プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年06月08日

ジャック・ビーティ『マネジメントを発明した男 ドラッカー』―右派とも左派ともとれるドラッカー思想の4ポイント


マネジメントを発明した男 ドラッカーマネジメントを発明した男 ドラッカー
ジャック ビーティ Jack Beatty

ダイヤモンド社 1998-04

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 「ドラッカー山脈」とも呼ばれるドラッカーの経営学を一気に紹介した1冊である。しばしば、ドラッカーは右派なのか左派なのかよく解らないと言われる。この点についてドラッカー本人は、自分の思想は古典派経済学が基本であり、明確な右派であると回答している(『マネジメント・フロンティア』所収のインタビューより)。本書を読んで改めてドラッカーの思想を振り返ってみると、確かに右派なのか左派なのか解らなくなる箇所が4点ほどあった。

 (1)分権化とフラット化
 ドラッカーはGMの研究を通じて、分権化の重要性を訴えた。ドラッカーが提唱した数多くのコンセプトの中で、分権化は最も人気の高いものの1つである。1980年代までに、フォーチュン500社の75~80%が、ドラッカーに影響されて分権化を実施したと言われているらしい。分権化は、本社の経営陣にとっては、各部門に対し仕事のやり方を細かく指示しなくてよいというメリットがあった。一方、事業部門の若いエグゼクティブにとっては、キャリアの早い段階でマネジメントに参加し、経験を積むことで、本社のポストに昇進した後の問題を軽減することができた。

 分権化とは、意思決定の権限をより現場に近いところへ移す。究極的には、現場の人間が意思決定をすれば、組織は最も早く行動することができる。よって、分権化を推し進めれば、必然的に組織のフラット化につながる。ところが、ドラッカーは、1990年代に入ってからかつてないほど進行したフラット化に対して、危機感を募らせていた。分権化には、リーダーシップを発揮できる人材の育成という目的も込められていた。しかし、フラット化はその側面を破壊する。エグゼクティブを育てるファーム・2軍がなくなり、組織の全部が1軍になってしまう、というわけだ。

 (2)マネジャー的な存在と経営への参加
 本書のタイトルにもあるように、ドラッカーの最大の功績はマネジメントを発明したことである。別の言い方をすれば、マネジメントを企業のトップだけではなく、あらゆるエグゼクティブのものにしたことである。ドラッカーの言うエグゼクティブの範囲は広い。エグゼクティブについて論じた『経営者の条件』では、時間の使い方について意思決定する者は皆エグゼクティブであると定義されている。この定義に従えば、ほとんど全ての労働者がエグゼクティブと言えよう。

 ドラッカーは、今までマネジメントと無縁であった人々がマネジメントを学ぶにはどうすればよいかを検討した。初期の頃は、例えば工場労働者に社員食堂の運営をさせるとか、企業の福利厚生プログラムの企画・実行に社員を関与させるといった具合に、職場のコミュニティ活動を社員に任せることを提案した。だが、そのような素朴な手法はやがて主張されなくなった。もっと直接的な表現で、社員一人一人が自分の仕事のやり方、作り出した製品・成果物などを、マネジャーが見るような視点から見る態度を習得しなければならない、と述べている。

 下位のマネジャーは、上位のマネジャーのために仕事をしている。ということは、下位のマネジャーの視点を持つ人がもっといい仕事をするためには、上位のマネジャーの仕事も理解する必要がある。この考え方を突き詰めていくと、視点は組織階層をどんどんと上に上って行き、現場社員はトップの仕事を理解しなければならない、ということになる。もっと急進的な人は、現場社員をトップの意思決定に「参加」させようとするだろう。しかし、ドラッカーは参加という言葉をひどく嫌った。企業経営に社員が参加することはあり得ないと断言している。企業経営は、相応の訓練を受けたエグゼクティブにしか遂行できないと言う。

 ドラッカーは、自分が与えられた職務の中でマネジメントを実行せよと言いたかったのではないだろうか?端的に言えば、「しゃしゃり出るな」ということである。その代わり、自分の守備範囲内の仕事は、周りからあれこれ言われなくとも確実に貫徹しなければならない。自分に求められている成果を明確にし、成果を実現するための手段・プロセスを確立し、そのプロセスに投入する資源を自ら調達・コントロールし、得られた成果を厳しく評価することを要求したわけである。

