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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年11月08日

『2020年のマーケティング(DHBR2014年10月号)』―日本の企業間連携は、実は「共通目的」を追わない方がよい?


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年10月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年10月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-09-10

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 先月号の記事で申し訳ない。「2020年のマーケティング」という特集なので、マーケティングの新しいトレンドを知ることができるのかと思ったが、意外と凡庸でちょっとがっかりしてしまった。深刻な財政危機に陥ったギリシアに対して、「国家株」の導入を提案した(DHBR2012年7月号)ような、刺激的な内容を期待していたのに・・・。

○1万人超マーケターへの調査から読み解く 2020年のマーケティング組織(マーク・デスワーン・アロンズ、フランク・ファンデンドリースト、キース・ウィード)
 ⇒マーケターの役割は進化している。(1)ビッグデータと直観的なインサイトの両方に長けている必要がある。(2)顧客にとって意義あるポジショニングを定義しなければならない。(3)顧客との関係を強化する全方位的な経験を提供することも重要である。

○全社でマーケティングを機能させる仕掛け人 CMOからCMTへ:マーケティングとデジタルを統合する(スコット・ブリンカー、ローラ・マクレラン)
 ⇒マーケティングにおけるITの役割が日に日に増している。よって、これまでのように、CMO(Chief Marketing Officer)とCIO(Chief Information Officer)が分業したままでは、変化についていけない。そこで、マーケティングとITの両方を統括するCMT(Chief Marketing Technologist)を設置して、関係部署との緊密な連携を推し進める必要がある。

○消費者志向の2.0から価値主導の3.0の時代へ 成熟市場における新しいマーケティング戦略(フィリップ・コトラー、高岡浩三)
 ⇒マーケティング1.0は製品中心、マーケティング2.0は消費者志向のマーケティングであった。これから求められるのは、マーケティング3.0=価値主導のマーケティングである。例えば、ネスレの「ネスカフェ アンバサダー」は、社内で失われつつあったコミュニティを再構築するという経験価値を提供している。

○緊密な関係だけがベストではない 顧客関係性で組織は変わる(ジル・エイバリー、スーザン・フォルニエ、ジョン・ウィッテンブレーカー)
 ⇒CRM(顧客関係管理)によって顧客との関係性が重視されるようになって久しいが、全ての顧客が同じように企業とつながっていたいと感じているわけではない。著者は29の顧客関係性を定義し、パターン別に最適な関係構築の方法を提案している。例えば、企業を「浮気」相手のように扱う顧客と、企業のことを「親友」のように感じる顧客とでは、企業の対応は全く異なる。

○戦略、営業、IT……意思決定の全体像を整理する 優れたマーケターは他部門を動かす(アディトヤ・ジョシ、エドゥアルド・ヒメネス)
 ⇒マーケターは部門の壁を越えて、戦略立案部門、営業部門、IT部門と協業しなければならない。これは昔からのテーマで、「ではどうすればいいのか?」とすぐに聞きたくなるのだが、本論文では、各部門の意思決定プロセスや、意思決定に用いる各種ツールに、マーケティング的な視点を取り込んで改善することを提案している。

 各論文の内容を簡単にまとめてみたが、「まぁ、そりゃそうだよな」という印象であった。それよりも、本号で個人的に興味深かったのは、「コストの不利をソリューションで埋める 生き残る欧州メーカーの4つの戦略」(スティーブン・E・チック、アーンド・フックツァマイヤー、セルゲイ・ネテッシン)という特集外の論文である。ヨーロッパには「インダストリアル・エクセレンス」という賞があり、毎年ヨーロッパで卓越した製造業を表彰しているそうだ。

 その表彰企業の成功要因を分析したところ、次の4つが浮上した。(1)情報の流れを有効活用して、サプライチェーンのパートナー企業と緊密な融合を図る。(2)バリューチェーンの一部だけでなく、全体において顧客価値を最大化する。(3)サプライヤーと協力し、生産プロセスを素早く改善する。(4)自社の技術力を活かし、顧客ニーズに応じて製品を高度にカスタマイズする。これはまさに、日本の製造業の特徴そのものではないかと思って興味深く読んだわけである。

組織間連携の4パターン

 ここで、組織間連携のパターンを整理してみよう。上図のように、「ネットワークの開放性」と「参加メンバー間の関係」という2軸でマトリクスを作る。「ネットワークの開放性」とは、協業ネットワークに外部の企業や組織などが自由に出入りできるかどうかを表す。自由な出入りが可能であれば「オープン」、参加メンバーが限定的であれば「クローズ」となる。

 「参加メンバー間の関係」とは、バリューチェーンのどの段階のプレイヤーが参加しているかで決まる。バリューチェーンの各段階から多様なプレイヤーが参加していれば「垂直的関係」(例えば、最終組立メーカー+1次部品メーカー+2次部品メーカーの組合せなど)、特定の段階のプレイヤーが集中していれば「水平的関係」(例えば、電子書籍をめぐる出版社の団体など)となる。

 非常に大雑把ではあるが、それぞれの象限に代表的な組織間連携の例を記入してみた。近年、アメリカから輸入されて話題になっている「オープン・イノベーション」というのは、上2つの象限に該当する。P&Gの"Connect and Development"とは、P&Gが世界中の研究機関やサプライヤーとのオープンなネットワークを構築し、外部のナレッジを積極的に活用する取組みである。オープン・イノベーションの代表例とも言えるLinuxは、世界中のプログラマ(彼らは開発者という点で、バリューチェーンの同じレイヤーに属している)が無報酬で開発したものだ。

