プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年05月05日

『IoTの衝撃(DHBR2015年4月号)』―IoTのシステムとクレジットカード・電子マネーシステムの共通点について


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 2005年5月5日にブログを開設してからちょうど10年になりました。旧ブログ現ブログブログ別館合わせて約1,600本、300万字超の記事を書いてきました。10年かかってようやく文章の書き方や学習の仕方が少し解った気がします。もう5月だというのに『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年4月号(発売は3月)のレビューを書くというマイペースぶりですが、今後も自分のペースでブログを続けたいと思いますので、変わらぬご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。
 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に関する特集。IoTとは、「コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと」と定義されている(e-Wordsより)。IT業界におけるもう1つの流行であるビッグデータと結びついて、インターネットにパソコンやスマホ以外のあらゆるモノを接続して様々なデータを幅広く収集し、その分析・活用を通じて顧客に新しい価値を提供しようとする動きであると解釈している。

 マイケル・ポーターの30ページに及ぶ長い論文が収録されていたのだが(マイケル・ポーター、ジェームズ・E・ヘプルマン「『接続機能を持つスマート製品』が変える IoT時代の競争戦略」)、正直に言うと退屈だった(苦笑)。マイケル・ポーターの十八番であるファイブ・フォーシズ・モデルを用いたIoTの分析では、「IoTによって機会も生まれるし脅威も生まれる」という当たり前の結論しか出てこなかったし、IoTをどのように戦略に反映させるかという点に関しては、煮え切らない選択肢を示しただけの印象を受けた。30ページも費やす必要はなかったように思える。

 IoTによって、モノの供給企業はまず、顧客のコスト削減を目指すだろう。最も手っ取り早い方法は、顧客に導入したモノの情報を収集し、適切な保守やメンテナンスを提供して、モノの寿命を伸ばす、というものだ。例えば、コマツは顧客に導入した建設機械をネットワークで管理し、車両情報を顧客に無償で提供している。しかし、一般的に、顧客にとってのコスト減は、企業にとっての売上減を意味する。よって、コマツの真似をする企業側はあまり現れないかもしれない。

 もう1つのコスト削減の方法は、モノに投入される資源(原材料やエネルギー)を節約する、というものである。東日本大震災以降の電力不足によって注目されるようになったスマートエネルギーシステムは、家庭や工場設備で消費される電力を管理し、電力消費の効率化を目指している。だが通常、顧客が消費する資源は、顧客に納入したモノ(機械設備など)とは金額の桁が大きく異なる。仮に、顧客が節約できたコストの一部をモノの供給企業が報酬として受け取るとしても、自社が販売するモノの価格よりは小さく、自社の収益モデルと合わない可能性がある。

 だから、IoTによって顧客への付加価値を高めようとする企業は、コスト削減だけではなく、モノの稼働率向上による売上増を提案しなければならない。
 GEが提案したのは、従来とは異なるシナリオである。このシナリオによると、エーオン(※ドイツ電力・ガス最大手)はすべてのタービンをソフトウェアで結びつけて、動的管理とリアルタイム分析を実現する仕組みを構築する。それによって、風力タービンを追加購入して発電能力を増やすよりも少ない支出で、需要に応えることができるのだ。

 一方GEは、タービンをはじめとする風力発電機器に搭載したセンサーから有益なデータを取り出し、その情報を機器性能の最適化や効率的な稼働・保守に活かすことで価値を創造する。そして性能向上によって顧客が得た利益の一定の割合を請求し、価値を回収する。つまりGEが販売する機器の数は減るが、長期的な互恵関係が構築されるのである。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカニー「製品価値からサービス価値への転換 GEが目指すインダストリアル・インターネット」)
 ここで問題になるのは、IoTのネットワークをどこまで広げるか?ということである。より精緻な分析による生産性向上を提案するならば、自社が納入したモノに関するデータだけでは足りない。顧客は、自社が納入したモノに、他の供給企業から調達した様々なモノをつないで使用している。顧客のシステム全体を最適化するならば、他社のモノの情報も取得する必要がある。

 かといって、供給企業は無制限にIoTのネットワークを広げることはできない。少なくとも、自社にとって直接の競合他社のモノをネットワークに招き入れることはない。仮に自社のIoTシステムによって、自社のモノを使用するよりも競合他社のモノを使用した方が稼働率や売上高が上がるという結論が出てしまったら、自社はシステム開発の費用を負担した上に顧客を失うという悲惨な結果を招く。だから、GEは自社のシステムにシーメンスや日立を入れることはあり得ない。

 自社のIoTシステムに、自社のモノに隣接する関連企業を招き入れる際にも同じ理屈が成り立つ。関連企業は、IoTシステムに自分の競合他社が加わるのを嫌う。なぜなら、競合他社に顧客が流れる可能性が出るからだ。IoTシステムの親元としては、顧客にとっての選択肢を増やし、システムの精度を上げるために、関連企業を数多くシステムに参入させたい。しかし、それだと関連企業が1社も参入してくれず、システムが破綻する。よって、IoTシステムの親元は、自社と関係の深い関連企業を慎重に選びながらシステムに参入させることになる。

 こうしてでき上がるIoTシステムは、クレジットカードや電子マネーのシステムと極めて類似したものになる。クレジットカードや電子マネーの発行元は、顧客を囲い込むために、加盟店を限定している。全ての店舗で使用できる電子マネーというのは存在しない。T-POINTは様々な業界から加盟店を集めているが、1業界から加盟できるのは1企業に限定されている。T-POINTカードは、ファミリーマートだけで利用できるからファミリーマートにとって意味があるのであって、セブンイレブンでも使えるようになってしまったら、ファミリーマートはうまみを失う。

 そして、クレジットカードや電子マネーの種類が年々増えていくのと同様に、IoTシステムも当面は様々な企業のシステムが乱立した状態になるだろう。我々がクレジットカードや電子マネーカードを何枚も財布に入れているように、顧客はいくつものIoTシステムを同時に使わなければならない。顧客からすれば、モノの供給企業から利便性が高まると言われてIoTシステムを導入したのに、かえって利便性が悪くなるという事態になるかもしれない。

 あらゆる企業を取り込んだオープンなIoTシステムを作れるのは、モノから完全に独立したIT企業しかない。ちょうど、普遍的な価値を持つ紙幣を作れるのは、あらゆる購買から独立した中央銀行だけであるのと同じである。例えばグーグルやIBMなら、特定のモノの供給企業との関係を考慮する必要がない。よって、彼らがIoTシステムで工場やオフィスを丸飲みして、売上増につながるソリューションを提供するようになるかもしれない。モノの供給企業がせっせとIoTシステムを構築しても、IT業界の巨人がそれを一気に駆逐してしまうことは十分に考えられる。

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