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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年07月08日

タイの労働法制について(タイビジネスセミナーメモ書き)


タイシルク

 (写真は「タイシルク」。タイシルクの最大の特徴はその独特の「光沢」にある。タイシルクの産地であるイサーン地方の蚕は、日本の蚕よりも太い糸を吐く。そのため、光の反射と屈折が通常の細いシルクとは違った複雑なものになり、独特の光沢が生まれるのだという)

 タイビジネスセミナーでタイの労働法制について話を聞いてきたので、その内容のメモ書き。講師は牛島総合法律事務所の稗田直己氏。牛島総合法律事務所は、タイにおける地元最大の法律事務所であるテレキ・アンド・ギビンズ法律事務所(Tilleke & Gibbins)と提携している。日本の労働基準法と労働契約法に相当するタイの法律は、「労働者保護法」と呼ばれる。以下、同法の話を中心に記載する。

 (1)賃金は、労働者の就業場所で、タイの通貨により、月1回以上、全額を支払うと定められている。なお、法律では現金払いを想定しているため、銀行振込の場合は雇用契約でその旨を定めなければならない。なお、現物支給については、現金給与に相当する価値があれば、従業員との合意の下で認められる。

 (2)賃金カットは労働条件の不利益変更にあたるため、従業員から個別の同意を得る必要がある(全従業員の3分の2以上が加入する労働組合がある場合は、労働組合の代表と合意すれば、同種の業務を行う従業員の賃金をカットできる)。

 ここで注意が必要なのが、賞与の扱いである。賞与は、毎年1回、1か月分以上を支払うことになっていると、賃金と見なされる。そのため、賞与をカットする場合には、従業員の同意が必要になる。日本のように、賞与の金額を業績と連動させたい場合は、就業規則に連動のルールを明確に定めた上で、その通りに運用しなければならない。

 (3)時間外・休日勤務をさせる場合は、その都度従業員の書面による事前承諾が必要である(中断により業務に損害が生じる場合や緊急の場合などを除く)。この規定があるため、タイでは残業拒否が賃上げ要求の材料として使われる。バンコク商工会議所の調べによると、2013年に起きた労使紛争の中で最も件数が多かったのが残業拒否である。

 日本とタイでは、残業の定義が異なる。就業規則で所定労働時間を9:00~17:00(12:00~13:00は休憩)の7時間と定めている企業が、17:00~18:00の1時間残業をさせたとする。日本の場合、法定労働時間は1日8時間であり、残業を合わせても法定労働時間内に収まるため、割増賃金は発生しない。ところが、タイの場合、法定労働時間(日本と同じく8時間)内に収まるとしても、所定労働時間の7時間を超えているため、割増賃金を支払う必要がある。

 (4)管理職は時間外・休日超過勤務手当を受け取る権利を有しない。管理職とは、「使用者を代理し、雇用、報酬の付与、賃金の引き下げ、または雇用の終了の権限を有する者」と定められている。管理職に該当するかどうかは、雇用、報酬の付与、賃金の引き下げ、または雇用の終了について、独占的な権限を有するか否かで判断される。上司に事前に了承を取らなければ意思決定できない人は管理職とはならない。したがって、管理職の範囲は非常に狭い。

 (5)派遣労働者を使う場合、当該労働者の業務が、事業者が責任を負う生産工程または事業運営のいずれかの部分であるならば、事業者は当該労働者の使用者と見なされる。派遣労働者が、雇用契約に基づく労働者と同じ態様で労働する場合、使用者は公正な権利および利益並びに福祉を、差別なく受けさせなければならない。

 平たく言うと、派遣労働者と正社員の勤務態様が同じならば、派遣労働者に対して、正社員と同じ給与、賞与、各種手当などを支給する必要がある。この規定があるため、タイでは人件費抑制のために派遣労働者を使うメリットが薄れている。

