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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年09月09日

「ミャンマー投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)


ミャンマー国旗

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 日本アセアンセンターの「ミャンマー投資セミナー」に参加した。内容に関する簡単なメモ書き。

 ミャンマー投資委員会(MIC)事務局長の話で印象的だったのが、「日本の農業がミャンマーに進出することを期待する」という言葉だった。日本では農業に外資を入れることなど考えられず、ミャンマーのグローバル志向の強さをうかがわせた。一方で、農業にまで外資を入れなければならないほど、国内産業がまだ成熟していないと見ることもできる。ASEANの中で中所得国の仲間入りをしたタイは、どんな外資でも歓迎していた従来の投資奨励策を改め、高付加価値産業を重点的に誘致しようとしている。タイとミャンマーは全く対照的である。

 (1)ミャンマーのインフラについて
 (a)ミャンマーの最大電力供給量は約1,500MW(2013年)。総電力需要は約2,000MW(2013年)であるため、約500MWの需給ギャップを補うべく計画停電を行わなければならない(ちなみに、日本の最大電力供給量は約22万MW、総電力需要は約18.6万MW)。世帯電化率は約3割、送配電ロス率は約25%と、ASEANの中で最低水準である。

 既存の電源設備の状況を見ると、合計設備容量は3,896.05MWであり、内訳は水力発電所2,780MW、ガス火力発電所996.05MW、石炭火力発電所120MWとなっている。ただし、水力発電出力の大半は中国向け、国産ガスの大半がタイや中国向けであるため、十分な出力を国内需要に振り向けることができていない状態である。

 (b)ミャンマーの上水道接続率(配管で給水を受けている割合)は約8%、うち都市部は19%、地方は3%と著しく低い。ヤンゴンの水道普及率は35%である。中央商業地域は9割をYCDC(Yangon City Development Committee)の水道に依存しているが、その周辺地域は井戸など他の水源を利用している。ヤンゴン市の日平均配水量は52万立方メートル/日であるのに対し、収入水量(日平均使用量)は18万立方メートル/日にすぎず、無収水率は推定65%と非常に高い。なお、水源の約9割が表流水利用にもかかわらず、その3分の2が水処理を行っていない。また、塩素消毒もほとんど実施されていない。

 (c)通信セクターは、情報通信・技術省ミャンマー郵電公社(MPT)が固定電話、携帯電話、インターネットサービスを独占してきた。インフラの整備は遅延しており、2012年時点で固定電話普及率0.99%(加入者数60.9万人)、携帯電話普及率8.90%(加入者数544万人)、インターネット普及率1.07%と、いずれも低い水準にとどまっている。

 2013年に可決された新通信法以降、ミャンマー政府は新規の外資系通信オペレーター2社(ノルウェーとカタール)を入札で決定した。MPTも新規参入企業と競争していくため、外資系オペレーターの中からパートナーを募り、2014年7月16日にKDDI・住友商事と事業協力や利益分配などを規定した契約"Joint Operation Agreement(JOA)"を締結した(ただし、JOAは合弁会社ではなく、MPTは引き続き政府機関となる)。

 (d)ベトナム―カンボジア―タイ―ミャンマーを結ぶ「南部経済回廊」は、ミャンマーにとって非常に重要である。ミャンマーの主要貿易国タイとの輸出入は、ミャンマー側の陸路が整備されていなかったことから、長らく海上輸送に依存してきた。タイからの輸入の75%、タイへの輸出の56%が海上輸送である。しかし、ヤンゴンからマレー半島を迂回してアユタヤに至るルートは約4,000kmあり、21日間も要していた。これが、陸路では3.3日と大幅に短縮される。今後道路の整備が進めば、1.9日に短縮されると推計されている。

 (2)株式会社ニチレイフレッシュのミャンマー事業
 (a)水産物は、加工形態・キャパシティが限定される船上で漁獲される天然の素材が多いのに対し、末端のニーズは年を追うごとに分散化しており(切り身加工に始まり、生食用の寿司ネタ加工まで幅広い)、委託加工なしでは成り立たない状況にあるという。ミャンマーでは、水産物の委託加工は国内の水産業を保護するという観点から許可されていなかったが、工場稼働率を上げたい生産者(工場)の強い要望を背景に、2012年より事前登録制で正式に認可された。

