プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年03月13日

『小さくても強い国のイノベーション力(『一橋ビジネスレビュー』2014年WIN.62巻3号)』(1/2)


一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-12-12

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 本号では、スイス、シンガポール、デンマーク、オランダ、イスラエルの5か国が取り上げられていた。各国の特徴を簡単にまとめておく。

 (1)スイス・・・高度な人材育成システム
 スイスでは、高校入学時に職業訓練コースと進学コースに分かれ、約70%の学生が職業訓練コースに進む。職業訓練コースでは、学校での授業は週1~2日となり、残りの週3~4日は協力企業内で研修を受けることになる。職業訓練コースに入れば、卒業後の就職が100%保証されていることも大きい。スイスの若者は、職業訓練コースを選択することに全く劣等感を感じていない。進学コース(大学)はもっと勉強をしたい人だけが進む場所と認識している。

 職業訓練コースには、多くの企業が訓練機会の提供という形で参加しており、2012年4月時点で約230種、8万件の訓練機会が提供されていた。その時点での職業訓練コース希望者は8万500人で、需給が均衡する形で職業訓練コースが提供されていることは、その後の就職を確保する上で重要な点である。職業訓練コースが目指すのは、外国人労働者に職を奪われないようにするための高度な専門技術の習得である。この教育が徹底しているからこそ、スイスでは越境労働者や東欧からの移民労働者にスイス人の職が奪われるということがあまり生じない。

 (2)シンガポール・・・首相の強力なリーダーシップ
 資源、土地、人口、人材全てにおいて他国に劣るシンガポールは、初代首相リー・クアンユーの強力なリーダーシップによって経済発展を遂げた。1960年代から10年ごとに、発展に応じて、また潜在能力の向上をにらんで、段階的に発展軌道の高度化を図った。1960年代は労働集約型、1970年代は技能集約型、1980年代は資本集約型、1990年代は技術集約型であった。そして、今世紀に入ってからは知識・イノベーションに根差した経済の発展を目指すことになった。

 シンガポール政府は、1991年以来、5年ごとの科学技術・イノベーション計画を作成して、それに即して計画的発展を図った。計画は、強力なトップダウンのイニシアチブの下、政府の5年間の総投資額を明確に示し、計画最終年度のGDPあたりR&D水準、民間のR&Dシェア、研究者育成数などの数値目標を掲げ、その緻密な計画に沿って国を挙げて着実な実行に努めた。

 (3)デンマーク・・・「参加型デザイン」の活用
 参加型デザインとは、元は1970年代に北欧の社会学系研究者が始めた、労働者運動に端を発する問題解決手法である。現在の参加型デザインは、「デザイン主体の価値を第一義とするデザイン思考といったような立場から、あらゆる専門性や多様性を持った利害関係者が、それぞれの立場からデザインのプロセスに積極的に従事することを通じ、ITシステムや製品、社会サービス、都市デザインなどのデザインを創造していく民主主義的デザイン方法論」と定義される。

 2005年、ダンフォス(ポンプ製造販売業)がデンマークの代表的企業とともに、デザインに注目した産業育成政策を進めるべきであると経済省に提案書を提出した。当初はあまり賛同が得られなかったが、その後、経済省管轄のデザインセンターの設立や参加型デザインプロジェクトへのファンド提供など、参加型デザイン手法の推進政策が戦略的に進められるようになった。

 (4)オランダ・・・フードバレーを支えるワーヘニンゲンUR
 競争戦略論で有名なマイケル・ポーターは、競争力のある産業集積(産業クラスター)の要件として、①要素(投入資源)条件、②需要条件、③企業戦略および競争環境、④関連・支援産業という4つを挙げた。これは「ダイヤモンド・モデル」と呼ばれる。オランダのフードバレーでは、ワーヘニンゲン大学とリサーチセンターを合わせたワーヘニンゲンURが、①要素(投入資源)条件と④関連・支援産業の条件を満たす重要なプレイヤーとして機能している。

 リサーチセンターでは、約200人の研究員が健康増進や食生活の質の向上だけでなく、食品業界の発展までをも対象として、企業や外部の研究機関と密接に連携した研究を進めている。最も注力しているのは食品産業分野である。例えば、食品流通の領域では、コンテナのようなハードウェアの技術だけでなく、冷蔵・冷凍技術、殺菌技術、パッケージングのような管理・運用に関するものまで含めて、生産、流通、消費の全ての段階が研究対象となっている。

 リサーチセンターの中には「未来へのレストラン」という施設がある。このレストランには3次元カメラが設置されており、レストランに来る人がなぜその皿を選んだのか、あるいは選ばなかったのかを知る上で重要な選択のプロセスや、どのような表情で食事を楽しんだのかを観察することができる。また、商品の配置や照明の色を変えることが、食品の選択行動に与える影響を観察することもできる。これらの分析は、フードバレーの多くの企業の関心を集めている。

 (5)イスラエル・・・国営軍需産業からハイテク人材を創出
 イスラエルでは公式な統計を取得することが非常に難しいためか、イスラエルの論文だけは『一橋ビジネスレビュー』としては珍しく、定性的な情報が中心となっていた。イスラエルでは、国営軍需産業が現在のハイテク企業やベンチャー企業を生み出す母体になったと考えられる。1980年代に大量解雇された軍需産業の技術者たちが、その後のベンチャー立ち上げの人材として活かされた。また、イスラエル軍の諜報部隊やエリート部隊に属した兵士らが、軍でのノウハウを持って部隊の仲間とベンチャー企業を起こした例もあるらしい。

 ただし、イスラエルの貿易収支は赤字であり、資本収支は黒字であるという構造を踏まえると、次のことが言える。すなわち、国内のハイテク産業は成長しているが、その繁栄はハイテク業界内にとどまっており、他の産業に波及して製造業全体を活性化するまでには至っていない(そのため、貿易収支は赤字)。イスラエルのハイテク産業から生まれたイノベーションは、海外で生産される製品・ソフトの性能向上に寄与し、ベンチャー企業が海外で高く評価されて買収の対象になったり、アメリカなどで株式上場されたりしている(そのため、資本収支は黒字)。

 イスラエルでベンチャー企業を支援する効果的な制度ができたのは1993年のことである。財政省が創生した「ヨズマ(Yozma:イニシアチブの意)」では、民間投資会社の融資額の半分をイスラエル政府が出資し、投資会社は、事業が成功した場合、その会社の株を安価で買い取ることができた。政府が投資リスクを肩代わりするこのプログラムは、イスラエルのベンチャービジネスが離陸するための最も重要なメカニズムであると高く評価されている。

 (続く)

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