プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年12月24日

ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」


自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ
ウィル シュッツ Will Schutz

春秋社 1995-12

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 非常に読みにくい本で苦労した(苦笑)。本書では、社員がモチベーションを上げ、チームの創造性と生産性を高めるための要素として、以下の3つを挙げている。

 (1)仲間性(インクルージョン)
 集団(チーム)形成プロセスの初期段階において重要な要素であり、私が集団の中にいたいのか、外にいたいのかを意思決定することである。仲間性が高い人は「私は集団の他のメンバーにとって重要である」という感情を持つことができ、生き生きすることができる。反対に、仲間性が低い人は、自分が他のメンバーから重要と思われず、無視されていると感じる。

 (2)統制(コントロール)
 統制の問題は、集団が形成され、人間関係が発展し始めた後に起こる。適度な統制は、私の人生をある程度私自身で統制したいと思わせる。その結果、私は有能感という感情を入手できる。しかし、統制が行き過ぎると、他人にも干渉するようになり、独裁者のように振る舞うことになる。独裁者がしばしば他人を統制したがるのは、自分の無能を他人に気づかれたくないからである。他人に命令している限り、独裁者は自分が有能であると他人に信じさせることができる。

 (3)開放性(オープンネス)
 長い期間一緒に働くチームは、第3の課題に直面する。それがこの開放性である。開放性が高い組織では、オープンなコミュニケーションが取られ、秘密や隠しごとがなく、相手から正直なフィードバックを得ることができる。逆に、開放性が低い組織では、各メンバーのプライバシーが過度に尊重され、最低限の情報しか伝えない慎重なコミュニケーションとなり、相手の感情を傷つけないように非常に気を遣うことになる。

 この3つの要素は、モチベーションや組織の生産性に関する他の研究と整合性が取れていると感じた。例えば、デビッド・シロタ他『熱狂する社員』は、モチベーションを刺激する要因は人それぞれだと前置きした上で、あらゆる人に共通する動機づけ要因として、(1)公平感、(2)達成感、(3)連帯感の3つを指摘している。3番目の連帯感が、上記の仲間性と共通する(旧ブログの記事「《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より」を参照)。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 また、自己統制がモチベーションに影響するという点は、ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」を想起させる。フローとは、「集中が焦点を結び、散漫さは消失し、時の経過と自我の感覚を失う。行動をコントロールできているという感覚を得、世界に全面的に一体化していると感じる」状態で、「よどみなく自然に流れる水」に例えて名づけられた。チクセントミハイはフロー体験の構成要素を8つ指摘しているが、その6番目に「自分を統制しているという感覚」がある。

フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
M. チクセントミハイ Mihaly Csikszentmihalyi

世界思想社 1996-08

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 開放性が組織の生産性を向上させるという点は、「組織IQ」の研究と関連する。組織IQでは、組織を内外の情報をインプットし、意思決定というアウトプットを行う情報処理システムとみなす。そして、外部から情報を受け取る仕組み、組織内に蓄積された情報や知識を共有・再利用する仕組み、情報を処理して迅速かつ適切な意思決定に転換できる仕組みが整っているかを数値化する。具体的には5つの組織特性を調査するのだが(詳細は「情報システム用語事典:組織IQ|ITmedia エンタープライズ」を参照)、3番目の「内部知識流通」が上記の開放性と類似する。

経営スピードを加速する 組織IQ戦略経営スピードを加速する 組織IQ戦略
鈴木 勘一郎

野村総合研究所広報部 2001-02

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 私自身の考えを述べておこう。私も『熱狂する社員』と同様に、動機づけ要因は人によって様々だという考え方を支持するが(以前の記事「エニアグラムのタイプ別に見たモチベーションの上げ方(私案)」、「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―単純化するアメリカ人、複雑なまま理解する日本人(モチベーション理論を題材に)」を参照)、それでも人のモチベーションを上げる仕事にはいくつかの共通点があると思う。それは、

