プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年05月18日

「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)


 日本アセアンセンター主催の「カンボジア投資セミナー」に参加してきた。もともと定員80名だったが、参加申し込みが殺到したようで、午前と午後の2回に分けて実施された。カンボジアは、隣国のラオス、ミャンマーと並んでCLMと評され、チャイナプラスワン、タイプラスワンの有力な候補地となっている。民主化で注目されるミャンマーには及ばないが、カンボジアに対する関心も高いことがうかがえた。講師はカンボジア総合研究所CEO/チーフエコノミストの鈴木博氏。

 《参考資料》
 カンボジア経済(鈴木博氏のブログ)
 メルマガ「週刊カンボジア経済ニュース」(鈴木氏のメルマガ)
 カンボジアの投資環境|日本アセアンセンター
 カンボジアの投資ガイド|日本アセアンセンター

 (1)カンボジアはアジアで最も親日的であると言われる。第2次世界大戦末期に日本が東南アジアから撤退する際、日本はカンボジアとベトナムの独立を認めた。このことについてノロドム・シハヌーク前国王は、「日本の判断がなければ、今のカンボジアはなかった」と高く評価している。

 日本が撤退した後、カンボジアはフランスの統治下に置かれた。フランスからの独立を目指すシハヌーク前国王は、フランス政府と交渉するも難航した。次いでアメリカに支援を求めたが十分な協力を引き出すことができなかった。そこで日本に声をかけたところ、政府がサポートを表明し、天皇陛下もシハヌーク前国王にお会いになった(日本にとっては、終戦後初めて、アジアの君主が皇居へ来訪した出来事だった)。

 ちなみに、現在のノロドム・シハモニ国王は、シハヌーク前国王が日本から帰国した日(1953年5月14日)に生まれたことから、「トキオ」(トウキョウ)という愛称がつけられた(カンボジアでは国王の幼少期に愛称がつけられる)。そのぐらい日本には恩義を感じたらしい。以降も日本はカンボジアを支援し、1992年以降はカンボジアにとって日本が最大のODA供給国となっている。

 ただ、最近は中国マネーの影響力が大きくなっており、ODAをたくさん拠出しているからといって親日国になってくれるわけではない。中国が主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB:Asian Infrastructure Investment Bank)」には、ASEAN10か国が全て加盟を表明している。中国との間で緊迫した領土問題を抱えるフィリピンやベトナムは渋々加盟することにしたらしいが、カンボジアやラオスなどは国内のインフラが未整備であるため、AIIBに大きな期待をしているという(『週刊ダイヤモンド』2015年4月11日号より)。

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 事実、現在のフン・セン首相は親中派である(対する野党のサム・レンシー党首は親米派である。国外追放されていたが、アメリカの支援で帰国を果たした)。フン・セン首相は現実路線を貫いており、中国がお金をくれるなら、ある程度言うことを聞こうというスタンスらしい。カンボジアは米中冷戦の前線となっている模様だ。

 (2)カンボジアの最低賃金は128ドル/月(+法定手当)と安価である。ただし、最低賃金は2013年末に80ドルから100ドル(+25%)に、2014年末に100ドルから128ドル(+28%)に上がっており、最低賃金の動きには注意が必要である。

 労働者の印象は、鈴木氏によると素直で真面目であるという。ただし、ポル・ポト政権下で教育制度が破壊されたため(「字が読める人間は反革命分子だ」)、識字率が約76%と低い。教育レベルも低く、例えば色が識別できない人がいたりする。日系のあるハーネス製造企業では、電線を区別するために様々な色を用いているのだが、ピンクを見せてもオレンジを見せても赤としか回答できない社員がいるという。したがって、色の教育も実施しているようだ。

 ジェトロ・アジア経済研究所によると、「労働生産性は向上中」との評価を受けている。とはいえ、いわゆるトヨタ生産方式には程遠く、「ラインを途中で抜け出してトイレに行かない」、「時間通りに出勤する」などといったレベルであるのが現状らしい。ただ、裏を返すと、ちょっと訓練すれば、生産性を大幅に引き上げられる余地があるとも言える。

 (3)外資はかなり優遇されている。ほとんどの業種で100%外資による会社設立が可能である。銀行、保険、小売、石油など、他のASEAN諸国では外資参入が禁止・制限されている業種でも全く問題ない。また、外国送金も自由に行うことができる(鈴木氏は「信じてもらえないかもしれないが、いずれも本当である」と繰り返し力説されていた)。カンボジアの外為法は、IMFか世界銀行から押しつけられたものらしい。カンボジアは発展プロセスの中で外資にかなり依存する必要があったため、外国のルールを素直に受け入れるしかなかったようだ。

 (4)カンボジアは今でも最貧国扱いになっており、多くの品目が無関税である(特恵関税制度)。カンボジアから日本への輸出で多いのは革靴である。イタリアから革靴を輸入すると、1足あたり約4,000円の関税がかかるのに対し、カンボジアからの輸入品には関税がかからない。日本が輸入する革靴の40%はカンボジア製だと思ってよい。

 (5)インフラは、ミャンマーよりカンボジアの方が優位である。ヤンゴン―バンコク間(約900km)の道路は、整備されるのにあと3年ぐらいかかるというのが鈴木氏の見立てである。一方、プノンペン―ホーチミン間(約230km)、プノンペン―バンコク間(約600km)は、メコン流域の3大経済回廊の1つである「南部経済回廊」にあたり、開発が進んでいる。2015年4月6日には、日本からの円借款で建設された「つばさ橋」がメコン川に完成し、陸路の流れがよりスムーズになった。

 通信費も他のASEAN諸国に比べると安い。最初から光、ワイヤレス、IPの通信インフラを整備したため、固定電話よりも携帯電話の方が主流であり、しかも安価である。固定電話は40万回線ほどしかない。これに対して、携帯電話のSIMカードは約2000万枚が流通している。カンボジアから日本へ携帯電話で国際電話をかけても、1分10セントほどしかかからない。

 ただし、電力に関しては、他のASEAN諸国と同様、問題を抱えている。もともと小規模の火力発電所しかなかったのに、IMFが無理やりアンバンドリングして民営化した結果、小粒の火力発電所ばかりになってしまった。電力発電で規模の経済を発揮するためには、最低でも500MWぐらいは必要とされる。しかし、カンボジアで多く見られるのは、1基50MW程度である(ちなみに、現在運転を停止している福島第一原発の発電量は、認可最大出力ベースで4,696MWに上る)。

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