プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年07月27日

武田修三郎『デミングの組織論―「関係知」時代の幕開け』―日米はともにもう一度苦境に陥るかもしれない


デミングの組織論―「関係知」時代の幕開けデミングの組織論―「関係知」時代の幕開け
武田 修三郎

東洋経済新報社 2002-11

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 20世紀は物質の時代であったのに対し、21世紀は精神の時代になると言われる。本書から2つの時代の違いを表すキーワードを拾い上げてみた(個々のキーワードの説明は割愛させていただく)。なお、21世紀は精神の時代というのは、厳密に言えば20世紀の物質の時代が全否定されるのではなく、物質に精神を統合しなければならないということを意味する。

物質の時代から精神の時代へ

 20世紀までの物質の時代は、西洋を震源とする近代化、自然科学の発展の歴史であった。この時代を特徴づけるのは「分割知」である。すなわち、あらゆる物質をそれ以上分けられないほどに分割すれば、物質の本質を理解できるという考え方である。分割知の発明者はデカルトなのかニュートンなのかという議論があるそうだが、著者はニュートンに軍配を上げている。
 ケンブリッジ大学の著名な歴史学者バターフィールドは、13世紀にさかのぼって近代科学の胎動を探索し、発明者をデカルトやガリレイにすこしおくれて現れたニュートンと特定している。(中略)

 ニュートンにも深い見識をもつ物理学者湯川秀樹も、ニュートンとデカルトの知を比較し、大意「対象をはっきり限定し、現象の範囲も限定した上で考察するだけ、ニュートンの方が近代的」とした。この思考には還元法、原子主義、分析主義、専門主義という呼び方がされている。
 20世紀の分割知、要素還元主義に対して、21世紀で重要になるのは「関係知」である。これは、分割知によってバラバラにした要素を再び統合し、全体として知覚することである。
 関係知とは、20世紀に明らかになった精神世界の性質が、分や孤立ではなく、相互関係(ネット・ワーク、システム、プロセス、コンテクスト)を重視することに起因している。

 わたしは、この知の特徴をもっとも明確に議論した人物はさきの思想家ベイトソンであると思っているが、ここで、ボーアやハイゼンベルグたちが明らかにした精神世界の性質を紹介しておきたい。(以下略)
 分割知においては、観察できるものこそが全てであり、観察できないものは考察の対象からは除外されていた。これに対して、関係知においては、目に見えないものが重要なカギを握る。目に見えないものも含めて、システムの構造を統合的に理解することが求められる。

 著者が本書で品質管理の父エドワーズ・デミングを取り上げているのは、デミングの考え方がいわゆるQC7つ道具のような品質管理の手法にとどまらず、関係知の本質に迫るものであるからだ。デミングは、メンバー間の「協力」によって成果を志向する組織システムを重視した。その意味で、デミングの理論は品質管理論を超えて、組織論であった。
 デミングは、お茶の水コースの2日目、7月11日に、「自分は日本人にシステムと協力を教えた」というメモを書き残している。受講者がどう受けとめたかは別として、デミングは「システムと協力の概念」を説いたと考えていたのである。誤解をおそれずにいうと、かれの品質管理手法や資材調達の技術の話はそのための便法にすぎなかった。
 本書によれば、アメリカには関係知に関する優れた研究を行っている人がたくさんいるらしい。だが、現実のアメリカは21世紀にもう一度苦境に陥るような気がする。アメリカは自由を強く信奉し、ヒト、モノ、カネが自由に行き交うシステムを世界中に張りめぐらせている。この点だけを取り上げれば、アメリカは最も進んだシステム思考の持ち主かもしれない。

 ところが、ヒト、モノ、カネのシステムは、それらの要素を全てデータに還元する情報システムによって支えられている。また、本来のシステム思考は、システム全体の調和を目指すべきであるが、アメリカのシステムはアメリカの国益を最優先する。最近流行りのビッグデータはそのための方便だ。そういう意味で、アメリカの関係知はエセ関係知であり、いつかシステム内で亀裂が生じて、憂き目を見ることになるかもしれない(以前の記事「ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?」を参照)。