 (1)顧客からのフィードバックがあること
 (2)一定の裁量を与えられていること
 (3)複数の能力を使わなければならないこと
 (4)能力のストレッチが要求されること
 (5)周囲の社員との協業が必要であること


である。自分がやった仕事に対して顧客から生の声が返ってくると、たとえそれが厳しいものであっても、モチベーションアップにつながりやすいものである。規模が大きくなって顧客と直接接する社員の割合が少なくなった組織は、顧客の声が組織全体に浸透するような仕組み作りを心がけた方がよい(旧ブログの記事「お客様からの褒め言葉は、時に上司の激励よりも効果的―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』」を参照)。

 (2)は上記の統制の問題と同じである。(3)を入れたのは、同じ能力ばかり要求される仕事では単調作業になってしまい、飽きてしまうからである。しかし、いくら複数の能力が要求される仕事であっても、自分の能力が伸びなければ、自己成長感を味わうことができず面白みがない。それを回避するために、(4)が重要となる。最後の(5)は、人は孤独では生きていけないという単純な理由に起因している。本書の仲間性や、『熱狂する社員』の連帯感とも共通する要素である。

 このような仕事を社員に与えてモチベーションを上げることは、企業側の目的にも適っている。言わずもがなだが、企業は顧客の声に耳を傾けなければならない。その顧客の声を、具体的な製品・サービスに落とし込んでいくのだが、経営陣がいちいち社員に命令するのは非効率である。だから、社員には自分の頭で考えてもらう必要がある。また、企業としては、できるだけ資本効率性を高めたい。人的資本の効率を上げるには、1人の社員に様々な仕事を任せるのが得策である。そして、企業が社員に協業を求めるのは、組織の性質からして当然である。


 《2016年4月9日追記》
 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年5月号の「4つのバイアスが行動を型にはめる なぜ「学習する組織」に変われないのか」(フランチェスカ・ジーノ、ブラッドレイ・スターツ)という論文では、多様性のある仕事、チームワークが必要とされる仕事の方が、モチベーションや生産性が高いという研究が紹介されている。
 我々は日本の銀行で実施した研究において、データ入力の担当者が同じ作業を繰り返し行った場合(「特化した経験」)と、異なる作業に切り替えて行った場合(「多様な経験」)とでは、成果に違いが出るかを考察した。1日だけだと、特化して作業を行った者が最も速かった。しかし長期的には、日によって別種の作業を担当したほうが従業員はより多くを学び、やる気も保たれた。
 ソフトウェア開発会社、コンサルティング会社、医療機関、研究所などさまざまな組織で研究を行った結果、同じ人々と繰り返し働くことで協調性が高まり、グループ内の貴重な専門知識を最大限に活用し、新たな状況により迅速に対応し、自分たちの知識をうまく組み合わせて問題を効果的に解決できるようになることがわかった。
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2016-04-09

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 しばしば、金銭的な報酬だけで動機づけるのは難しいから、非金銭的な報酬も与える必要がある、と言われる。非金銭的な報酬には、上記のようないわゆる「やりがいのある仕事」も含まれる。ただ、忘れてはならないのは、社員のモチベーションを上げるにあたって、金銭的な報酬を過小評価してはならない、ということだ。試しに、自社の社員に「明日から皆さんは無給となります。それでも会社に来て仕事をしてください」と言ってみるとよい。おそらく、9割9分の社員は仕事に来なくなるだろう。そのくらい、お金の持つ力は絶大なのである。

 非金銭的な報酬を重視しようという主張は耳障りがよいので、安易にそちらに流れたくなる。しかし、動機づけの基本はやはり金銭的な報酬であって、社員の仕事の成果を適正に評価した上で、正当な金額を支払う必要がある。だが、社員の成果を完璧に算定する人事制度の構築には、未だかつて誰も成功したことがない。だから、金銭的な報酬を完璧に配分することは不可能であり、どうやっても何かしらの不満やしこりが残る。金銭的報酬の不十分な部分を、非金銭的な報酬で調整して、できるだけ100%の公平感を目指す、というのが私の考え方である。

