プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年01月05日

安土敏『スーパーマーケットほど素敵な商売はない』―一度手にした商圏を”スッポン”のように手放さない執念、他


スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則スーパーマーケットほど素敵な商売はない―100年たってもお客様から支持される企業の原則
安土 敏

ダイヤモンド社 2009-12-11

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 著者の安土敏氏(本名・荒井伸也)は、住友商事に入社後、1970年に志願してサミットストアに出向し、同社の経営再建を行った。その後、1994年に社長、2001に会長、最高顧問を経て2004年に退任するまで、40年以上にわたってスーパーマーケット業に携わった。『小説スーパーマーケット』は、伊丹十三監督の映画『スーパーの女』の参考文献となっている。

小説スーパーマーケット(上) (講談社文庫)小説スーパーマーケット(上) (講談社文庫)
安土 敏

講談社 1984-02-15

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小説スーパーマーケット(下) (講談社文庫)小説スーパーマーケット(下) (講談社文庫)
安土 敏 佐高 信

講談社 1984-02-15

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 (1)スーパーマーケットの現場も経営もよく知る著者の言葉によって、私が常識だと思っていたことの多くが否定されて、非常に刺激的であった。

 ・スーパーは「日常の食事の支度をする場」である。よって、顧客が求めているのは普通の商品である。店舗はそういう商品の集合体であるから、必然的に「つまらなくなる」。ところが、「どこがよいのか解らない店舗」こそ、理想の店舗である。

 ・顧客の購買単価を上げるために、所得水準の高低、売場面積の大小、駐車場の有無、買い回りできる競合店の強弱など、顧客単価に影響があると思われる要素を洗い出して分析してみた。その結果、顧客単価に影響するのは、第一に競合店の有無、第二に駐車場の有無であり、所得水準は無関係であることが解った。

 ・小売業者は、低価格路線で攻めてくる競合他社に対抗して、多様な付加サービスを開発する。ところが、小売業者が自分で思っている「付加価値」のことを、顧客はほとんど評価しておらず、付加サービスに対してプレミアムを払うこともない。

 ・商圏のことは各店舗の現場担当者の方がよく知っているからという理由で、本部から各店舗に売価決定、商品選定、仕入れ、販売促進企画などの権限を委譲しようという動きがある。しかし、これは毎日の売り場づくりに忙しい現場の事情を無視した乱暴な主張である。仮にチーフが自分で商品を仕入れて自分でそれを売り切ろうとするならば、チーフは朝4時に起きて仕入れを行い、その商品を店舗に持ち帰って、最低でも夕方まで売り続けなければならない。

 ・本部の商品各部は絶対に独立採算制にしてはならない。スーパーの顧客は、毎日の食事を構成する色々な商品を購入する。よって、商品各部門の協力が不可欠である。例えば、青果を割引することで精肉の購入増を狙う、といった具合だ。そこに独立採算制を導入してしまうと、どの部門も自部門の利益のことしか考えなくなる。

 ・スーパーマーケットの商品の中で、大量仕入れのメリットがある商品は、実は全体の約20%ほどしかない。生鮮食品は大量仕入れのメリットが出にくい分野である。しかし、鮮度管理システムや加工システムのいかんによって、粗利率が数%も変わってくる。管理技術を磨くことで、大量仕入れのメリットと同等の効果を得ることができる。

 ・スーパーマーケットでは廃棄ロスや現金の過不足など、様々なロスが発生する。ロスをなくすだけでも、利益率は大幅に改善する。しかし、ロスはゼロを目指せばよいとは限らない。著者も一時期「ロスをゼロにせよ」と号令をかけたことがあった。ところが、裏では伝票の不正操作が行われていた。重要なのは、「適正なロス率」を定めることである。銀行のように、現金が1円単位でピタッと合う状態にしなくてもよい。現金の一定割合は合わなくて当然と考えるべきである。

