プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年11月21日

『創造性VS生産性(DHBR2014年11月号)』―創造的な製品・サービスは、敢えて「非効率」や「不自由」を取り込んでみる


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 今月号で興味深かったのは、JAXA宇宙飛行士の若田光一氏のインタビュー記事(「日本人初のISSコマンダーが実践するリーダーシップ 宇宙空間で求められる極限のチーム・マネジメント」)である。日本人で初めてコマンダー=船長を務めた若田氏が、多国籍チームをいかにしてマネジメントしたか、その苦労が読み取れた。

 ・国際宇宙ステーション(ISS)での宇宙食にはNASAとロシアが供給する「標準食」に加え、宇宙飛行士が個々に選択できる「嗜好食」がある。ストレスを解消する手段がほとんどない宇宙空間では、食事が最大の楽しみである。そこで、コマンダーはそれぞれの宇宙飛行士の嗜好食が、予定通りにISSに打ち上げられるかどうかもチェックしなければならない。

 ・宇宙では前倒しで作業が進むことが望ましいとは限らない。ISSでの実験やメンテナンスの多くは、地上に専門家がいなければ実行できないからである。軌道上の作業が予定通りに進まないと、地上管制局は適切な人員配置ができない。これを調整するのもコマンダーの役割である。

 ・若田氏が初めてスペースシャトルに搭乗した時のコマンダーであるブライアン・ダフィーさんからは重要なことを教わった。彼は訓練中の昼食時などの何気ない会話で、クルー全員の人となりを深く観察していた。この飛行士はよく理解している。この人は理解が不十分だ。それをしっかり把握していたから、ダフィーさんは「この飛行士には完全に任せよう」、「この飛行士はサポートが必要だから、別の人をバックアップつけよう」という判断ができた。ISSのようなストレスがたまりやすい閉鎖空間では、自分のメッセージが正しく伝わっているか常に気をつけなければならない。

 ・若田氏は、クルーが全員で食事をした経験があったので、自分がコマンダーになった時は6人全員で毎晩夕食を取ろうと呼びかけた。しかし、これはうまく行かなかった。たまたまだが、アメリカ側のクルーに早寝早起きをしたい人がいた一方、ロシア人クルーは朝ゆっくり起きて、夜もゆっくり食事をしたいタイプが多かったからである。食事の時間を無理に合わせることでストレスが高まることがある。たった6人のクルーでさえそうなるのだから、15か国が参加する巨大な国際協力プロジェクトでは、チームの一体感を高めるのは容易ではない。

 ただ、特集の全体的な印象としては、「創造性」や「生産性」を測る具体的な指標などを明確にした上で各論文が紹介されているわけではなく、それらの指標がどのように対立するのか?両者の対立をどのように解決していけばよいのか?といった点については、消化不良な感じが否めなかった。創造性の定義についても、かなり広くとらえられている。
 一般的に創造性の定義は狭すぎます。作曲したり映画をつくったり、自己表現に関わることだと考えられています。私はもっと広く、創造性とは「人生の問題を解決すること」ととらえています。
(エド・キャットムル「成功を計画し、早めに失敗を起こす ピクサー流創造性を刺激する組織のつくり方」)
 ここで、製品・サービスを「必需品か否か?」と、「欠陥が顧客に与えるリスクが大きいか?」という2軸でマトリクスを作って、大まかに4つに分類してみる。「欠陥が顧客に与えるリスクが大きいか?」というのは、製品・サービスに品質上の重大な問題があった場合に、顧客の生命に危険が及ぶ可能性が高いか?(BtoCの場合)、あるいは、顧客企業の業務が停止する可能性があるか?(BtoBの場合)という意味である。

製品・サービスの4分類

 「必需品&欠陥が顧客に与えるリスクが小さい」の象限には、いわゆる日用品が入る。食料品に欠陥があると、食中毒は発生するだろうが、死亡事故につながることはまれである(もちろん、ないとは言い切れない)。また、衣服がすぐに破れてしまっても、みっともない思いこそすれ、命を落とすことはない。この象限に該当する製品・サービスは、製造コストが安い新興国が得意としている。ブランド力がある先進国の企業も、製造は海外に委託していることがほとんどである。

 「必需品&欠陥が顧客に与えるリスクが大きい」の象限には、BtoCビジネスであれば自動車、住宅、医療サービス、BtoBビジネスであれば産業機械、IT(基幹システム系)などが入る。自動車などに深刻な欠陥があれば大問題になることは言うまでもない。製造業が工場で用いる産業機械に欠陥があると、製造ラインは停止するし、最悪の場合、作業員が死亡することもある。企業の基幹システムが停止すれば、業務はストップし、多くの顧客に迷惑をかけることになる。