 一方の日本も、21世紀中に再び停滞を味わうに違いない。日本の場合は、今頃になって要素還元主義に回帰する傾向が見られる。最近は下火になったかもしれないが、私が就職活動をしていた2000年代前半は、ビジネス界でロジカルシンキングが大流行していた。就活生もビジネスパーソンも、ロジックツリーを一生懸命作っていた記憶がある(企業の利益を増やすためには、売上高を増やすか、コストを減らすかのいずれかである。そして、売上高やコストを構成する要素は・・・といった具合に)。だが、ロジックツリーは、まさしく要素還元主義的な手法である。

 もともと日本人は、現象を分割することが苦手であり、要素がごちゃごちゃに混ざり合った状態のままで認識する傾向がある。西欧人はこの世を二項対立で把握するのに対し、日本人は二項「混合」のままで把握する(以前の記事「齋藤純一『公共性』―二項「対立」のアメリカ、二項「混合」の日本」を参照)。これを著者は「根本知(伝統知)」と呼び、分割知よりも前時代的だとする。
 禅者鈴木(大拙)は著書のなかで東洋と西洋の区別をベースの思考の違いでとらえていた。後者の知は、きちんと「ものをわけて知ろう」とする「分割的知性(分割知)」であり、一方、前者の知は、できごとを明確に知ることに重点がおかれるのではなく、「あいまいなままで理解しよう」とする「根本知」であるとした。
 根本知と関係知は、区別が非常に難しい。いずれも、物事を全体としてとらえる点では共通している。しかし、根本知は事象の分割を最初から諦めているのに対し、関係知は事象をいったん分割した上で、それらを再統合する。両者が決定的に異なるのはこの1点である。現在の日本は、実は未だに根本知の社会であって、今さらながら分割知を経ることで、関係知に至る準備をしているのかもしれない。だとすると、分割知の期間は日本が苦しむことになるだろう。

 話がかなり脱線するが、今年のプロ野球はセ・リーグとパ・リーグの実力差が如実に表れた。交流戦ではセ・リーグがパ・リーグに大きく負け越した。パ・リーグでは西武・秋山やソフトバンク・柳田など、強打者が次々と台頭しているのに、セ・リーグの各チームは貧打にあえいでいる。セ・リーグはパ・リーグの2軍とまで言われている。セ・リーグがここまで弱体化したのは、実は何でもかんでもデータに還元する分析主義のせいではないかと思っている。

 データ偏重になると、練習量が減る。データ野球というと野村克也氏が思い浮かぶが、野村氏が楽天の監督だった頃、楽天のキャンプを見た落合博満元中日監督は、楽天の練習時間が短いことに驚いた。かたや中日の練習時間は、12球団一長かった。落合氏は、選手の身体を極限まで動かすことで、自分の身体がどういう状況の時にどんな反応をするのか、選手に文字通り身体で覚えさせようとした。このように、野球には、データにはならないが大事なことがたくさんある(私は野球未経験者なので、それが具体的に何かを表現できないのが残念だが)。

 本当のことを言うと、データ主義で先行したのはパ・リーグである。日本ハムには、選手のパフォーマンスを定量的に評価するシステムがある。年俸の割にパフォーマンスが高い若手選手を発掘し、逆に年俸が高止まりしているベテランをFAやトレードで放出して、チームの新陳代謝を図っている。また、ソフトバンクの選手は全員がiPadを持ち、対戦相手のデータを常にチェックしている。だが、パ・リーグの強さの秘密は、データ主義ではないと思う。そこに何かプラスアルファの要因を統合しているから強いのである(またしてもその「何か」を上手く説明できないのだが)。

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