プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年05月08日

安田順『中小企業のための「資金繰り・借入交渉」実践マニュアル』―読んでいて前職を思い出し顔から火が出そうだった


中小企業のための「資金繰り・借入交渉」実践マニュアル中小企業のための「資金繰り・借入交渉」実践マニュアル
安田 順

日本実業出版社 2013-01-26

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 <中小企業が基準とすべき指標(本書より)>
 ・借入金月商倍率は、製造業の場合4~5倍、その他の業種の場合は3~4倍に抑えるべき。それ以上の倍率になると、新規の借入が難しくなる。
 (借入金月商倍率=(短期借入金+長期借入金+社債)÷(売上高÷12))
 ・運転資金に余裕を持たせるため、月商と同じぐらいの現金を保有するべき。
 ・将来的な設備投資の原資を確保するために、経常利益率は5%以上を目指す。京セラ名誉会長の稲盛和夫氏は「経常利益率が10%以上なければ、それは経営ではない」と述べている。
 ・財務の健全性を考えると、自己資本比率は20~30%ぐらいが目安である。
 ・債務償還年数は10年以内とする。10年を超えると、金融機関が債権区分を見直し始める。
 (債務償還年数=(借入金-正常運転資金)÷キャッシュフロー
  正常運転資金=(売掛金+受取手形+棚卸資産)-(買掛金+支払手形)
  キャッシュフロー=経常利益×(1-税率)+減価償却費)

 本書には経営再建を果たした企業の事例が紹介されていたのだが、耳が痛い話も多かった(以前の記事「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照)。
 F社の事業計画(P/L計画)は、社長が掲げる高い売上目標に引きずられて「予算を達成すれば過去最高益、達成できないと大赤字」という両極端なものでした。そこで、F社では考え方を改め、売上予算をさらに厳しくみた、成り行きによる予測数値で、再度、事業計画を立てることにしました。

 成り行きとは、売上の相手先は特定できないものの、過去の実績から「少なくともこのくらいはあるだろう」という売上のことです。(中略)成り行きを算定すれば自ずと予算と現状の差額(ギャップ)が明確になります。そして、「差額を埋めるために、いま何をすべきか」という差額対策が営業の課題になります。
 私の前職の会社(教育研修&組織開発・人材育成コンサルティングサービス)は、売上高が約1.5億円、経常赤字が約7,000万円(700万円の間違いではない)という悲惨な状況に陥ったことがあった。にもかかわらず、社長は極度の楽観主義者なのか、単に現実を直視したくないだけなのか、「来年度は売上高2億円を目指す」と絵空事を繰り返していた。

 私は、その年の顧客一覧と、それぞれの顧客からの売上高を見て、翌年各顧客からどのくらいの売上高が見込めそうか、営業担当者にヒアリングして回った。その結果、契約が切れる顧客、リピートが見込めない顧客などが多数含まれており、何もしなければ翌年の売上高が8,000万円程度にしかならないことが解った。売上高2億円などというのは夢のまた夢であり、しかも現在の高コスト体質を続けていれば、早晩破綻することは目に見えていた。この事実を社長に突きつけたところ、ようやくリストラに踏み切ることになった(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第18回)】積み上げ式ではなく願望だけで行われる売上予測」を参照)。
 C社が、短期間で黒字化できたのは、「リストラは1回で終わらせる」という前提で、以下のコストダウンを断行したからです。(中略)

 リストラや経費削減を何度も行なうと、そのたびに社員は消耗し、社内の雰囲気も悪くなっていきます。状況にもよりますが、C社のように、できるだけ1回で終わるように計画したいところです。
 実は、このリストラは初めてではなく3回目だった。1回目のリストラ直後には、残った社員の前で社長が「もうリストラはしない」と明言していた。にもかかわらず、その後2度もリストラをしたわけだ。その原因の1つは、最初のリストラで膿を出し切っていなかったことにある(1回目と2回目のリストラには、私はタッチすることができなかった)。リストラは一発で決めなければならない。削れるコストは徹底的に削る。削りすぎるぐらいでちょうどよい(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第19回)】真綿で首を絞めるように繰り返されるリストラ」を参照)。