 この象限の製品・サービスを得意とするのが日本(+ヨーロッパ)である。この象限では、あらゆることにおいて完璧さが要求されるから、日本人の真面目さや精緻さといった強みが威力を発揮する。よく、「日本企業は過剰品質に陥りがちだ」と批判されるが、この象限に関していえば、過剰なぐらいに品質を作り込まなければならない。「必需品&欠陥が顧客に与えるリスクが小さい」の象限は、コスト重視でそれほど品質にこだわらなくてもよいのとは全く対照的である。

 「必需品でない&欠陥が顧客に与えるリスクが小さい」の象限には「文化的な財・サービス」を位置づけた。これは、映画、ドラマ、小説、マンガ、音楽、芸術、舞台、テーマパーク、ファッション、レストラン、観光など、趣味的に消費される製品・サービスであって、その国・地域の文化的特性が反映されたものを指す。映画やドラマに多少の欠陥がある、すなわち役者の演技が下手であったり、ストーリーに一貫性がなかったりしても、観ている人の生命には影響しない。

 この象限に滅法強いのがアメリカだ。世界中で映画が流通しているのはアメリカぐらいだし、ディズニーランドも世界中にある。アメリカは、自国民の好みをほとんどそのまま海外諸国にも”押しつける”のが非常に得意である。スマートフォンもfacebookもそうした製品・サービスの一部であろう(図中の「IT(個人向け)」とはそういう意味である)。スマートフォンは、別に持っていなくても日常生活に支障はないのに、今や「持っていないと恥ずかしい」と思われるくらいだ。

 「必需品でない&欠陥が顧客に与えるリスクが大きい」の象限に該当する製品・サービスは、私の中でちょっと思いつかなかった。「これだ」というものが思い浮かんだ方は、是非コメントなどでお教えいただけると大変ありがたい。

 エド・キャットムルが定義する創造性は全ての象限において必要であろう。しかし、一般的な意味での創造性が要求されるのは、「必需品でない&欠陥が顧客に与えるリスクが小さい」の象限ではないだろうか?この分野の製品・サービスは、人によって好き嫌いがはっきりしており、企業は創造力を活かしてファンを囲い込み、ファンの期待を大きく超える経験価値を提供することが成功の秘訣となる。その秘訣をもう少し紐解いていくと、この象限の製品・サービスには以下の3つの要素を取り込むことが有効なのではないだろうか?

 (1)他人には理解されない好みを反映させる
 この象限の製品・サービスは、人によって好き嫌いが分かれると書いた。特定の人に好かれるということは、別の特定の人には嫌われなければならない、ということだ。傍から見ると「何でこんなものが売れるのか?」と不思議がられるぐらいの方が望ましい。作り手の偏った好みを反映させることで、製品・サービスの特異性を際立たせることができる(以前の記事「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて」を参照)。

 私はフィクションの世界が好きではないので、映画もドラマも小説もほとんど見ない。また、音楽は音楽単体で聞きたいから、ミュージカルにも行かない。こういうのが好きな人の心理が私にはいまいちピンと来ないのだが、好きな人にはそれなりの理由があるのだろう。代わりに、私はプロ野球や大相撲が好きだし、このブログの右カラムにあるように、Mr.Childrenを愛し、水曜どうでしょうをマニアックなぐらいに観ている。当然、私が好きなものを嫌いな人は大勢いる。

 (2)敢えて「非効率」、「不自由」を取り込む
 下2つの象限は効率性を極限まで追求する領域である。我々にとって、効率とは日常そのものである。よって、裏を返せば、非効率はそれだけで非日常という驚きを演出することができる。旅行などは、目的地にすいすい行くことができて、目的地でお目当てのものをすんなり見たり食べたりすることができては面白くない。地図と格闘し、都市部ほど便利ではない交通網に翻弄され、最寄りの駅についてからも目的地を探すのに四苦八苦し、ようやくたどり着いたお店でご飯が出てくるのに30分以上待たされ、店主が「遠いところをわざわざどうも」などと言いながらご飯を運んでくる、そういう一連のプロセスが楽しいものだ。

 私は箱根が好きで、毎年旅行に行くのだが、箱根はここ数年で便利になりすぎてしまったように感じる。まず、箱根湯本の駅がきれいになりすぎた。PASMOが使えるようになり、以前はなかったエスカレーターまで設置されている。バスで待たされることもほとんどないし、レストランやお土産屋さんも妙に洗練されている。つまり、全体的に、小奇麗すぎるのである。こうなると、気分的には都心にいるのと差がなく、旅行に来た気がしない。この点が、箱根ファンとしては残念だ。

