プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年06月10日

『一天地を開く(『致知』2015年6月号)』―「観光地化」を目指すなどと簡単に言ってはならないのではないか?


致知2015年4月号一天地を開く 致知2015年6月号

致知出版社 2015-06


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 先日、取材を受けた時に日光の仕事の現場に一緒に行きましてね。地上11メートルのところで塗り直しの作業をやっていたんですが、花の輪郭の部分で僅かに不適切な部分があったので、やり直してもらいました。側にいた記者の方は、そんな誰も見えないようなところをやり直しても意味がない、と驚いているので言ったんです。「私たちの仕事の基準は神様です。神様のためにやっている以上は、人間の目に見える、見えないというのは関係ないのです」と。
(刀根健一、デービッド・アトキンソン「長寿企業の再興に懸ける」)
 引用文は小西美術工藝社社長の言葉である。小西美術工藝社は江戸時代寛永年間の創業で、社寺殿堂、邸宅、文化財、国宝建造物などの美術工芸工事を行っている。国の重要な文化財を守るという崇高な使命を負っている会社ならではの厳しい言葉である。だが、それ以上に驚くべきことは、同社の社長がイギリス人のデービッド・アトキンソン氏であるということだ。

 アトキンソン氏は、ゴールドマン・サックスの出身である。1990年代、日本の銀行が抱える不良債権額が20兆円にも上るとするレポートを書き、銀行業界に大論争を巻き起こした人物だ。金融業界をリタイアした後は、別荘のある軽井沢で悠々自適の生活を送っていたのだが、小西美術工藝社の社長に口説かれて同社に入社したという。在日歴25年のアトキンソン氏は、日本人以上に日本文化の神髄を理解しているのだから、こちらはただただ脱帽するしかない。

 アトキンソン氏が、金剛組・刀根健一氏との対談の最後で語ったのが、次の言葉である。
 もっと観光戦略に力を注いで、寺社仏閣、文化財を観光資源として再認識していく必要がありますね。最近力を入れられているアニメや漫画ばかりではなくて、日本の歴史だとか伝統芸能だとか神社仏閣というようなところをまずちゃんとしていかなければなりません。(中略)

 これまで私たちの業界は、日本人1億3千万人を相手にしてきましたが、観光戦略に取り組むことを通じて、全世界の70億人にアピールしていく。これによって、減っていく日本人だけでは支えられない可能性のあるところを何とか支えていくべきだと思うんです。
 「観光立国」を目指す政府は、2003年以降、「訪日外国人旅行者1000万人」を目標にビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)などに取り組んできた。その結果、2013年には訪日外国人旅行客数が初めて1,000万人の大台を突破し、2014年には1,300万人まで増加した。政府はさらに高い目標を掲げ、東京五輪が開催される2020年までに訪日外国人旅行者数2000万人を達成すると意気込んでいる。アトキンソン氏は、日本の観光資源の活用がもっと進み、観光客の数が欧米並みになれば、新たに400万人の雇用が生まれ、GDPが8%成長すると試算する。

 だが、観光というのはあくまでも贅沢品である。私が以前から用いている下図(※未だ作成中)に従えば、「必需品ではない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限に属する。この象限は、顧客の好き・嫌いという主観に大きく左右される。必ずしも生活に必要ではないものを、好きと思わせるのは、並のマーケティングでは不可能だ。

製品・サービスの4分類(修正)

 また、この象限の特徴として、競合他社が非常に多岐にわたるという点が挙げられる。東京の競合は京都だけでない。ましてパリやニューヨークだけもない。顧客は、次のバカンスに東京に旅行に行くか、自宅でゆっくりとDVDを観るか天秤にかける。極端なことを言えば、東京への旅行と、スマートフォンアプリでの時間潰しさえ比較の対象となる。したがって、潜在的な競合他社を幅広く洗い出し、全方位的に差別化戦略を立案しなければならない。観光客を呼び込もうとしている人たちに、果たしてそこまでの覚悟があるのか、私はやや疑問を感じる。

 《参考記事》
 『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―「失敗すると命にかかわる製品・サービス」とそうでない製品・サービスの戦略的違いについて
 『創造性VS生産性(DHBR2014年11月号)』―創造的な製品・サービスは、敢えて「非効率」や「不自由」を取り込んでみる
 『目標達成(DHBR2015年2月号)』―「条件をつけた計画」で計画の実行率を上げる、他

 日本が外国から観光客を呼ぼうとしているのと同様に、商店街は商圏外から観光客を呼ぼうとしている。そのベストプラクティスとしてしばしば参照されるのが、鳥取県境港市の「水木しげるロード」である。とはいえ、商店街の観光地化は、危険をはらんでいることを忘れてはならない。

 これまでの商店街支援施策は、商店街の中にある全ての店舗に対して、公平にその効果が行き渡るよう配慮されていた。しかし、前述の通り、観光とは好き・嫌いで判断される世界である。よって、商店街の店舗の中には、観光客に好かれるところとそうでないところが出てくる。事実、水木しげるロードでは、観光客で繁盛している店舗と、閑古鳥が鳴いている店舗がはっきりしており、明暗が分かれているらしい。観光地化を目指す商店街は、公平性を捨てられるだろうか?

 だが、そもそも論として、地元の人にも愛されない商店街が、域外の人に好かれるようになるだろうか?商店街の基本は、あくまでも地元の人のために存在することである。その延長線上で観光地化することはあっても、最初から観光地を目指すのは奇妙な話である。商圏人口が減っているから観光客を取り込むべきだと躍起になっている人は、一度立ち止まってもらいたい。

 商店街を取り巻く環境は厳しいと言われる。商圏では人口減少・高齢化が進んでいる。また、商圏を支えていた大型スーパーが撤退し、さらに買い物客が減少した(かつて商店街は大型スーパーをあれだけ敵対視していたのに、いなくなったらいなくなったで騒ぎ立てるのだから不思議だ)。しかし、裏を返せば、今こそ商店街の大チャンスである。高齢者世帯は遠くまで買い物に行けないから、家近くの商店街を好むようになる。しかも、最大の敵である大型スーパーはもういない。この状況で業績を好転できないならば、商店街は座して死を待つしかないだろう。

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