 しばしば、過度なリストラは長期的な競争力の源泉となる経営資源を削ぐことになるから注意が必要だと言われる。マイケル・ハマーの「リエンジニアリング」がアメリカで大流行した時には、リエンジニアリングという名目でリストラを行う企業が多く、その弊害としてこのようなことが指摘された。しかし、これは業績が好調な企業が株価アップのためにリストラを行う場合の話である。業績不振の場合には話が違ってくる。ガン細胞が1つでも残っていればガンは再発する。ガンに侵された部位だけでなく、その周辺も余分に切り取る勇気がなければ、ガンの再発は防げない。

 私も甘かったのだが、3回目のリストラでもコストを削り切ることができなかった。家賃負担が重かったので、賃料が安いオフィスに移転したというのに、社員1人あたりの家賃は約10万円/人(!)とほとんど変わらなかった。また、当時2人いた顧問に対する顧問料は、1人あたり月約50万円から月約30万円に減額されたものの、この2人は顧問らしい働きをしておらず、冷静に判断をすれば契約をバッサリと切るのが妥当であった。ところが、社長が個人的に懇意にしているという理由で、非情になり切れなかった。

 私は3回目のリストラの約1年半後に前職の会社を退職してしまったので、その後のことはよく解らない。ただ、残った社員から聞いた話によると、相変わらず業績不振に苦しんでおり、何度かリストラをしたらしい。しかも、正社員を契約社員に切り替えたり、個人事業主にさせて業務委託契約を結んだりと、かなりダーティーなことをやっているみたいだ。これで「人事制度・人材育成のコンサルティング会社」を標榜しているのだから、全く笑止千万である。
 リスケを行なった会社が、経費を削減しすぎて、売上を減らしてしまうことがあります。銀行の顔色を意識しすぎた結果、守り一辺倒になって、攻めるほうのカネの使い方が計画から抜け落ちてしまったわけです。

 「攻撃は最大の防御」という言葉のとおり、どんな状況にあっても、経営者は「売上や利益に結びつく新規投資」を考え続けなければなりません。そもそも経営者のメインの仕事は、資金繰りではありません。経営者としての才覚を活かし、売上と利益を獲得していくことです。
 リストラを繰り返さなければならなかったもう1つの要因は、リストラと同時に売上高アップのための投資施策を考えなかったことにある。ベネッセの原田泳幸社長は、マクドナルド時代に「売上増につながるコスト削減策を持って来い」と部下に言っていたそうだ。単なるコスト削減ではなく、削減した分を投資に回して売上増につながるようにせよ、という意味である。

 前職の会社で私はマーケティング業務も兼務していた。しかし、私が持っていた予算は、HPのランニングコスト約7万円と、人事担当者向けのポータルサイトに自社情報を掲載するための費用約1万円だけであった。この予算で人事担当者にPRせよというのは、正直非常に厳しかった(それでも、セミナーの告知文を工夫するなど、ほぼ追加投資なしで、1年間のうちに延べ約400社の人事担当者を自社の無料セミナーに誘導したことは、私のちょっとした自慢だ)。

 私は、HPのSEO対策やリスティング広告にもっと投資をしたかった。先ほど述べた2人の顧問契約を解除すれば、100万円が浮く。その半分でもSEO対策とリスティング広告に使えれば、少なくとも2人分の顧問料をどぶに捨てるよりは効果があったと思う。HPから問合せやセミナー申込に至るコンバージョン率、さらに問合せやセミナー参加から商談に至るコンバージョン率はデータが取れていたので、それを使えば投資対効果の大まかな算出は可能であった。ただ、当時の私の怠慢で、それを社長に提案できなかったことが今は非常に悔やまれる。

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