 (3)賃金・雇用の保障
 古典派経済学に素直に従えば、賃金や雇用は労働の需給バランスによって自由に決まる。もっとも、この考え方をそのまま実現している社会・経済システムはまず存在しない。何らかの賃金・雇用保障を組み合わせることで、労働者の生活を保護しているものだ。ドラッカーの主張はもっとストレートである。GMの研究をまとめた『企業とは何か』では、賃金保障について言及している部分がある。賃金保障を行えば、景気が悪くなってレイオフ(一時解雇)されても、社員の家族は標準的な生活水準を確保することができる、としている。

 ドラッカーは、大恐慌の時代に雇用を維持したIBMを絶賛している。IBMは、大恐慌の期間中にもかかわらず成長を遂げた。それは、IBMの戦略が功を奏したからである。まず、既存製品の新しいユーザーや新しい利用法を発見することに注力した。次に、まだ満たされていない需要を掘り起し、それを満たす新製品を開発した。さらに、外国市場の開拓や輸出の促進にも取り組んだ。企業はIBMのような雇用維持に努めなければ、社員に対して前述したマネジャー的な態度という厳しい責任を要求する正当性がないというわけだ。

 ドラッカーは『現代の経営』の中で、「事業の目的は『顧客の創造』というただ1つである」という有名な言葉を残した。ドラッカーのこれまでの主張を踏まえれば、単に顧客を創造するだけでは不十分ということになるだろう。自社の社員という経営資源を維持・活用しながら、という条件つきの下で、顧客を創造しなければならない。しかし、事業の目的とこの条件は、独立した箇所で論じられており、相互の関係については、実はあまり深く論じられていないように感じる。

 また、企業は賃金や雇用を維持すべきだと主張している一方で、政府がそのような社会保障策を積極的に展開することには否定的である。製造業の国際競争力強化によってブルーカラーの雇用削減を行うよりも、ブルーカラーの雇用確保の方を優先させる国や産業は、生産も雇用も失う。製造業におけるブルーカラーの職を早く減らせば減らすほど、国全体の失業は少なくて済む、と指摘している。この点も含めて、全体の論理的整合性をどう考えるかも難しいところだ。

 (4)小さな政府か大きな政府か?
 ドラッカーは『断絶の時代』の中で、政府に対する幻滅を吐露している。1918~60年までに成人した成人は、政府と相思相愛だったらしい。ところが、国民が政府に奇跡を期待した結果、その反動として幻滅しか感じなくなった。こうした政府批判に奮起し、政府には通貨の印刷や戦争の遂行以上の役割があると息巻いていたのがニクソン大統領であった。しかし、彼は結局、通貨を増発してインフレを進行させ、ベトナム戦争とウォーターゲート事件を起こしただけであった。

 だからといって、ドラッカーは、政府を解体して適者だけが生き残るダーウィン的な資本主義を説くわけではない。また、それより多少穏便に、政府の弱体化を進め、小さな政府を実現させようとするわけでもない。国民が政府に幻滅していても、政府には政府にしかできない役割があると主張する。その1つが、子どもの長期学校教育ばかりに偏っていた教育の方向性を転換し、大人の継続的学習に注力する、というものである。知識労働者(これもドラッカーの発明品だ)が知識を更新し続けるために、政府は成人学習の機会をもっと整備しなければならない。

 ドラッカーは、「右派だからこういう風に論じなければならない」、「左派の立場に立てば必然的にこういう結論になる」という機械的な論理構成を嫌ったに違いない。ドラッカーは、「機能する社会」というものを常々目指していた。機能する社会とは、全ての構成員が何らかの地位や役割を持つ社会である。ドラッカーは、人が社会の中で地位・機能を失うことは、その人の尊厳を失うことであると考えた。ドラッカーは、右派や左派というカテゴリーを超えて、人間が尊厳を保つためにはどうすればよいのか?という観点から自らの思想を構築したのであろう。

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