 (強引なつなぎ方だが、)旅と言えば水曜どうでしょうである。あの番組は非効率の塊のような番組だ。東京から札幌に帰るのに、わざわざサイコロを振って行き先を決め、途中でホテルに泊まればいいのに深夜バスを使う。サイコロでの移動に飽きたということで、別の移動手段はないものかと思案した結果生まれたのが、カブ企画である。東京から札幌、京都から鹿児島をわざわざ50ccのスーパーカブで移動する。海外企画でも、他に交通手段はいくらでもあるのに、移動はいつもレンタカー一本だ。しかし、その非効率さがあるからこそ笑いが活きてくる。

 『サイコロ2』の「壇ノ浦レポート」は、ファンの間では今や伝説となっている。『ヨーロッパ・リベンジ』では、大泉洋さんがフィヨルドを見たいと言ってスカンジナビア半島を遠回りしたところ、あまりに代わり映えしない景色に嫌気がさしたので、退屈しのぎに作ったのがドラマ「フィヨルドの恋人」である。そして、水曜どうでしょうには、安田顕さんという切り札がいる。「無類の不器用」という異名をとる安田さんが登場すると、他のメンバーが予想だにしなかった方向へと話が屈曲する。安田さんが出る企画には、『試験に出るどうでしょう』シリーズ、『シェフ大泉 夏野菜スペシャル』、『対決列島』といった名作が多い(番組を観たことがない人にはさっぱり解らないだろうが・・・)。

 ちなみに、2013年の最新作「初めてのアフリカ」はネットでの評判があまりよくなかった。「アフリカに動物を見に行くぞ」と言って、あっさりビッグ5(バッファロー、ゾウ、サイ、ヒョウ、ライオン)を見てしまっては、やはり面白みが半減する。加えて、今回の旅はスタッフも充実しすぎており、完璧なガイド(大津さん〔通称ムゼー〕)がいたし、撮影のバックアップも万全だった。要するに、どうでしょう班(=出演者+ディレクターのこと)は、用意された”箱”に入れられて、予定通りに動物を見てきた、ということなのだ。敢えて自ら非効率な道へと入り込み、それを嬉野Dが必死に撮影するという、いつものパターンが見られなかったのが、ネットの不評の原因ではないだろうか?

 (3)裏で徹底的にこだわる箇所を作る
 「必需品でない&欠陥が顧客に与えるリスクが小さい」の象限に入る製品・サービスは、「必需品&欠陥が顧客に与えるリスクが大きい」の象限に入る製品・サービスとは違い、完璧を目指す必要はない。むしろ、(2)で述べたように、非効率や不自由な部分があるぐらいの方が望ましい。ただし、それと同時に、そうでない部分においては、顧客が気づかないような部分で、作り手が徹底的に品質を作り込む必要がある。その努力が顧客の目に触れてはいけない。あくまでも陰で努力していることが重要である。それが顧客満足にどうしてプラスの影響を与えるのか、合理的な説明をすることは難しい。おそらく、顧客に無意識に働きかける何かがあるのだろう。

 水曜どうでしょうは、旅そのものは非効率だが、藤村Dの編集は非常に緻密である。最も特徴的なのは、字幕スーパーが出演者の発語と同時に表示されることだろう。普通の番組であれば、2~3行の字幕スーパーを一度に表示させる。これに対し、水曜どうでしょうでは、セリフに合わせて1行ずつ(場合によっては1語ずつ)表示される。藤村Dは「好きで編集をやっている」とは言うものの、この編集は実に大変だと思う。最近、水曜どうでしょうで用いられる特徴的なフォントを字幕に使う番組が増えたが、字幕スーパーの表示方法まで真似している番組は観たことがない。

 陰での非常に強いこだわりを感じるもう1つの例は、先日紫綬褒章の受賞が決まったサザンオールスターズの桑田佳祐さんである。サザン、もしくは桑田さん個人名義の曲は、シングルとアルバムで微妙にアレンジの違うバージョンが収められていることが多い。ただ、私は音楽に対する造詣が深くないので、シングルとアルバムを聴き比べても、どこがどう変わったのか解らない(汗)。Wikipediaでアレンジの違いについて解説されているのを見て、ようやく解るぐらいだ(聴き比べて違いが解る人は本当にすごいと思う)。そのくらい、桑田さんの音楽に対するこだわりが強いということなのだろう。その証拠に、サザンは未だに、CDと同時にLPも発売している。

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