プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年12月08日

エドワード・デ・ボノ『デ・ボノ博士の会社を伸ばす発想法』―組織に学習を埋め込む仕組みについての本


デ・ボノ博士の 会社を伸ばす発想法デ・ボノ博士の 会社を伸ばす発想法
エドワード・デ・ボノ 青木 栄一

講談社 1981-12

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 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2014年11月号の特集が「創造性VS生産性」ということだったので、これに関連して創造性に関する本を読んでみた。といっても、かなり古い本(引っ越し作業の時に出てきた)。著者のエドワード・デ・ボノは「水平思考(Lateral thinking)」、「6色ハット発想法」の提唱者である。本書では創造的なアイデアのことを「オポチュニティ」と呼んでいるが、その定義はDHBR2014年11月号と同様に、かなり広い。
 オポチュニティとは、実現の可能性があり、明らかに追求してみる価値がある、一連の行動である。
 そして、オポチュニティが魅力的かどうかは、利益につながるかどうかで決まるとされている。そういう意味では、顧客価値の増大や企業利益の増加を目指す経営改善活動は全てオポチュニティと言える。よって、クリエイティビティという言葉から一般に連想されるものよりは、ずっと範囲が広い。本書の後半では、オポチュニティを導き出すのに役立つ水平思考の方法が20ほど紹介されている。だが、私が本書で重要だと思ったのは前半部である。前半では、社員が皆オポチュニティの追求と実現を目指すような組織的な仕組みをどのように構築するかが論じられている。

 著者は、全社的なオポチュニティ探索の仕組みに必要な4つの要素を挙げている。
 (1)オポチュニティ監査
 管理職は1年に1回、自分のオポチュニティ探求空間を検討して、そこにどんなオポチュニティを発見できるか、調査するよう求められる。さらに、正式な報告書の作成を求められる。

 (2)オポチュニティ・マネジャー
 マネジャーは、オポチュニティ探求の方向を決めることはせず、大きな枠組を設けて、管理職がその中でそれぞれ自由に方向を選択できるようにする。そして、オポチュニティ監査を推進し、報告書を集める。次に述べるオポチュニティ・チームに対しても、幹事ないし運営責任者の役を進める。

 (3)オポチュニティ・チーム
 オポチュニティ監査で出されたオポチュニティ目標を、このチームが下調査し、総合し、評価を下す。そして、特別予算から経費を支出して然るべきオポチュニティの開発を進めさせたり、研究開発部やマーケティング部門などにオポチュニティの採用を推進することもある。また、オポチュニティ監査を行っている個々の管理職から要求があった場合、必要な情報や連絡や運営上の援助なども提供する。

 (4)オポチュニティ作業グループ
 この作業グループは他のどんな作業グループとも違いはなく、プロジェクトに応じて設置され、特定のオポチュニティに取り組む。個々の管理職がオポチュニティ・チームから多少の援助を受けても、自分のオポチュニティ監査で生まれたある特定のオポチュニティが手に負えないようなときに、オポチュニティ作業グループは設けられる。
 言い換えれば、毎年1回、現場のマネジャーは経営改善につながるアイデアを報告する。オポチュニティ・マネジャーが率いるオポチュニティ・チームは、それらのアイデアを精査し、やってみる価値が高いもの、費用対効果が大きいものを選別する。そして、提案者に対して特別予算の中から資金を提供し、アイデアを具現化させる。オポチュニティ・チームは現場での実行を支援するが、何らかの事情で遂行が難しい場合は(本業とのシナジーが薄く、アイデアの実行が本業を著しく圧迫する場合など)、オポチュニティ作業グループが立ち上げられて、作業を引き取る。

 日本企業も「提案制度」などを設けているが、形骸化しているケースも少なくない。「提案1件につき○○円の特別手当を与える」などの工夫はしているものの、良質の提案が上がってこないと嘆く経営者もいらっしゃる。私は、現場から提案が上がってこないのは、アイデアを検討するのに必要な予算が欠けているからではないかと思う。タダでアイデアを考えることはできない。ちょっとした市場調査をしたり、競合他社の製品を購入してみたり、大学の教授に教えを請うたりと、何かとお金がかかるものだ。著者は、オポチュニティ・チームの予算について次のように述べている。
 予算は2つに分けられるだろう。1つは事務経費で、管理費、事務員給与、コンサルタント報酬などである。もう1つは管理職への”補助”費で、管理職が自分のオポチュニティ探求空間の枠内で自由にイニシアチブを発揮できるように経費を援助する。(中略)これが最も重要な点である。オポチュニティ・チームが単にオポチュニティ提案を各部門に勧告することしかできないならば、オポチュニティ探求訓練は意味がない。
 本書を読んで思い出したのが、P&Gの事例である。P&Gは、常に各部門に対してマーケティングのアイデアを考えさせている。社内には、アイデアを実験するためのラボもある。会社中から挙がってくるアイデアは、独立委員会で評価される。特定のアイデアの実行が決まると、その中身と最もシナジーが深い部門(通常は提案した部門)が責任部門となり、プロジェクトチームが結成される。P&Gでは、どの部門にも、新しいアイデアを試すための予算があらかじめ与えられている。よって、プロジェクトの資金はその予算から捻出される。

 ただし、中にはどの部門ともシナジーが薄い画期的なアイデアもある。その場合は、本社が管理するファンドから資金が提供され、独立チームが実行の責任を負う。とはいえ、プロジェクトが進むにつれて特定部門との関連性が見えてくれば、そのプロジェクトは現場に移管される。P&Gの特徴は、新しいアイデアを既存部門から切り離すのではなく、現業とのつながりを重視し、現場の責任において実行させる点にある。そしてもう1つ重要なことだが、下記リンクでも書いたように、プロジェクトが発足する前のアイデア考案の段階でもちゃんと予算がつくということだ。

 《参考(旧ブログ記事)》
 P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』
 柔らかいアイデアの段階で予算をつける勇気がイノベーションのカギ―『ゲームの変革者』
 イノベーションを既存事業部門から敢えて切り離さないP&G―『ゲームの変革者』
 P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない―『ゲームの変革者』


ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばすゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす
A.G.ラフリー ラム・チャラン 斎藤 聖美

日本経済新聞出版社 2009-05-23

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 最後にもう1つ。創造的な組織文化を醸成するためには、上司が部下のアイデアを簡単に握りつぶしてはならないと言われる。上司は自分の成功体験に縛られて、新しい情報を遮断してしまうことがある。しかし、現場のことをよく知っているのは部下の方だから、部下の意見は一聴に値する、というわけだ。確かに、上司の心構えとしてはこういうことも大事だろう。しかし、提案する部下の側は、上司の態度が改善されることだけを期待してはならないのではないだろうか?

 部下にとって上司とは、言ってみれば給与を払ってくれる顧客である。営業の現場では、顧客に対する新しい提案はそうそう簡単に通らないことは、営業担当者なら痛いほど感じている。社内顧客である上司に対する提案も同じである。上司が提案を突っぱねるのには何か理由がある。その理由を分析し、提案内容を修正し、何度もトライしなければならない。それでもダメな場合は、選んだ顧客が悪かったということで、社内人脈を伝って別の上司=社内顧客に提案を試みなければならない。身内だから話を聞いてくれて当然という意識は捨てる必要があるだろう。

《追記》
 上司は自分に給与を支払ってくれる顧客であるという見方をすると、「社員満足度」という概念はちょっとおかしなものに思えてくる。顧客=上司が取引先=社員の仕事ぶりを評価するのは当然であるが、取引先=社員の満足度を顧客=上司が評価するというのは、どこか倒錯している。

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