プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年03月24日

中小企業診断士の試験&実務補習とコンサルティング現場の5つの違い(2/2)


 (前回の続き)

 (3)財務・会計の苦手を作ってはならない
 中小企業診断士の試験において、毎年多くの受験生を泣かせるのが「財務・会計」という科目である。受験生の得点をグラフ化すると、他の科目はだいたい正規分布を描くのに対し、財務・会計は2つの山ができると言われている。つまり、金融機関に勤めている人や公認会計士・税理士など財務・会計を非常に得意にする人と、財務・会計にアレルギー反応を起こすぐらい不得意な人の山ができて、平均点周辺の人数が少なくなるというわけだ。

 私自身、お世辞にも財務・会計が得意とは言えないので、他人のことをどうこう言う資格はないのだけれども、実務では財務・会計の苦手を作ってはいけないと思う。試験では足切りラインの40点が取れれば御の字でも、実際のコンサルティング現場においてはそれでは困る。

 もちろん、合併時の資産評価や、細かい税務処理などは、その道の専門家に任せておけばよい。しかし、過去3~5期分の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を財務分析にかけて、経営課題を抽出することぐらいは絶対にできなければいけない。また、ある程度の粉飾決算を見破る目も不可欠である(中小企業の決算書は、意図的か意図的でないかは別として、99%粉飾していると言われる)。一見すると健全に見える貸借対照表、損益計算書でも、粉飾部分を正しく修正すると深刻な問題が現れるケースがある。

 実務の現場では、過去の分析だけでなく、将来に向けた試算の能力も必須である。生産、購買、物流、営業、IT、人事など、各部門の施策のコストと効果を見積もり、その結果を将来の貸借対照表、損益計算書に反映させる。そうすることで、社長が掲げる売上高や営業利益の目標が何年後に達成できそうなのかが明らかになる。また、貸借対照表と損益計算書から将来のキャッシュフロー計算書を作成すれば、借入金について毎年の返済可能額も解る。公認会計士・税理士は、過去の数字のことしか解らない。将来の数字を作れるのは、診断士だけである。

 (4)実務で頼れるのは自分一人だけ
 実務補習では5~6人で1チームとなり、各人が全体戦略、生産管理、営業、IT、人事労務、財務などのパートから1つを担当する。最初は自分の現業と関連する得意分野を担当すればよいが、2回目、3回目は自分が経験したことのない不得意分野を担当するよう推奨される。実務補習のチームは、多様なバックグラウンドを持つメンバーから構成されるように配慮されているため、仮に不得意分野を担当して行き詰ったとしても、誰かが助けてくれる。

 この仕組みはチーム内の助け合いを促すいい仕組みだと思う反面、実務とはかけ離れているとも感じている。まず、実務では5~6人などという大人数でチームを組むことはない。私が前職のベンチャー企業で、中堅・大企業向けにコンサルティングをやっていた頃は、2か月&5人チームで3,000万円などという案件もやっていた。しかし、診断士として独立してからは、そんな規模の話は皆無である。診断士の実務では、1人か2人で行動することがほとんどだ。つまり、他に頼れる人はおらず、全ての責任を引き受ける必要がある。

 中小企業の経営者からは、ありとあらゆる相談が持ち込まれる。仮に、自分が不得意とする相談が来た場合、大人数のチームであれば、その分野を得意とする人に話を振ればよいかもしれない。また、診断士の世界には広範なネットワークがあり、様々な専門性を持った人が集まっているので、ネットワークの中から適任者を探すのも一つの手である。しかし、相談が来るたびに誰か別の人に話を回しているようでは、やがて中小企業の経営者からの信頼を失うに違いない。顧客企業は、自分を飛ばしてその専門家と直接契約を結びたがるだろう。

 (3)とも関連するが、診断士は苦手をできるだけ減らす必要がある。あらゆる分野について、最高の解ではなくとも、最善の解は提示できなければならない。その上で、中小企業の経営者が最善の解以上のものを欲するならば、その道の専門家を紹介するとよいだろう。私も偉そうなことを言える身ではないが、表向きは人事評価制度・人材育成の専門家と言いながら、事業戦略の立案やWebマーケティング・提案営業の実施支援など、いろいろなことをやっている。一方で、社会保険の細かいルールや、製造・物流現場のこと、企業合併や事業再編についてはよく解っていないため、こうした弱みはこれから潰していかなければならない。

 (5)顧客企業のためならば、土壇場での「ちゃぶ台返し」もある
 実務補習では、5日間という限られた時間の中で、100ページぐらいの報告書をまとめる(個人的には、100ページも書く必要があるのか?という疑問が拭えないのだが、この点はひとまず脇に置いておく)。1日目に経営者インタビューを行い、2日目にインタビュー結果を踏まえて戦略を定め、戦略の実現に向けた各部門の課題と解決策の方向性を導出する。

 ここからしばらくは自主学習期間に入り、各メンバーは自分の担当部門の課題と解決策を具体化して報告書をまとめる。3日目は、メンバーの報告書を持ち寄って全体の論理的整合性を検証し、各パートの修正点を洗い出す。4日目は、修正後の報告書を再度持ち寄って、内容の最終確認を行い、報告書を印刷する。そして、最終日の5日目は、経営者向けに報告会を行う。これが実務補習の大まかなスケジュールである。

 3日目、4日目と議論が進むにつれて、当初考えていた課題や解決策よりも、もっと本質的な課題や、もっと効果的な解決策を思いつくこともある。すると、報告書の大幅な書き直しが必要となる。ただ、ここで「ちゃぶ台返し」を強要できない特殊な事情がある。というのも、実務補習のメンバーは、診断士の協会にお金(1回5万円)を払って参加している。逆に、診断先の顧客企業は実はコスト負担がゼロである。だから、我々指導員側から見ると、診断先はもちろん顧客だが、実務補習のメンバーも顧客であり、彼らの満足度を著しく下げる行為には出られないのである。

 過去の実務補習では、「終盤になって指導員から報告書の大幅な修正を指示された」というクレームが何度となく寄せられたという。論理的に正しい手直しならまだしも、指導員の単なる思いつきとしか思えないような修正を命じられたことに対して、厳しいクレームがつけられたらしい。こういう前例があるため、「ちゃぶ台返し」という禁じ手は使いづらい。

 ただ、忘れてほしくないのは、これは実務補習という特殊な環境だから成り立つ話だということである。実務では、顧客企業のことが最優先だ。途中でもっとよいアイデアが出てきて、そのために報告書の大幅な手直しが必要になったら、徹夜をしてでも、土日を潰してでも修正せよ、というのが実務の世界である。これをやると、絶対にチームメンバーの満足度は下がる。しかし、メンバーの顔色をうかがってちゃぶ台返しに踏み切れないリーダーも、自分の作業量が増えることばかりを考えてちゃぶ台返しに難色を示すメンバーも、プロフェッショナルとしては失格である。

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