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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年01月16日

【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい


経理作業

 前回の記事「【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない」で述べたように、経済産業省関連の補助金は事後精算であるから、補助金の対象事業で実際にいくらかかったのかを正確に計算し、その証拠となる伝票類を漏れなく揃える必要がある。例えば、機械装置を購入した場合は、次のような書類が要求される。

 ・見積依頼書(見積仕様書)
 ・見積書
 ・発注書(契約書)
 ・納品書(検収印つき)
 ・請求書
 ・金融機関への振込依頼
 ・振込依頼に対応する通帳コピーの該当部分
 ・写真

 見積依頼書(見積仕様書)とは聞きなれない言葉だが、要するに「こういうサイズ、性能、機能、スペックの製品をいつまでに納品してもらいたいので、見積書を出してください」という、機械メーカーに対する依頼書である。通常の商取引であれば、メールや電話のやり取りで済ませてしまうだろうが、補助金の場合は、「企業が何もせずにいきなり見積書をもらうことはない。見積書をもらう前には、『見積書をください』と依頼する行為があるはずだ」という発想をする。高額な部品や機械装置を購入する場合には、自社が作成した図面や設計書などの提出も求められる。

 見積書にも様々な条件がある。まず、機械メーカーの社判がない見積書は無効である。よって、FAXで見積書を取得してもダメであり、社判がついた見積書を郵送やメールで送ってもらう必要がある。次に、有効期限である。発注書(契約書)の発注日(契約日)が見積有効期限外だと、再度見積書を取り直さなければならない。普通の仕事であれば、有効期限が切れていようと大した問題ではないのだが、補助金の場合は、日付に一切の矛盾があっても許されない。

 納品書には必ず検収印を押さなければならない。市販されている立派な検収印をわざわざ購入する必要はないが、最低限、検収した年月日、検収担当者の印鑑もしくはサイン、「検収済み」という文言は入れることが要求される。国の税金で購入したものであるから、「我が社が要求したスペックの製品が間違いなく納入されました」ということを、この検収印で明示しなければならない、というわけである。この検収印が抜けていると、補助金事務局から書類を突き返される。

 金融機関への振込依頼とは、「振込依頼書」または「ネットバンキングで振込依頼をかけた時の画面のコピー」である。お金を支払ったことのエビデンスは、通帳のコピー(当座口座の場合は当座勘定照合表)があれば十分ではないか?と思われるかもしれない。しかし、通帳には振込先が印字されないケースがあるため、確かに購入先である機械メーカーに振り込まれたことを示すために、金融機関への振込依頼も提出する必要がある。

 ネットバンキングの場合、うっかり確認画面のコピーを忘れてしまうことがある。履歴が取得できるシステムであれば、後から遡ればよいものの、履歴が取れないシステムの場合にはアウトである。確認画面のコピーがないというそれだけの理由で、当該機械が補助金の対象から外されることもあるから、十分に注意しなければならない。

 そして重要なのが写真である。はっきり言って、上記の書類はいかようにも操作できる。機械メーカーと結託して、機械を架空発注し、代金を支払ったように見せかけて、補助金をだまし取ることもできてしまう(確定検査が終わった後に代金を機械メーカーから返金してもらい、振り込まれた補助金を機械メーカーと分け合えばよい)。それを防ぐために、現物の写真をたくさん撮影することが求められる。工作機械のような大きな機械であれば、搬入風景、設置風景、機械の全体像、銘板、社員が機械を操作している風景など、事細かく写真を撮影しなければならない。

 原材料・機械装置など、”物理的なモノ”を購入した場合に必要な書類は、だいたい上記の通りである。一方、外注先に設計を依頼したり、プログラム開発を委託したり、産学連携の一環で大学に研究を委託したりした場合には、成果物が”物理的なモノ”とはならない。よって、写真の代わりに、外注先が納品した設計図やソフトウェア仕様書、大学からの報告書などを提出しなければならない。それでも証拠として足りないと補助金事務局が判断した場合には、外注先や大学からの成果物を自社としてどのように検収したのか、検収書を作成するよう要求されることもある。

 直接人件費を補助対象として申請している場合には、また別の書類が要求される。補助金によって多少の違いはあるものの、共通しているのは、補助金の対象事業にそれぞれの社員が何時間従事したのか、週報などの形でまとめる必要がある、ということだ。

 この週報が実に大変である。例えば10時から16時までぶっ続けで仕事をし、週報にそのように記録したとしよう。だが、就業規則で12時~13時が昼休みと定められていると、昼休みの分は勤務時間から除外するよう事務局から指導が入る。また、会社によっては、15時~15時15分を午後休みなどとしていることがある。この場合も、午後休み中の勤務は認められない。就業規則は雇用契約の内容を補完するものであり、契約違反の労働は認められない、というわけだ。