 (6)タイの法律には疾病休暇の規定があり、労働者は病気の期間欠勤する権利があると定められている。しかも、最長で年間30日まで有給となる。タイの労働者はこの規定を利用して、無断欠勤した後、「実は病気でした。有休にしてください」と主張することがあるという。また、法律では、病欠が3勤務日を超える場合は医師の診断書が必要とも定められている。ところが、中には自分で自分の診断書を書いて、平気で会社に提出する人もいるので要注意である。

 私用休暇についても、期間、および有給か無給かを就業規則で定めることができる。タイは敬虔な仏教国であり、タイの男性は一生のうちに一度は出家するものとされている。そして、この私用休暇を利用して出家する。出家期間は人によってまちまちであり、2週間程度でいいと言う人もいれば、1年以上出家したいと言う人もいる。だが、仮に無給であっても1年間会社を休まれては業務に支障が出るから、私用休暇について就業規則で明確に定めておく必要がある。

 (7)普通解雇には、事前解雇通知をする場合と即時解雇する場合がある。事前解雇通知の場合は、当月の給与日以前に、翌月の給与日に解雇する旨の通知を行う(例えば給与日が25日で7月10日に解雇通知した場合、解雇できるのは8月25日となる)。即時解雇の場合は、事前通告による解雇時までの賃金に相当する額を支払う。加えて、事前解雇通知の場合も即時解雇の場合も、勤務期間に応じて解雇補償金を上乗せしなければならない。

 ここで注意が必要なのは、タイでは解雇の概念が広いことである。例えば、上司が部下とケンカになり、部下は「明日から来なくてよい」と言われたので翌日から会社に来なかったとする。日本であれば無断欠勤として扱われ、上司と部下の関係修復を試みるのが普通であるが、タイでは解雇と判断される。この場合は即時解雇にあたるため、事前通告による解雇時までの賃金に相当する額に、解雇補償金を上乗せする必要が生じる。なお、タイでは定年退職も普通解雇に該当するので、事前通知や解雇補償金の支払いが求められる。

 (8)タイの法律では機械導入などによる解雇が認められている。機械の導入、機械または技術の更新が従業員の削減を伴う場合、事業、製造工程またはサービスを再編する結果として従業員を解雇することができる。解雇予定日の60日以上前に、従業員名、解雇日および解雇理由を、従業員本人および労働監督官に通知する(または、通知に代えて賃金60日分を支払う)。そして、普通解雇の場合の解雇補償金を支払う。加えて、6年以上連続して勤務している従業員に対しては、勤務期間1年につき賃金15日分(最大360日分)を支払う。

 (9)解雇された従業員が会社と争う場合は、労働裁判所を利用することになる。労働裁判所は、手数料が無料、弁護士が不要、駆け込めば書記官が訴状を書いてくれるなど、労働者にとって非常に使い勝手がよいものとなっている。解雇の正当性については、使用者側が立証責任を負う。労働裁判所は、まず労使双方に和解を勧め、和解に至らない場合には証人尋問を行う。ただし、労働者寄りの裁判官が強烈に和解を勧めてくるケースが多いらしい。

 (10)これは余談。タイに短期間出張する場合であっても、タイでの終了に該当するならば、ノン・イミグラントビザBとワークパミットが必要になる。就労に該当しない行為として、タイ労働省雇用局は以下の行為を挙げている。

 ・会議、会合またはセミナーへの出席
 ・展示会、見本市への出席
 ・事業所の訪問または商談への出席
 ・特別なレクチャーまたは学術的講義の聴講
 ・技術訓練に関するレクチャーおよびセミナーの聴講
 ・見本市での商品の購入
 ・自社の取締役会への出席

 ただし、セミナーや展示会を開催すること、セミナーのスピーカー・講師となること、現地子会社の会議に出席した後工場を見学すること、OJT、監査業務、機械のアフターサービスは就労に該当するので要注意である(無償であっても就労と見なされる)。また、上記はタイ労働省雇用局が挙げた条件、すなわちワークパミットが不要となる条件であり、ノン・イミグラントビザBが不要になる条件は移民局に確認しなければならない。さらに、タイでは法律の運用が担当者によって異なることが多いため、常に現地の最新動向を確認する必要がある。

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