プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年01月09日

【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない


領収書

 中小企業診断士として独立した後、中小企業向けの補助金や助成金に関連する仕事が増えてきた。補助金については、無知な部分や勝手な思い込みをしていた部分があり、ここ1~2年で大分勉強させていただいた。このシリーズ(全5回)では、私が初めて知ったことも含めて、補助金の現実をまとめてみたいと思う。なお、本シリーズで取り上げるのは、経済産業省関連の補助金であり、厚生労働省や農林水産省関連の補助金には該当しない話もあるのでご留意されたい。

 まず、補助金の大まかなスキームを押さえておく必要がある。以下の図は「新ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」の2次公募の公募要領から抜粋したものである。新ものづくり補助金は中小製造業が対象であるが、創業希望者向けや商店街向けなど、他の補助金でも基本スキームはほとんど変わらない。

補助金のスキーム(例)

 ①公募
 経済産業省や中小企業庁が補助金事業を委託している事務局のHP(例えば「新ものづくり補助金」の場合は「全国中小企業団体中央会」)上で、募集が開始される。HPには必ず「公募要領」がアップされており、補助事業の目的、補助対象となる企業の要件、補助対象となる経費の具体例、その他補助金に関する様々なルールが事細かく書いてある。補助金は、言ってみれば国がお金を出す側=お客様側であり、公募要領は国が提示する「要求仕様書」である。よって、公募要領を熟読して=お客様の要望を十分に把握して、応募する必要がある。

 ②事業計画書申請
 補助金事業を運営する事務局が指定するフォーマットに従って、補助金を受けようとしている事業の計画書を作成する。補助金の審査は、この事業計画書の内容に基づいて行われる。ベンチャーキャピタル(VC)などから出資を受ける場合、VC側の審査基準はブラックボックスだが、補助金事業では親切にも審査項目が公募要領に載っている。だから、その点を意識して事業計画を作成するとよい。ある補助金関係者の言葉を借りれば、「補助金の事業計画書は、採点基準が公開されているテスト用紙のようなものである」(私はあまり好きな言葉ではないが・・・)。

 ③審査・採択
 通常、審査には1か月~3か月ほどかかる。もどかしいが、待つしかない。

 ④採択
 私も大きく誤解していた点なのだが、採択されたら補助金が振り込まれるわけではない。提出した事業計画書に沿って1年あまりの事業を遂行し、かかった経費を事業完了時に計算すると、その金額を基に補助金の金額が確定する。簡単に言えば、経済産業省関連の補助金は事後精算である。よって、補助金が支払われるまでの間(おおよそ1年~1年半)、つなぎ資金を用意する必要がある。事業計画書には、つなぎ資金のあてがあるかどうかを記入する欄もある。

 なお、不採択になった場合は、事務局に電話すると不採択になった理由を教えてもらえることがある。1次公募、2次公募・・・と公募が複数回にわたる場合、1次公募で不採択になっても、不採択になった理由を踏まえて2次公募に再チャレンジする、といったことが可能である。

 ⑤補助事業
 ⅰ)交付申請・交付決定
 図の描き方がややまずくて、これだと④採択後に事業が開始できるかのように見えるものの、実際には違う。採択を受けたら、今度は交付申請書を事務局に提出しなければならない。具体的には、補助金の対象となる経費について、詳細な予算を提出する必要がある。

 私の実感だと、公募時の審査では主に事業計画書の事業面や実現可能性が審査されており、経費は詳しく審査されていない。経費を審査するのは、この交付申請の段階である。よって、公募の段階では特に問題視されなかった経費が、交付申請の段階ではNGとなることが稀にある。交付申請は2次審査と捉えた方がよい。公募要領や、採択後に事務局より配布される資料をよく読んで、補助対象となる経費とそうでない経費を十分に理解しておくべきだ。ルールの解釈をめぐって事務局とあれこれ喧嘩しても仕方がない。何せ事務局は国側=お客様側である。

 交付申請書を提出してから交付決定が下りるまでには、2週間~1か月ほどかかる。交付決定が下りると、晴れて事業を開始することができる。最初に事業計画書を提出してから、実際に事業を開始できるようになるまでには、実は最低でも3か月、長いと半年ぐらいかかってしまう。せっかく補助金を活用した新規事業を計画したのに、半年経つうちに社長の熱が冷めてしまった、という事態だけは避けたいところだ。

 ⅱ)中間監査
 補助金の対象となる事業はだいたい1年ぐらいの期間にわたって実行されるが、途中で何度か事務局による監査が入る。監査に先立ち、その時点までに支払が完了している経費の証憑類を事務局に提出する。中間監査では、事業の進捗状況を報告するとともに、証憑類が適切に保管されているかどうかチェックを受ける。私の印象では、どうやら前者よりも後者の方が重要視されているようだ。後で述べる確定検査時に証憑類に不備が見つかると、遡って資料を修正するのは大変である。よって、早い段階でミスの芽は摘んでおこう、というわけである。

 ⅲ)事業実施・実績報告、確定検査(交付額の決定)
 1年ぐらいの事業が無事に完了した後には、完了報告書を事務局に提出する。事業によって得られた成果を文書化すると同時に、事業に要した経費の証憑類も全て提出する。この証憑類のチェックが非常に厳しい。一般の会計処理と補助金のそれは異なっており、補助金特有のルールが数多く存在する。1円でも違っていたり、伝票上の日付に矛盾があったりすると、事務局から突き返される。事務局としては、「国民の大切な税金を使うわけだから、具体的に何の経費に対して補助金を支払ったのか、矛盾なく説明できなければならない」という気持ちなのだろう。

 完了報告書ができ上がると、確定検査を受ける。事業の成果を事務局に説明し、場合によってはデモンストレーションを行う。補助対象経費として原材料費や機械装置費を申請した場合には、原材料の写真や実際の機械装置を見せる。また、直接人件費を申請した場合には、社員が実際にどのような業務を行っていたのか聞き取り調査を受ける。こういう厳しい検査なので、「原材料や機械装置は全部韓国にあります」とか、「社員は事業の途中で入社して終了前に退社しました」といったケースでは、補助金の不正利用を疑われる可能性がある。

 ⅳ)補助金の請求、補助金の支払い
 完了検査をパスし、完了報告書も全てOKとなれば、補助金の金額が確定する。その金額をもって、事務局に対して請求書を発行する。請求から補助金の支払いまでには、だいたい1か月前後かかるようである。なお、補助金は税務上益金扱いとなる。

 ⑥事業化状況報告・収益納付
 補助金が無事に支払われた後も、一定期間の間は(5年というケースが多い)、毎年事業化の状況を国に報告する義務がある。ただ、企業全体の会計から、補助金の対象となった事業のみを取り出して、個別原価計算をしなければならないなど、かなり煩雑な作業が求められる。中小企業では、全ての事業が一括で管理されており、個別原価管理などしていないのが普通だから、「事務局は本当に真面目にトレースしているのだろうか?」と疑問に思うところである。なお、収益納付については、回を改めて書きたいと思う。

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