 (b)ミャンマーの漁獲量は年々増加しており、現在は約500万トンと、日本とほぼ同じである。内訳は、天然が約400万トン、養殖が約100万トンである。世界的に見ると、天然は頭打ちで養殖が伸びる傾向にあるが、ミャンマーの場合は逆に天然の方が大きく伸びている。ニチレイフレッシュにとっては、天然のピンクエビが獲れることがミャンマーの大きな魅力となっているらしい。

 (c)ニチレイフレッシュは、1990年代半ばよりミャンマーでエビの調達を開始した。当時はどこで漁獲された原料であっても、一度ヤンゴンにある原料市場に集めてから、委託先の工場に搬入していた。しかし、漁獲から加工までに長時間がかかり、またエビの鮮度を保つための氷も十分に確保できないことから、輸送の途中で鮮度が落ちてしまうという問題に悩まされた。そのため、現在はできるだけ漁獲エリアに近い工場で加工することにしている。

 戦略を立てる時は、ややもすると「どんな顧客に、どのような製品を、どのように競合他社と差別化して提供するか?」という出発点のコンセプトを練るだけで満足してしまうことがある。しかし、「どの原材料をどこから調達するのか?どこで加工するのか?原材料・(半)製品をどうやって運ぶのか?」という具体的なオペレーションにも思いをめぐらし、適切に機能するビジネスモデルを設計・構築することも、戦略立案者の重要な役目であると改めて感じた。

 (d)委託加工で期待できる工場収入の数字が公開されていた。以下は、300人規模の水産加工場で、「切り身フィレ加工(加熱を含む加工)」と「寿司用スライス加工(生のまま加工)」を行った場合である。工場トータルの年間売上高は約17億円となる。仮に、同じ工場が10あれば、全体で約170億円になる。ミャンマーの経済特区(SEZ)に対する日本企業の投資累積額が約1億8,600万ドルであるから、それに匹敵する数字となる。

 商品 切り身 寿司ネタ
 加工 フィレ加工 スライス加工
 加工数量(1日あたり)  22トン/日 7.5トン/日
 加工賃(トンあたり) 1,000ドル/トン 3,500ドル/トン
 稼働日数(年) 300日/年 300日/年
 加工賃収入(年) 6.6百万ドル/年(7.92億円/年)  7.875百万ドル/年(9.45億円) 
 (※)1ドル=120円で計算。

 (3)双日ロジスティクス株式会社のミャンマービジネス
 (a)ミャンマーの小売は電力不足により常温食品が中心であり、依然として「ゼー」と呼ばれる伝統市場や道端の路上店を通じて行われる。これらが全体流通量の9割を占めていると言われる。一方、国内には2ケタ規模の店舗数を持つ小売業が少ない。このような状況下で、近年急速に近代的な小売業態を展開しているのが、ミャンマーの小売・流通最大手City Martグループである。双日と双日ロジスティクスは、City Martグループ傘下の食品・生活消費財卸売会社Premium Distributionとの共同出資により、Premium Sojitz Logisticsを設立している。

 (b)双日ロジスティクスは、ミャンマー国内のコールドチェーンだけでなく、大メコン圏のクロスボーダー物流も手がけている。セミナーでは、タイ―ミャンマールートに関する説明があった。

タイ―ミャンマークロスボーダー物流

 《プランA:ミャワディ・ルート》
 最も道路が整備されており、通関もスムーズである。ただし、少数民族との軍事衝突により、国境が封鎖されることがある。ミャンマー国内のティンガニーノ―コーカレイ間の山越えルートは、偶数日と奇数日で進行方向が入れ替わる1車線であったため、逆算でバンコクを出発する必要があった。所要時間は約3時間。混雑や車両故障があると、1日待機しなければならないこともあった。だが、2015年7月1日に2車線のバイパスが完成し、所要時間は40分に減少した。

 《プランB:タチレク・ルート》
 もともとは、タイとミャンマーを抜けて中国の昆明に抜ける南北経済回廊の一部である。タイとミャンマーの中小規模の貿易ルートであることから、生活資材をはじめ、中古車なども往来がある。ただ、中国に行くにはラオスルートの方が利便性がよく、ミャンマールートはもっぱらタイからミャンマーへの輸出に使われている。距離が長い分、トラック運賃が高いのがデメリットである。

 《プランC:ティキ・ルート》
 将来的には有力なルートだが、現在は道路が未整備であり、河川の橋も不通となっている。

 《プランD:メーホーンソーン・ルート》
 道路は整備されているものの、通関の担当者が手続きに慣れていないのが難点である。通関を通るのに5日かかると言われる。

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