,500ドル)。一般に、1人あたりGDPが1,000ドルを超えるとオートバイなどが普及し始め、3,000ドルを超えると家電などの耐久消費財が普及し始める。そして、5,000ドルを超えると自動車の普及が始まると言われる。

 フィリピンの平均年齢は22歳と非常に若く、人口ピラミッドはきれいなピラミッドの形をしている。実は、タイやインドネシアは若年層の割合が低下し始めており、2030年頃から労働力人口が減少すると予測されている。この点、フィリピンでは心配なさそうだ(ちなみに、ベトナムもフィリピンと同じく、平均年齢が低くて人口ピラミッドがきれいな形をしている)。

 (2)フィリピンのGDPは約2,720億ドル(2013年)。内訳は農林水産業14%、鉱工業32%、サービス業54%となっている。特に、高い英語力を背景としたBPO(Business Process Outsourcing)が盛んである。また、GDPの約1割は、海外に出稼ぎに出ている労働者からの仕送り(OFW:Oversea Filipino Workers)で賄われている。送金元の内訳を見ると、アメリカ4割、中東2割となっており、日本、シンガポール、イギリス、カナダ、香港と続く。

 フィリピンの失業率は7.1%と決して低くはない。一方で、国内での仕事よりも、給与が高い海外へと人材が流れている。ということは、フィリピン人の間で所得格差が拡大していると推測される。事実、フィリピンのジニ係数は0.460と高い(日本のジニ係数は0.329)。一般的に、ジニ係数が0.4を超えると、デモや暴徒化など社会騒乱が起きるレベルと言われている。

 最近の出稼ぎ労働者にとって人気が高いのは、英語がある程度通じて、金払いがよいドバイなどの中東らしい。中東に限らず、フィリピン人は世界中に広まっている。だから、フィリピン行きの飛行機に乗ると、見知らぬフィリピン人同士が、「あなたはどこへ行ってきたの?」、「私はイタリアだよ」、「そうですか、私はスペインですよ」など会話していることがあるという。ただし、彼らは華僑のような強いネットワークを持たず、海外で何か政治力を発揮しているわけではない。

 (3)他のASEAN諸国と同様、フィリピンの人件費も高騰している。ワーカークラスはそれほどでもないが、マネジャークラスが急上昇している(以前の記事「ASEAN諸国(ブルネイを除く)の平均賃金の推移(2008年~2013年)」を参照。ただし、この記事では、ワーカーもマネジャーもそれほど急上昇しているようではなかった)。採用面接で候補者と意気投合したはずなのに、最後の最後で条件面の話になった途端に、相手の態度が急変したことが何度もあったらしい。

 海外に進出する際には、将来的な人件費の上昇を見込んだ進出計画・事業計画を立案しなければならない。また、進出した後も、社員の給与水準と、世間相場には常に目を光らせておく必要がある。進出した当時は平均以上の給与を支払っていたのに、数年後には平均以下になっていたということもありうる。そうすると、社員は好条件の職場にさっさと転職してしまう。

 (4)フィリピンには、メガバンクのうち、三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行が進出している。三井住友銀行も進出の計画がある。海外に進出する際には金融機関のサポートを上手く活用するとよいのだが、MUFGやみずほを使うためには、同行に国内で口座を持っていることが条件となっている。残念ながら、中小企業には敷居が高い。

 そこで、フィリピンへの進出を検討している中小企業は、フィリピンの3大メガバンク(BDO、BPI、Metrobank)のうち、BDOを利用するとよい、と教えていただいた。フィリピンの銀行の多くは財閥系であるのに対し、BDOの会長は、小売・銀行・不動産グループのSMインベストメンツを作り上げたヘンリー・シー氏であり、中小企業の経営を肌身で感じてきた人物である。ジャパンデスクも常設されており、日本人スタッフも何人かいる。

 (5)1億人という市場規模、英語が通じるという利点などがあるにもかかわらず、フィリピンは他のASEAN諸国に比べると、意外と注目度が低い。最近は、タイやミャンマーなどに話題を持って行かれている。お話をうかがった中小企業診断士の方は、「フィリピンは治安が悪い」というイメージが先行しているせいではないか?と分析されていた。日本人が海外で殺人事件に巻き込まれるケースは、年間約15件ある。そのうち約半分はフィリピンで発生している。

 人口10万人あたりの殺人発生件数(2011年)を見ると、日本は0.35だが、フィリピンはその約15倍の5.39となっている。ただし、フィリピンのこの数字は、世界約200か国の中では中位に位置する。危険度で言えば、ブラジルなどの方がよっぽど危ない(ブラジルの殺人率は日本の約51倍らしい)。とはいえ、日本よりはるかに数字が高いのは事実なので、十分に注意しなければならない。殺人の原因は、金と女をめぐるトラブルである。この中小企業診断士の方は、部下の日本人に「もし金と女で揉めたら、すぐに知らせるように。日本に帰すから」と伝えている。

 (6)フィリピン人はお米が大好きである。日本でフィリピン人を交えて飲み会をすると、ビールで乾杯しようとする日本人を見て、「ビールよりもお米が食べたい」と言い出すのがフィリピン人である(ただし、フィリピンは米の純輸入国である)。

 大阪のあるラーメン店がフィリピンに進出しようとした際、その店は「うちはご飯を出さないのがポリシーだ」と言い張ったためか、現地パートナーとの折り合いがつかず、結局は進出が白紙になってしまったのだという。一方、フィリピン人のお米好きに注目してフィリピン進出を決めたのが、天丼てんやを展開するロイヤルホールディングスである。同社は、フィリピンで獲れる良質な材料とご飯を組み合わせた新メニューを検討しているという。この中小企業診断士の方は、「現地のニーズにまさに合致しており、きっと流行るだろう」と予測していた。


《追記》
 本文とは全く関係のない余談。一緒に話をしていた人の中に、昔の新日鉄を知る人がいた。かつての新日鉄には、「掛長(かけちょう)」という職位があったそうだ(今はもうなくなったらしい)。係長に相当するのだが、通常の企業の係長とは違って、掛長には簡単に会うことができない。

 掛長に用事がある取引先は、始業と同時に新日鉄の受付に行って、掛長専用の「台帳」に社名と自分の名前を記入する。掛長に会いたがっている人は毎日何十人といるので、2時間も3時間も待たなければならない。それだけ待っても、掛長と話ができるのはせいぜい10~15分程度である。まるで、今の大病院のようである。国益の根幹をなす鉄を預かっていた新日鉄は、「我が社が鉄を売らせてやっている」という自負心があったのだろう。

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