 時間外労働が多い場合も問題になる。補助金事務局は労働基準監督署ではないから、時間外労働について指導する権限はない。しかし、あまりに時間外労働が多い場合には、時間外労働を減らした方がよいとやんわりプレッシャーがかけられる。確かに、時間外労働が多すぎると、それがそのまま国側に記録として残ってしまうから、企業にとっても望ましくない。勤務の実態を正直に記録したのに、以上のような理由で週報の大幅な書き直しを余儀なくされることもある。

 こんな感じで書類を揃えていくと、膨大な量になる。1,000万円の補助金であれば、だいたい以下の分厚さのキングファイルが書類でいっぱいになる。補助金に詳しいとある人は、「補助金は書類作りだ」とおっしゃっていた。中小企業でこういう会計処理、事務処理に慣れている人はそうそういないから、書類の整備だけで相当な時間が取られると覚悟した方がよい。感覚的には、補助金の1割ぐらいは、事務処理のための人件費で消える。これでは何のための補助金なのか?と言われそうだが、結局タダより高くつくものはない、ということなのだろう。

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 個人的には、補助金の会計処理はやりすぎだと感じる部分がある反面、中小企業にとってプラスの部分もあると思う。確かに、見積書の有効期限が切れていたら見積書を取り直すとか、納品書には全て検収印を押すなどというのは、ちょっとオーバーかもしれない。一方で、最初に見積仕様書を作って発注するという流れは、きちんとやれば本業の業務効率化につながる。

 中小企業では、電話などで何となく発注が決まって、発注の具体的な内容や契約金額は後からついてくることがある。こういうなあなあの仕事をしていると、途中で仕様変更や修正が頻発して、手戻りが多くなる。その結果、業務全体が非効率になり、契約金額がいつの間にかどんどん膨れ上がってしまう。これを防ぐためには、スタート時点で取引先にお願いする仕事の内容を明確にする、つまり見積仕様をはっきりさせることが肝要である。大企業では当たり前なのだが(大企業でもできていないところはあるが)、中小企業にも是非身に着けてほしい習慣である。

 また、外注先にソフトウェア開発を発注したり、大学に研究を委託したりした場合に、外注先や大学からドキュメントとしての成果物をしっかりと納品させることも非常に重要である。中小企業だと、何百万円もかけて発注したのに、納品されるのがソースコードだけとか、研究室からの数枚のレポートだけ、などということが往々にしてある。これでは、費用に見合った成果なのかどうかが判断できない。こちらが依頼した仕事を、外注先や大学がモレなく実施したことの証明として、適切なボリュームのドキュメントを要求する。こういう習慣も、私は大切だと思う。

 なお、これだけ苦労して書類を作り、補助金事務局の確定検査をパスして無事に補助金が振り込まれても、実は100%は安心できない。補助金が振り込まれてから2~3年ぐらい経った頃、ごく稀に会計検査院の立ち入り検査が入る。どのくらいの確率で会計検査院が入るのか、具体的にどのような検査が行われるのかは、私にはよく解らない。とにかく、無作為抽出で選ばれるらしいので、当たってしまったら運が悪かったと思うしかない。一応、事務局の確定検査を通っているのだから問題はないはずなのだけれども、世の中にはこんな記事もあることを指摘しておく。

 「JOC加盟11団体で不適正経理 会計検査院が指摘」(スポーツニッポン、2014年11月8日)
 「過大受給など4事業不適切 会計検査院報告 県関係」(佐賀新聞、2014年11月8日)
 「岡山済生会総合病院が補助金2800万円不正受給」(産経新聞、2014年11月9日)
 「バス補助金1.6億円過大支出 検査院、国交省に指摘」(朝日新聞、2014年10月3日)
 「賃貸住宅の改修補助金、建設会社など2.6億円不正受給 」(日本経済新聞、2014年10月18日)


 《2015年8月14日追記》
 上記の通り、補助金を受領するためには大量のドキュメントを作成・保管しなければならない。2013~2015年にかけて多くの中小企業がトライした「ものづくり補助金」も同様である。「これではものづくりではなくて資料作りではないか?」と憤慨する中小企業もいるし、一方で「補助金は資料作りが全てだ」と言い切る補助金事務局担当者もいる。

 個人的には、確かに必要な資料を揃えるのは大変だけれども、”この程度の”資料で音を上げるようでは中小企業の未来は暗いと思う。ISO9001(品質マネジメント)や14001(環境マネジメント)を取得している大企業に製品を納入する際には、その製品が大企業の要求水準を満たしていることを証明するために、補助金に匹敵する、いやそれ以上の量のドキュメントを作成する必要がある。補助金の資料すらまともに作れない企業は、大企業と取引することを諦めた方がよいだろう。自社の事務処理能力に問題があって大企業から相手にされないのに、業績が伸び悩んでいると言って補助金に頼るのは、全くのお門違いである。


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