 ここまでは、「どうすれば部下のモチベーションを上げられるか?」について見てきたが、ここでもう1つ、こんな問いを考えてみよう。「なぜ、上司は部下のモチベーションを上げる必要があるのだろうか?」 上司と部下の関係というのは、上司が仕事のオーダーを出し、部下がそれに応えて成果を納品する、という関係である。そして、その成果に対して上司がお金(給料)を払い、部下がそれを受け取る。端的に言えば、顧客と供給業者の関係である。

 ここで考えるべきなのは、一般の商習慣として、顧客が供給業者のモチベーションを上げる必要があるか?ということである。例えば、トヨタの車がほしい人は、ディーラーの営業担当者のモチベーションを上げなければならないのだろうか?この問いに対しては、圧倒的多数の人がNoと答えるだろう。ところが、こと上司と部下の関係になると、上司(=顧客)が部下(=供給業者)のモチベーションを上げるべきだ、などという話が出てくる。挙句の果てには、社員満足度調査の中で「上司が自分のモチベーションを上げてくれない」などと不満を言う社員まで出てくる。

 ディーラーの営業担当者が自らモチベーションを高めて、顧客に車を買ってもらうのと同様に、部下のモチベーションを上げるのは、第一義的には部下自身の責任であると私は考える。本書の話題からもう随分と長いこと脱線してしまったが、本書の内容に話を戻すと、本書では仲間性や統制、開放制の問題を解決すべきなのはマネジャーだとは書かれていない。あくまでも、チームを構成する各メンバーの問題として捉えられている。この点は非常に重要である。

 それでも上司が部下のモチベーションを上げなければならない理由を探すとすれば、それは上司と部下の特異な関係に求めることができるだろう。一般の商取引では、顧客は供給業者を自由に選択できる。供給業者が気に入らなければ、別の供給業者に乗り換えればよい。他社の製品・サービスの品質や機能に関する情報を入手することはそれほど難しくない。

 ところが、上司と部下の関係においては、上司が部下のことを気に入らなくても、簡単に部下をすげ替えることができない。労働者の権利が法律で保護されていることもあるが、仮に解雇要件がアメリカ並みに緩和されたとしても、部下を自由に入れ替えるのは困難である。部下を解雇したら、新しい部下を探すために何人もの候補者と時間をかけて面接を行う必要がある。なぜなら、人間の能力は目に見えないからだ。しかも、往々にして、いい人材だと思って採用した人でも、企業が要求する能力水準とは多かれ少なかれギャップがある。だから、採用後も研修やOJTなどを通じて根気強く育成をしなければならない。これは非常に手間とコストがかかる。

 だから、上司は部下を簡単に解雇するのではなく、今いる部下を最大限活用し、関係を維持することが最善である。そのために、部下のモチベーションに特別の配慮をしなければならない。


《2015年1月18日追記》
 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年2月号に収録されていたLINE代表取締役CEO・森川亮氏のインタビュー記事に印象的な箇所があったので引用する。
 企業はプロフェッショナルを採用しているわけですから、会社にモチベーションを上げてもらわなければならないような人はプロとして失格です。(中略)

 大企業の人から、マネジャー・クラスの人が疲れているという話を耳にします。部下の教育や評価もしなければならなしい、決算もしなければならないし、リポートも書かなければならない。しかも一日中会議らだけで、家に持ち帰って仕事をしなければとても追いつかないというのです。これは優秀な人の使い方を誤っていると思います。

 企業の主力となるマネジャー・クラスの人に、人が面倒を見なければいけない部下をつけるのが生産的かと。そもそも、そういう社員を抱えていることに問題の本質があるのではないでしょうか。
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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