プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年05月29日

ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?


世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
ドネラ・H・メドウズ Donella H. Meadows 小田理一郎

英治出版 2015-01-24

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 施策への抵抗に対処するひとつのやり方は、力で圧倒する方法です。十分な力を使うやり方で、それを続けることができるなら、この「力で」というアプローチはうまくいく可能性があります。その場合の代償は、とてつもない恨みと、その力が外されたときに爆発的な結果が生じる可能性です。(中略)

 施策への抵抗を力で抑え込む代わりの方法は、あまりに直感に反しているため、ふつうは考えられないものです。「手を放す」ことなのです。効果のない施策をあきらめるのです。押しつけたり抵抗したりすることに注いでいる資源やエネルギーを、もっと建設的な目的のために使うようにするのです。そのシステムはあなたの思い通りにはなりませんが、思うほど悪い方向に行くこともないでしょう。
 本書は「システム思考」に関する書籍である。システムの基本形や、システムが機能不全に陥るパターンを解説している。引用文は、著者が「施策への抵抗」と呼ぶ機能不全のパターンに言及した部分である。様々な利害関係者がよかれと思って施策を展開したのに、結局はお互いに足を引っ張って、誰もが望まない結果を招いてしまうことを指している。引用文にある「手を放す」という解決策は、著者の出身国であるアメリカにそのまま突き返してやりたいと思った。

 アメリカは、政治的自由に基づく民主主義と、経済的自由に基づく市場主義を強く信奉している。アメリカは中世を経験することなく、啓蒙時代に誕生したため、表向きは理性の働きによって宗教から脱却した、世俗的な国家として歴史を歩んできた。ところが、民主主義と市場主義に対する並々ならぬ熱の入れようを見ると、「アメリカ教」とでも呼んだ方がよいのかもしれない。

 アメリカが建国された時代に世界を動かしていたのは帝国主義であり、ヨーロッパ諸国が世界各地に植民地を建設していた。一部のアメリカ人は、これに倣って植民地の開拓に乗り出そうとしていた。しかし、アメリカ自体がイギリスの植民地支配から独立した国家であるため、イギリスと同じ道をたどるのは建国理念に反するとの声の方が大多数を占めるようになった。代わりに、アメリカ教という宗教(価値)を輸出することで、世界を支配下に収めることにしたのである。

 アメリカの目標は、世界で民主主義を実現することである。各国の政治に介入し、民主主義の推進派を積極的に後押しする。アメリカはイスラエルを中東で唯一の民主主義国家として支持している。また、中東におけるアメリカの盟友であるサウジアラビアをはじめ、周辺のイスラーム国家も民主主義国家に変革したいと考えている。2011年にエジプトで始まった民主化運動である「アラブの春」は、反欧米政府を打倒するためにアメリカが後方支援していたらしい。

 アメリカは独裁政権を強く批判し、時に制裁を加える。かつてブッシュ元大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだ。もっとも、イランは本来無関係だったのだが、3か国と言った手前もう1か国名前を挙げなければならなくなり、仕方なくイランを指名したのが実情らしい。その影響で、アメリカとイランの関係は冷え込んだ。最近、「アジア最後のフロンティア」として注目されるミャンマーも、軍事政権がアメリカから問題視され、長らく経済制裁を受けていた。

 民主主義と同時に、市場主義の普及(布教)もアメリカの重大な使命である。世界中が自由市場によってつながり、アメリカ企業の製品・サービスが世界中で消費されることが最終ゴールである。アメリカは基軸通貨のドルを握っているので、市場で自由自在に振る舞うこと可能だ。まず、ドル紙幣をせっせと印刷してカネ余り状態にする。余ったカネはアメリカ企業の株式に投資される。その結果株価は上がり、アメリカ企業は積極的な設備投資を行う。そして、供給力過剰によってアメリカ市場からあふれた製品・サービスは、世界市場を目指すようになる。

 どこの国も、自国の産業を守るために関税障壁などを設けている。ところが、アメリカが世界の自由市場化を目指す上で、この障壁は邪魔以外の何物でもない。したがって、アメリカは他国の経済政策にも介入し、アメリカにとって不利なルールや制度を撤廃させる。日本に対しても、年次改革要望書が送られてくる。だが、それぞれの国といちいち個別に交渉するのは大変だ。そこでアメリカが目をつけたのがTPPである。TPPによって、完全なる自由貿易のルール(つまり、アメリカにとって最も都合のよいルール)を、一気に多くの国に適用しようというわけだ。

 アメリカの野望の果てに実現するのは、世界中の人・モノ・カネ・情報が自由に往来しするフラットな世界である。とはいえ、あまりにつながりすぎた世界は重大な危険をはらんでいる。例えば、サブプライムローン問題は、リスクが高い低所得者の住宅ローンを複雑なアルゴリズムによって組み合わせ、元のリスクが解らないようにして世界各地の投資家にばらまいたことが原因だった。ひとたび住宅ローンの返済が滞ると、その影響は全世界に広がった。リーマン・ショックが起きた当初、日本は平静を保っていたものの、実際にはその後数年間深刻なダメージが残った。

 人の自由な往来によるリスクと言えば、イスラム国(IS)が挙げられる。ISにはヨーロッパやアジアなど、全世界から何万人もの若者が参加している。彼らが母国に戻った後、テロを引き起こす可能性がある。各国は、危険と思われる人物からはパスポートを取り上げて、ISへの渡航を事前に阻止するなどの対策を取っているが、おそらくこういうルールは機能しない。テロ行為は、何かルールで制限すればするほど、そのルールをかいくぐって先鋭化するものである。

 インターネットを介してあらゆる情報がつながるのも問題だ。IoT(Internet of Things)という言葉が登場し、パソコンだけでなく、家電、自動車などあらゆるモノがインターネットに接続される。もちろん生活が便利になるのはよいことだが、同時にサイバーテロに遭う危険性も高まる。パナソニックの関係者は、「我が社の炊飯器がペンタゴンを攻撃したらシャレにならない」と語っていたが、冗談ではなく十分にありうる。あってはほしくないことだが、グーグル、アップル、アマゾンあたりが、いつか情報管理をめぐって深刻なトラブルを起こすかもしれない。

 アメリカは、力によって他国を自らの望むシステムに取り込むのではなく、もう少し他国の文化や価値を尊重し、適度な距離を保つことを学ぶべきではないだろうか?政治的自由と経済的自由が両方とも実現されている国は、実は少数派である。世界には、政治的・経済的自由の度合いに応じて、様々な体制・社会が存在する。東アジアや東南アジアを見ると、中国、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなど、経済的自由はあるが政治的自由が制約されている国が多い。アメリカは、そういう国への共感力を鍛えるべき時期に来ている気がする。
 ただひとつの文化にこだわることは、学習を閉ざし、レジリエンスを弱めます。いかなるシステムも(生物学的なものでも、経済的なものでも、社会的なものでも)あまりに固く閉ざされていると、自己進化ができません。体系的に実験をさげすみ、イノベーションの原材料を消し去ってしまうシステムは、この非常に変化しやすい惑星の上では、長期的には消える運命にあります。


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