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2014年12月06日
「神奈川県中小企業診断協会」の理論政策更新研修に行ってきた(テーマは「ものづくり」)(2/2)
(前回の続き)
(4)3コマ目は、茅ケ崎市にある中小製造業の社長の講演であった。神奈川の研修は、経営者の生の声が聞けるのが非常によい。だから、この3コマ目は非常に楽しみにしていた。この企業は、平成22年に設立されたばかりの非常に若い会社である。にもかかわらず、社員数よりも多い機械設備を持っている。どうやってこれだけの設備を揃えることができたのか不思議だったのだが、実は非常に面白い事業承継をしていることが解った。
その社長はもともと別の中小製造業に在籍しており、社長も長く務めていた。だが、オーナーが高齢になったこともあり、事業承継をすることになった。ところが、その社長はオーナーの親族ではなく、社長が事業承継をする場合には、会社の機械設備などを買い取る必要があった。しかし、社長にはそれだけの資金がない。そこで、まずは社長が別会社を設立し、元の会社が新会社に対して機械設備を貸し出すという形で事業承継をしたというのである。
なるほど、そういう事業承継もあるのかと新しい発見だった。ただ、今のところは元の企業から機械設備を借りることができているが、仮に元の企業のオーナーが亡くなり、相続によって株式が分散してしまった場合、借りていた機械設備はどうなるのか、やや不安な部分はある。
最近は製造業で起業しようとする人が非常に少ない。創業補助金の書面審査員などをしていても、1,000万円単位の初期投資をして製造業をやろうという人を見たことがない。その社長曰く、昔は工作機械が1台あれば、仕事が勝手に舞い込んできたそうだ。しかし、現在は相当の初期投資をしないと製造業で起業できない。それだけ、参入のハードルが高い。ただ、事業承継に困っている中小製造業は非常に多いわけで、製造業で起業したい人とうまくマッチングできる仕組みがあれば、製造業での起業がもっと増えるのかもしれない。
(5)この社長はオートバイ好きが高じて、自社ブランドでオートバイのパーツを展開している。本業は下請による部品の製造だが、自社製品を開発してみると、今までは解らなかったことがいろいろ解ったそうだ。当たり前かもしれないが、自社製品を開発すると、製品企画から製造、販売まで全て自社でやらなければならない。その大変さが身に染みたという。本業で製造している部品は、長いバリューチェーンの一部にすぎず、1つの完成品を作るためには何百という企業が関わっている。自社製品では、その何百社分の苦労を一手に引き受けなければならない。
また、社長は20年オートバイに乗っているので、自称「最もオートバイにうるさい顧客」である。その顧客(社長)のニーズを満たすのは容易ではない。社内ではよくできた、早くできたと思っても、社長が顧客の立場から見ると、全然できていないと不満に思うことが非常に多かったそうだ。本業でも、社内の勝手な基準で満足するのではなく、常に顧客の厳しい要求を先取りしていかなければならない、と感じたという。
(6)中小企業はしばしば連携体を組んで経営力の強化を目論むが、この企業も同世代の社長を中心に連携体を構成している。しかし、この社長は、「中小企業の連携体はなかなかうまく行かない」と本音を漏らしていた。実は、1コマ目の関東経済産業局の職員が、「中小企業政策には連携体を支援する施策が多いが、これは個社を支援するよりも政策コストが安いためである」と語っていたばかりだったので、思わず苦笑いしてしまった。
やはり、中小企業にはそれぞれの個性や特徴があり、考え方が違うので、連携体で足並みを揃えることは容易ではないのだという。一時期、共同受注が流行った時期があったが、成功した事例を聞いたことがないともおっしゃっていた。この連携体は、一応連携体という形をとっているものの、価値観が似ている特定の企業同士が1対1でやりとりをしているのが実態だという。
中小企業のグループ化の効果については私も強い疑問を抱いており、「『2020年のマーケティング(DHBR2014年10月号)』―日本の企業間連携は、実は「共通目的」を追わない方がよい?」などといった記事も書いたので、参考までに。