プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年05月25日

『人生心得帖(『致知』2015年5月号)』―中小企業は「生業」で終わってはならないと思う


致知2015年4月号人生心得帖 致知2015年5月号

致知出版社 2015-05


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 中谷:うちは祖父・巳次郎が由布院に旅館を開いてから今年で93年です。組織には「完成形」というものはなくて、新しく変身し続けなければ時代の流れに取り残されて衰退しますし、だけど新しいものを取り入れたら間違いなくいいってものでもない。(中略)

 いま一番感じているのは、大事な思いを誰かに伝えていかないと、事業は一代では足りないということですね。ところが、どうやって次の世代に伝えていくか、そのことを真面目に考える人がいまは少ない。
(辰巳芳子、中谷健太郎「一生を歩み続ける 我が人生の心得」)
 以前の記事「『未来をひらく(『致知』2015年2月号)』―日本人を奮い立たせるのは「劣等感」と「永遠に遠ざかるゴール」」、「『一を抱く(『致知』2015年4月号)』―「自分の可能性は限られている」という劣等感の効能について」などでも書いたが、日本の企業経営は永遠に続く「道」であり、引用文にもある通り、とても一代で完成するようなものではない。だから、次の代、また次の代へと大事に受け継いでいく必要がある。日本には、創業200年を超える長寿企業が3,000社以上ある。これは世界の約4割であり、次点のドイツ(約800社)を大きく引き離して世界一だ。

 一方で、近年は中小企業の事業承継難が問題になっている。やや古いデータになるが、『中小企業白書(2006年版)』によれば、年間廃業社数約29万社のうち、約7万社は「後継者がいない」ことを理由とする廃業であると推定され、これだけの雇用が完全に喪失された場合を仮定すると、失われる雇用は毎年約20万人~35万人に上ると推定される。

 それから9年が経ち、事態は深刻化している。2014年の全国社長の平均年齢は60.6歳と高齢化が進んだ。年齢分布では70代以上の社長の構成比が上昇しており、5人に1人が70代となっている。現在の中小企業の経営者は、1950年代後半から70年代前半までの高度経済成長期に、20代~30代で起業した人が多い。社長が約半世紀もの間企業を引っ張ってきたものの、気がついたら自分は高齢者になり、かつ後継者もいない、という現実に直面しているわけだ。

 ただ思うに、中小企業が持続的に成長し、少しずつ社員の数を増やしていれば、後継者候補のプールができ上がり、後継者選びに苦労する可能性は低くなったはずだ。後継者難に陥っているということは、厳しいことを言うようだが、長い間小規模企業にとどまったままで、事業拡大や人材育成に十分な投資をしなかったツケが回ってきている、という見方もできる。事実、『中小企業白書(2014年版)』を見ると、小規模企業は中規模企業に比べて「自分の代で廃業することもやむを得ない」と回答する割合が高く、後継者選びに苦労している様子がうかがえる。

 事業拡大や人材育成に投資するには、一定の利益が必要である。ところが、中には利益を出すことをよしとしない中小企業がある。億単位の売上高に対し、税引き前当期純利益が数十万円しかない決算書をよく見かける。これは、日本の法人税の実効税率が諸外国に比べて高いためだと言われる。経営者は、税金で持って行かれるぐらいなら、役員報酬にして自分の手元に残そうとするわけだ。しかし、中小企業の場合は、様々な優遇措置を組み合わせると実効税率が下がる。一部の中小企業の経営者は、生来的に利益を出したがらない性格なのかもしれない。

 会計の教科書を読むと、「企業は『資本コスト』を上回る利益を上げなければならない」と書かれている。企業は金融機関から借入金を、株式市場から出資金を調達している。だが、これらの資金はタダでは調達できない。借入金には利息がかかるし、株主は配当やキャピタルゲインを期待している。よって、これらの費用を資本調達に要するコスト=資本コストと呼び(資本コスト=支払利息+配当金・キャピタルゲイン)、企業にはそれを上回る利益を要求するわけだ。

 しかし、現実には資本コストを上回る利益だけでは不十分である。企業を持続的に成長させるために、新しい設備を導入したり、新技術の研究開発を行ったり、工場やオフィスを増床したり、製造ラインの人員を増やしたり、営業担当者のスキルレベルを上げたりしなければならない。その原資は利益に他ならない。ドラッカーが述べたように、「利益とは将来のコスト」である。これに税金の支払いも考慮すれば、資本コストを上回る利益だけでは全く持って足りないのだ。

 利益率の適正水準は、事業規模や将来に計画されている投資内容によって異なるため、一概には言えない。ただし、京セラ名誉会長・稲盛和夫氏は、「経常利益率10%を出せなければ事業ではない」と述べていることは心に留めておく必要があるだろう。経営者と少数の社員が最低限食べて行ければよいという企業のことを「生業的企業」と言う。しかし、企業は社会的公器であるのだから、将来に渡って継続的に投資を行い、2代目、3代目と受け継がれることを目指すべきではないだろうか?(かくいう私も、そういう事業を実現しなければならない)

 逆に、持続的な成長に向けた利益を上げられない企業は、早い段階で市場から退出願いたい。最近、中小企業向けの補助金に関与する機会が増えたのだが、老朽化した設備を入れ替えるだけで多額の補助金を受けているケースが見られる。補助金とは本来、新製品開発や最新設備の導入など、リスクが高い取り組みを後押しするのが目的である。単なる設備のリプレースに必要な資金は、前述の通り企業の利益から捻出するのが本筋である。それすらできない企業は市場から退場するべきであり、そういう企業を補助金で救済する意味はないと思う。

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