プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年06月25日

戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(2/2)


 (前回の続き)

 《参考記事(旧ブログ)》
 【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回予定)

戦略を立案する7つの視点

 ⑤新市場開拓戦略とは、既存の製品を活用して、新規の市場を切り開く戦略である。ただし、既存の製品がそのまま新規の市場に通用するとは考えにくいため、既存の製品を多少変更する必要はある。新市場開拓戦略としてまず挙げられるのが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンの「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」である。企業は製品の付加価値向上を狙い、こぞって性能アップを目指す。ところが、あまりに性能が上がりすぎると、そこまでのレベルを期待していない顧客層が生まれる。彼らをターゲットに、既存製品の性能を落としたり、機能を絞り込んだりした製品を販売すると、一気に受け入れられることがある。

 「ローエンド型破壊」や「新市場型破壊」は、個人的には意外と高度な戦略であると思う。もっと手軽にできる方法としては、旧ブログの記事「【第4回】全く異なる属性の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン」で述べたように、反対の属性の顧客に狙いを定める、というものがある。非常に安直な発想だが、男性向けの製品を女性向けに、若者向けの製品を高齢者向けに販売する、といった具合だ。だが、中には比較的成功しやすい逆転の発想のパターンもある。

 例えば、BtoBから始まった企業がBtoCでも成功することがある。一般的に、法人顧客は個人顧客に比べて要求水準が厳しいため、製品の完成度が高くなる。それを、個人顧客の要求レベルに合わせて上手く調整すれば、個人顧客にも受け入れられるようになる。日本通運は、陸運元会社として創業し、法人向けの貨物輸送・物流業務を得意としていたが、一方で1977年に開始した「ペリカン便」でも成功した(その後、JPエクスプレスに移管)。もちろん、顔の見える限られた顧客とじっくりビジネスを行うBtoBと、不特定多数の顧客を相手に迅速にビジネスをしなければならないBtoCでは、求められるビジネスモデルが異なる点は言うまでもない。

 富裕層向けの製品を一般消費者向けに展開するという方法もある。リチャード・コニフ『金持ちと上手につきあう法』(講談社、2004年)によると、富裕層の「顕示的消費」が人々の生活を豊かにしたという。富裕層は、プラスティック、水洗トイレ、陶器、ガラス、自動車などの最初の購入者となった。それをうらやましく思った多数の一般消費者からのプレッシャーによって、数多くの高級技術が実用技術へと変容し、やがて一般消費者にも手が届くようになったというのだ。よって、今は富裕層しか消費していない製品の中に、将来のヒット製品が隠れている可能性がある。

金持ちと上手につきあう法  「ザ・リッチ」の不思議な世界へ金持ちと上手につきあう法 「ザ・リッチ」の不思議な世界へ
R・コニフ

講談社 2004-03-16

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 軍事技術を民生技術に転用するという道もある。コンピュータはもともと弾道計算が目的であったし、電子レンジはアメリカのレイセオン社のレーダー開発が発端である。インターネットについても、ソ連からの核攻撃を想定し、仮に核攻撃を受けても指揮能力を喪失しないようにするために、分散処理システムとしての現在のインターネットの原型が誕生したという俗説がある。アメリカは財政赤字などを理由に軍事費を削減しているが、軍需産業を手放すことは絶対にないだろう。軍事技術から重要なイノベーションが生まれることをよく知っているからだ。

 既存の製品を未知の市場で展開する方法には、海外展開も含まれる。ただし、日本ではよく知られた製品でも、海外では初めて見る製品であるから、それが受け入れられるには長い時間がかかるし、場合によっては大幅なローカライズも必要である。日本のコンビニは今や世界各国に進出しているが、現地の習慣に合わせてカスタマイズされている。例えば、インドネシアでは家族で買い物に出かけ、お店で買ったものをその場で食べる習慣がある。そこで、インドネシアに進出したコンビニは2階建てとし、2階を食事スペースとしている。

 逆に、インドネシアに進出したある100円ショップから、1つ失敗談を聞いたことがある。この100円ショップは、オペレーション効率を優先し、日本とほとんど同じ製品ラインナップにした。ところが、その中にはカブトムシ用の虫かごと虫取り網が含まれていた。現地のインドネシア人によれば、インドネシアにはカブトムシはいないし、昆虫を捕まえて家で飼うという習慣もないという。

 ⑥代替品開発戦略は、新規市場開拓と同時に既存市場を破壊するという意味で、非常に危険な戦略である。しかし、放っておけば誰かが代替品を開発して、自社のビジネスを破壊するに違いない。よって、痛みを伴うとしても、着手せざるを得ない領域である。最も予測しやすい代替品は、大幅な技術革新によって、性能などが飛躍的に変化するものである。ガソリン自動車から電気・水素自動車への転換は最たる例だろう。顧客層自体は変化しないが、技術的には全く別物となる。しかも、電気・水素自動車は、ガソリン自動車に取って代わる存在である。

 2つ目のパターンは、顧客の同じニーズを別の手段で満たすような代替品の開発である。以前、マンガ雑誌社の人から、「社会人男性に雑誌が売れなくなった」という嘆きを聞いたことがある。雑誌不況も一因なのだが、一番の原因は「スマホが普及したこと」であると分析していた。結局、電車でマンガ雑誌を読んでいる大人にとって、マンガの中身が重要なのではなくて、目的地に着くまでの暇つぶしができることが重要だったわけだ。そして、スマホは暇つぶしの道具として最適であり、マンガ雑誌を駆逐してしまった。この教訓から学ぶことは多いと思う。

 ここまでの2つの話は、既存顧客のニーズをいわば対処療法的に解決するものである。代替品開発戦略の3番目は、顧客ニーズを根源的に解決する。最近、電車で髭剃りの広告をよく見かけるのだが、髭剃りの広告は10年前から切れ味のよさを訴求するだけで、内容的にはあまり変わっていないように感じる。髭剃りは、「伸びた髭を剃る」というニーズを解決するものである。しかし、顧客の根本的なニーズは、「髭が生えないようにする」ことかもしれない。よって、髭を毛根から死滅させる塗り薬が発明されたら、髭剃り市場は一気に縮小するのではないだろうか?

 未知の市場を今までに存在しなかった製品で開拓するのは、⑦完全なるイノベーションである。この分野ははるかに難易度が高く、どんなアプローチがあるのか、私には十分なアイデアがない。顧客の潜在ニーズから出発するか、先行する技術シーズから出発するか、そのどちらかなのだが、具体的にどう検討すればよいのか、今後もっと詰める必要がある。ただ1つ、完全なるイノベーションとは言えないかもしれないけれども、「日本には存在しないが海外に存在する製品を日本に持ち込むことで、日本国内の市場を切り開く」という方法があることを指摘しておきたい。

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