 (2)私がもともとこの本を読んだのは、「スーパーマーケットで働く人はどのような価値観を持っているのだろうか?」と思ったからである。以前の記事「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)(2)(3)」で書いたように、私自身は「自分が『これだ!』と思う製品・サービスを顧客に提供したい」と思っている。ところが、スーパーマーケットのように、何千アイテムも扱っていると、全ての商品に対して強い思い入れを持つことはおそらく不可能であるに違いない。そこで、どういう思いを持って仕事をしているのかが知りたかったのだ。

 サミットストアは、積極的な新規出店を仕掛けては自滅していった競合他社と違い、既存店のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すことで持続的な成長を成し遂げてきた。
 私がサミットを退社した2004年6月の時点で、サミットが保有していたスーパーマーケット店は69店舗だったが、たまたまその50%強にあたる35店舗は、1970年代に店舗の規模や形態が悪くて、到底、消費者の満足が得られる売場ができなかったので、過去30年の間に、徹底的に作り替えた建物だった。
 スクラップ・アンド・ビルドは、短期的視点から見れば、もっとも負担の重い投資である。何しろ、既存店(高収益を上げていた)を閉鎖してから約1年の工事期間を必要とする。つまり、《儲かっている店を閉めて、1年の工事期間中は営業を行なわず、その後開店した新店が1年間か2年間赤字を出す》ということだから、短期にはマイナスばかり。目先の利益を追いかけていたら、絶対にしたくない投資。だが、長期的には必要なものだ。環境の変化や競合店が待ってくれない以上、「やるっきゃない」のである。
 そのサミットストアが手本としていたのが、イトーヨーカ堂である。
 私は、30数年間、東京圏で店舗用の物件を探してきたのだが、その過程で、つくづくイトーヨーカ堂に感心させられたことがある。それは、この会社が、一度掴んだ商圏を守り抜く執念である。まさにスッポンのように、一度噛みついたら離さないのである。(中略)別の言い方をすれば、『イトーヨーカドーの○○店を出す』という考えではなく、『イトーヨーカ堂という会社が、その地域を永遠に自社の商圏として確保する』ということなのである。
 その具体例として、亀有駅前周辺の事例が紹介されている。詳細は省くが、35年の間に、イトーヨーカ堂はこの地域をターゲットにして、4回も新店を出している。実は、私は10年ほど前に亀有に住んでいた。当時は、「何で駅前にイトーヨーカドーがあるのに、駅からちょっと離れたところにアリオ亀有を作るのだろう?」と思っていたのだが、本書を読んでその理由がようやく解った。

 「一度つかんだ商圏・顧客を離さない」―これが、スーパーマーケットなどの小売業で働く人たちの価値観であろう。店舗を出したその地にどっしりと腰を据えて、地域の顧客がほしがるものは何から何まで揃えようとする。顧客の台所や冷蔵庫を一種のパズルととらえるならば、パズルを全て自社のピース(商品)で埋め尽くそうとする。パズルという意味では遊びであるが、膨大なピースを1つずつ根気強く埋めていくという意味では、狂気にも似た執着を伴う。

 または、あれやこれやの手を尽くして、顧客のウォレット・シェア(ここでは、顧客が食料品や日用品などに対して支払った額のうち、自社のスーパーマーケットで支払った額の割合)を増やそうとする。それは、紐の固い財布という難攻不落の城を切り崩そうとする武将にも似た気持ちかもしれない。結局のところ、月並みな表現になってしまうが、私は製品・サービスに強く固執するのに対し、スーパーマーケット業界の人は顧客に強く固執するのである。

 以前、トラックの販社の方と話をする機会があった。かつてトラックの売上高が落ち込んだ時、販売店の営業担当者は何をしたかというと、売上目標に少しでも近づくために、スーツ(!)や実家で育てているブドウ(!!)を売っていたという。トラックの販売価格を考えれば、スーツやブドウではとても目標をクリアできないと思うのだが、現場では「お客様がほしがるものをとにかく何でもいいから売ってこい」と号令がかかっていたらしい。

 多分、スーパーマーケットで働く人に必要なのはこういうマインドなのだろう。この営業担当者をスーパーマーケットの商品部などに配属させたら、ものすごい成果を上げるかもしれない。

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