 ただ私は、オープン・イノベーションというのは、アメリカでも実は限定的なのではないか?と思っている。というのも、アメリカは強烈なビジョンを持った一部の企業(私が最近の記事で多用している表現を使えば、アメリカ人が信仰する唯一絶対の神の意思に通じることができた一部の企業)が絶大な力を握る。これらの企業は、それほど強いビジョンを持たない企業(=神の意思に通じていない企業)を、自らの目的を達成するための手段にしてしまう。彼らはビジョンの実現に向けて、M&Aを繰り返し巨大化する。事実、googleもAppleもそうやって成長してきた。

 日本では、自動車業界をはじめ、建設業界、IT業界などで多重下請構造が見られる。また、流通経路の長さを表すW/R比率(卸小売比率:卸売業(Wholesale)販売額÷小売業(Retail)販売額)も、海外に比べて高く、流通が多段階構造になっている。つまり、日本は川上から川下まで非常に多くのプレイヤーが関与していると言える。これに対し、アメリカでは、上記のように巨大化した企業がバリューチェーン全体を支配しているケースが多いのではないだろうか?(日米のバリューチェーン構成を比較した研究があったら、是非教えていただきたい)もしそうだとすれば、オープン・イノベーションは、日本人が称賛するほど頻繁には起きていないはずだ。

 M&Aで他の組織を吸収したアメリカの企業は、どのように被買収企業のメンバーを動機づけるだろうか?以前の記事「『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む」での場合分けに従えば、動機づける相手が「社内」で、相手との関係は「同等か自分より上」というパターンにあたる。よって、いかにして自社のビジョン、目的、目標を被買収企業のメンバーに意識づけるかがポイントとなる。

 BSC(バランス・スコア・カード)の提唱者であるキャプラン&ノートンは、複数の企業が同じゴールを目指す場合のBSCの作り方も提案している(ロバート・キャプラン、デイビッド・ノートン、ビヤーン・ルジェルスヨエン「業務の連携から相互コミットメントへ 戦略的提携を実現するバランス・スコアカード」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年11月号〕)。通常のBSCでは、最上位に「財務の視点」が来るのだが、複数の企業が関与するBSCにおいては、両社にとっての「共通の価値」を配置する(下図を参照)。

戦略的提携を実現するBSC(バランス・スコア・カード)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 11月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2010-10-09

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 組織間連携が多いのは、むしろ日本の方かもしれない。ただ、「クローズ/水平的関係」である業界団体などは、イノベーションが目的というよりも、競争のための最低限の共通ルールを定めたり、最新の情報をお互いに共有したりすることが目的である。そもそも、業界団体の構成メンバーは直接的なライバル関係にあるから、イノベーションを起こしにくいだろう。イノベーションが起きるとすれば、むしろ「クローズ/垂直的関係」においてではないだろうか?そしてこれは、日本の製造業と同様の構造が見られるヨーロッパにも共通しているはずだ。

 ここで問題になるのは、多様なプレイヤーの足並みをどうやって揃えるか?ということである。一部の企業が唯一絶対神のように振る舞い、その他大勢はその企業に従属するアメリカとは違い、多神教文化である日本では、それぞれの企業が固有の目的を持った、一国一城の主である。彼らを同じ方向に向かわせるのは容易なことではない。

 私はかつてこのブログで、「日本企業はすぐにネットワークを作りたがるが、それぞれの独立性が強すぎて、たいていは成功しない」などということを書いてしまったが(下記リンクを参照)、これは少し修正しなければならない。先ほどの記事「『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む」の場合分けで言えば、「クローズ/水平的関係」というのは、動機づける相手が「社外」で、相手との関係は「同等か自分より上」というケースになる。この場合は、お互いの利害をいかに調整するかがポイントとなる。

《参考》 
 『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』レビュー記事の補足
 中沢孝夫『中小企業の底力―成功する「現場」の秘密』―2つの賛同と2つの疑問(前半)
 『良い価格 悪い価格(DHBR2014年7月号)』―日本では「オープン・イノベーション」は成功しにくいかもしれない、他

 もっとストレートに言えば、「共通目的を追求するな」ということだ。一般的には、お互いの利害を超えた共通の目的を設定すべきだと言いたくなるだろう。しかし、日本における組織間連携の場合、それはきれいごとでしかないと感じる。それぞれの組織は、あくまでも自社に固有の目的を追求する。ただし、各企業が自らの施策を実行した結果、自身の目標だけでなく、他社の目標の達成にも貢献できる、という状態をデザインすることが重要であると思うのである。

組織間連携のBSC(イメージ)

 非常に抽象的な話で恐縮だが、これを図にすれば上のようになる。キャプラン&ノートンのBSCでは、両社の目標が最終的には「共通の価値」に収斂する。ところが、上のBSCでは、両社ともに独自の目的を頂点とする体系を持っている。ただ、A社とB社の施策の中には、相手企業にも影響を与えるものがある。A社の「業務プロセスの視点」における施策の1つは、B社の「顧客の視点」における目標の1つにも影響を与える。B社の「学習と成長の視点」における施策の1つは、A社の「業務プロセスの視点」における目標の1つにも影響を与える。

 このような「つかず離れず」の関係が、日本の「クローズ/水平的関係」におけるイノベーションを成立させる要件となるのではないだろうか?

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