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2015年02月05日
「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(4)
平成29年度補正予算「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業補助金」の申請書の書き方に関する記事を公開しました。ご参考までに。
ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)|(2)
平成27年度補正予算「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の申請書の書き方に関する記事を公開しました。ご参考までに。《本シリーズを書くにあたって参考にした書籍》
「平成27年度補正ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金)」申請書の書き方(細かい注意点)
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《これまでの記事》
「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(1)|(2)|(3)
《申請書作成のステップ》
1.環境分析を通じたターゲット顧客・製品コンセプトの設定
2.競合他社との差別化要因の明確化
3.新製品の潜在的な市場規模、目標とする市場シェア・売上高・価格
4.顧客価値から要求機能への展開
5.要求機能から機構・構造への展開
6.機構・構造を実現するための技術的課題とその解決方法
7.製品開発プロジェクトのタスク、スケジュール、体制
8.製品開発プロジェクト後、事業化に向けた想定タスクとスケジュール
3.新製品の潜在的な市場規模、目標とする市場シェア・売上高・価格
1と2で戦略コンセプトを定めても、そもそも十分な市場規模がなければ事業化できない。そこで、潜在的な市場規模を推計する。また、2で見た競合他社の数などから、自社がどの程度の市場シェアを取れそうか、あるいは取るべきかを決める。おおよその市場規模と目標シェアが定まれば、それを実現するために必要な顧客数や顧客単価も見えてくる。
市場規模のデータは、インターネットで「(製品ジャンル)+市場規模」で検索すれば出てくる。ただし、インターネットで公開されている市場規模のデータは、あまり鵜呑みにしない方がよい。例えば、東京・丸の内でラーメン店を出店しようとしている人が、日本全国のラーメンの市場規模を調べたところで無意味である。この場合は、丸の内近辺に勤めるビジネスパーソンの数や夜の人口などのデータから、潜在的な市場規模を推計しなければならない。
市場規模を試算する際のコツは、できるだけ保守的に見積もること、つまり、顧客、製品、商圏をできるだけ絞り込んだ上で計算することである。そうすると、だいたい、思ったより小さな市場に、思ったより多くの競合他社がいることが解るものである。
市場規模を推計するにあたっては、一時期流行った「地頭力(≒フェルミ推定)」を駆使する必要がある。ただし、これはそれほど難しい話ではない。解りやすい例として、日本における軽自動車の一般世帯向け新車販売台数を推計してみよう。
・日本の世帯数を4,800万世帯とする(人口1.2億÷世帯平均人数(2.5人と仮定))。
・1世帯あたりの自動車普及数を1.2台(2台以上:30%、1台:60%、0台:10%と仮定)と仮定すると、日本における乗用車数(一般世帯)は5,760万台。
・自動車の買換え周期を平均10年とすると、1年間の販売台数は約576万台。
・販売台数に占める新車:中古車の比率を2:1とすると、1年間の新車販売台数は約384万台。
・一般世帯向けの新車販売のうち軽自動車の占める割合を、半分弱の40%と仮定すると、約154万台が新車販売台数となる。
ちなみに、(一社)日本自動車販売協会連合会によると、2014年の軽自動車新車販売台数は184万台であるから、フェルミ推定の数値は大きく外れていない。全体の数字は解らなくても、仮定を細かく設定すれば、比較的精度の高い市場規模を導き出すことが可能である。
4.顧客価値から要求機能への展開
1と2で製品コンセプトが大体固まっているので、そこから製品の機能に展開してもよいのだが、今回はもう少し丁寧な手順を踏みたいと思う。ここでは「ユースケース」という技法を使う。本来はソフトウェア開発で使われる方法だが、一般的な製品開発でも十分に活用することができる。ユースケースとは"Use Case"であり、製品の利用シーンを想定することである。
<図5:ユースケースと顧客のニーズ・要求機能>

ユースケースの記述は、まずは製品の使用シーンを書き出すところから始める。上図は、油圧ショベルが「余分な土を排出する」シーンを中心に書き出したユースケースである。ここで重要なのは、「土をすくう」という直接的な使用シーンだけでなく、その前後のシーンも含めて網羅的に書き出すことである。前のシーンとしては、「ショベルを建設現場まで運搬する」、後のシーンとしては「作業が行われない夜間・休日の点検、メンテナンス」などが考えられる。そして、それぞれのシーンを細分化して、顧客が行う個別具体的な作業レベルまで落とし込む(上図の左側)。
ユースケースを書き出したら、それぞれの作業について、ターゲット顧客の潜在的なニーズを洗い出す。上図では、競合他社との差別化につながる顧客ニーズの部分だけが記載されており、顧客が当たり前と思っているニーズ(いわゆる「当たり前品質」)はブランクになっていると思われるが、私は表の全てをちゃんと埋めた方がよいと思う。表が埋められない=顧客ニーズの分析が不十分ということであり、その場合には1の環境分析に立ち戻る必要がある。
顧客ニーズを網羅的に整理することができたら、そのニーズに対応する製品機能を定義する。上図では一般的な機能の表現にとどまっている箇所が多いが、ここも2で整理した差別化要因を踏まえて、具体的に定義するのが望ましい。例えば、「前方向への走行(速度15%up)」などのように、数値を使うのは1つの手である。具体的に定義できる機能が多いほど、差別化要因がたくさん積み重なっているということであり、競争力のある製品になる。
5.要求機能から機構・構造への展開
ここまで来れば、後は通常の設計の流れになるから、設計者もお手のものだろう。4で整理したそれぞれの機能を、具体的にどのような機構・構造で実現するのか、下図のように体系化する。ここでも、各機構の記述は、下図の例よりももう少し踏み込んだ表現がよい。要求機能から機構・構造へと展開する図のことを、冒頭の書籍の中では「思考展開図」と呼んでいる。
なお、下図の右半分で、右に行くに従って機構が集約されている部分は、左側の機構の組み立て方を表している。最終的には1つの製品に組み立てられるわけだから、一番右は「グローバル(新興国)で要求される環境に対応した油圧ショベル」(つまり完成品)となっている。
<図6:思考展開図(要求機能から機構・構造へ)>

この思考展開図と合わせて作成したいのが「ポンチ絵」である。思考展開図に下図のように番号を振り、ポンチ絵のどの箇所がどの番号に対応しているのかを示す。これで、製品の全体像が視覚的にも把握できるようになる。下図はガラスのブラシ研磨機の例である。
<図7:ポンチ絵作成のための思考展開図>

<図8:思考展開図に対応したポンチ絵>

【POINT】審査項目の【技術面】①新製品・新技術・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン・アイディアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか。【事業化面】②事業化に向けて、市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。とも関連。(続く)