プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年07月13日

日本とアメリカの戦略比較試論(前半)


 以前の記事「日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考」に続いて、またしても乱暴な(?)日米比較論を書いてみたいと思う。

製品・サービスの4分類(修正)

 この図自体もまだ作成中で乱暴なのだが、世の中の製品・サービスは、「必需品か否か?」、「製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが大きいか否か?」という2軸でマトリクスを作ると、上図のように分類できると考える。ただ、右上の「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」に該当する製品・サービスは、ほとんど存在しないと考えられる。必需品でないということは、需要予測が難しいことを意味する。また、顧客の生命・事業に影響を与えないようにするためには、高度な事業経営が要求される。このようなハイリスクの領域は、普通はどの企業もやりたがらない。

 左下の「必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限は、食料品や日用品、基本的な家電などが該当する。経済発展の初期段階では、この象限を担う地場のメーカーが次々と現れて、成長を牽引するのが理想である。逆に言えば、先進国のグローバル企業が規模の経済を活かしてこの象限に参入するのは、あまり好ましくない。途上国や新興国では、グローバル企業の攻勢をかわすために、保護主義的な政策が見られる。

 アメリカ企業は、左上の「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」という象限に強い。映画、テレビドラマ、音楽、スポーツ、ファストフード、スマートフォンアプリ、Webサービスなどがそうだ。イノベーションによって新しい製品・サービスを生み出し、それを世界中で展開する。イノベーションは、まだ顕在化していないニーズを先取りする活動である。そのため、「世の中の顧客は何をほしがっているか?」と問うのではなく、自分自身を最初の顧客に見立てて「私は何がほしいか?」、「私は何が好きか?」という問いから出発する。

 アメリカはキリスト教・一神教の国である。「私はこういう製品・サービスがほしい」、「私が考えた製品・サービスを他の人々にも広めたい」という構想を固め、唯一絶対の神にその実現を誓う。これが、キリスト教における”契約”であり、マズローの欲求5段階説で言うところの”自己実現”である。こうして、アメリカでは数多くのイノベーターが神と契約を結ぶ。

 しかし、本当に”真”である契約は、神しか知らない。大多数のイノベーターは、神と契約を”結んだ気分”になっているにすぎない。彼らは時が経つにつれて、神と真の契約を結んだごく一部のイノベーターに駆逐される。成功したイノベーターと失敗したイノベーターの間には、大きな格差が生まれる。加えて、イノベーターのような構想を描くことができない、言い換えれば神に対する信仰が薄い人々は、成功するイノベーターによって道具のように利用される。アメリカにおいて信仰が薄いということは人間ではないことと同義であり、したがって道具扱いされても文句は言えないのである。こうしてアメリカでは、成功者とその他大勢の間に、天と地ほどの差が生じる。

 左上の象限は必需品ではないことから、顧客の好き嫌いに大きく左右される。よって、製品・サービスの当たり外れが大きく、経営が非常に不安定になりやすい。正社員を毎年採用し、組織全体の人数を少しずつ成長させるという常識的な経営は難しい。そこで、この象限の経営者は、リスクを分散させるために、正社員契約ではなく業務委託契約を結ぶ。タレント事務所、レコード会社、映画制作会社、プロスポーツチーム、ITサービス会社(BtoC)と俳優、アーティスト、クリエーター、スポーツ選手、プログラマとの契約はそのようになっている。

 イノベーターは、イノベーションの出発点となった自分自身の「好き」を人々にも押しつけようと、ゴリ押しマーケティングやステルス・マーケティングなど、強引な手法に出る。企業側の思惑通り、そのプロモーションに感化された人たちは、その製品・サービスを熱狂的に受け入れるコアなファンとなる。しかし、プロモーションを生理的に受けつけない人は、その製品・サービスを徹底的に毛嫌いする。彼らには、その製品・サービスに信者が存在することが全く理解できない。

 これは別の視点からすると、成功した製品・サービスを生み出した企業の要因を分析することが難しいことを意味する。また、仮に分析できたとしても、その企業を真似すると、市場から「あの企業は二番煎じだから嫌い」と評価されて失敗する。イノベーターの成功は1回限りのものである。アップルを真似できる企業は存在しない。だから、未来のイノベーションは、過去のイノベーターのやり方を否定しなければならない。つまり、イノベーターにはリーダーシップが必須となる。

 成功したイノベーターであっても、その成功は永続しない。なぜならば、契約には期限が定められているからだ。キリスト教においては、時間は始点から終点まで直線的に把握される。これをギリシア語で「テロス」と呼ぶ。テロスには目的や完成という意味もある。つまり、この世には終わりがあり、その時に神の目的が完成すると考えられている。

 イノベーターは、イノベーションを世界に普及(布教?)させるという目標を達成した後は、衰退の一途をたどる。ただし、アメリカでは衰退=悪ではない。むしろ、衰退の”品”が問われる。多額の内部留保を抱えた成熟企業が自社株買いで株主に報いるのも、サービスがある程度軌道に乗ったところで大企業に会社を売り払うITベンチャーも、若いうちに稼げるだけ稼いで早くセカンドライフに入ろうとする金融マンも、考えていることは皆同じである。


 《2016年4月9日追記》
 ラリー・ダウンズとポール・F・ヌーネスは、「安定した事業を、ほんの数か月、時にはほんの数日で破壊する新たなタイプのイノベーション」を「ビッグバン・イノベーション」と呼んでいる。ビッグバン・イノベーションは、左上の象限に該当するものと考えられる。ビッグバン・イノベーションは、急激な売上増の後に、急激な落ち込みに見舞われるという特徴がある。
 (マイクロソフトの)キネクトは、発売わずか60日で800万台を売り上げる空前の大ヒットとなり、発売から1年ちょっとで2400万台を販売した。

 だが、ビッグバン・イノベーションの破壊的な成功はすなわち、急速な市場飽和と急速な落ち込みを意味する。発売から半年もしないうちに、キネクトの売上ペースは急落。発売から10か月でキネクトはほぼその使命を終えた。
ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ
ラリー・ダウンズ ポール・F・ヌーネス 江口 泰子

ダイヤモンド社 2016-02-13

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 左上の象限は必需品ではないから、もっぱら顧客の経済的ニーズに応えるものである。しかし、世界には未だに、基本的な衣食住もままならず、劣悪な環境で働く人たちが数多く存在する。彼らのニーズは社会的ニーズと呼ばれる。競争戦略の父であるマイケル・ポーターは、経済的ニーズと社会的ニーズを同時に満たすCSV(Creating Shared Value)というコンセプトを主張し、アメリカ企業に戦略の転換を迫っている。ところが、多くのアメリカ企業は、左上の象限で稼いだ額を社会的ニーズの充足のために移転するという方法で、社会的責任を果たすにとどまる。

 アメリカ企業が常にイノベーションを起こし続けなければならないとすると、アメリカという国家自体が非常に不安定になる。そこでアメリカは、イノベーションを取捨選択する仕組みの構築に着手する。具体的には、集合知を活用したプラットフォームを形成する。つまり、神に近づくわけである。グーグルもYoutubeもアマゾンもネットフリックスも、プラットフォーム型のビジネスで成功した。インターネットはプラットフォームを支える究極のインフラである。アメリカはインターネットを世界中に広めることで、世界各地で発生するイノベーションの恩恵にあずかろうとしている。

 (続く)

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