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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年09月20日

「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(1/2)


会議

 海外子会社の副社長を歴任するなど、海外経験が豊富なコンサルタントから、海外ビジネスについて色々と教えていただいた。この方は海外での工場建設・運営に何回も携わったことがあるため、その辺りの話も聞くことができた。

 (1)海外に工場を設置する場合、まずは候補となる用地を何か所かピックアップし、現地調査を経て絞り込む、という手順を踏む。その際、候補地は2~3か所にとどめるべきである。「現地で実際に見ないと解らない」と言って、たくさんの候補地を視察したくなるが、たいていは上手くいかない。このコンサルタントの方は、事業会社にいた時に、12か所の候補地を手分けして回ったそうだ。メンバーの目線を合わせるためにチェックリストを用意したにもかかわらず、チームによって評価がバラバラになってしまい、結局用地を絞り込むことができなかった。

 現地視察をする場合には、本社の責任者=重役クラスを現地の政府機関に連れていくべきである。本社の重役が現地の政府機関に行けば、政府機関側も幹部クラスを出してくれる。政府機関の幹部は、公にされていないような優遇策を提示してくれることがある。

 (2)工場用地を選定する際には、現地の建築制限(建ぺい率、容積率、緑化率、階数制限、高さ制限、セットパック、構造物の強度など)が順守されているかをチェックする必要がある。用地のオーナーは、日本企業を誘致したいがために「大丈夫です。当局とは話がついています」などと軽く言うが、こういう言葉には要注意である。

 このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、レンタル工場を2つ借り、オーナーの許可の下に2つの工場の間に渡し屋根を設けて、屋根の下を原材料置場として使用していた。ところが、操業から8年ぐらい経った頃に、当局から違法建築だと指摘されてしまった。工場と工場の間は道にあたるため、緑化が必要だというわけだ。仕方なく置いていた原材料を撤去したが、原材料を工場の間に置く前提で動線を設計していたため、製造ラインに大きな影響が出たという。

 (3)当局に話をする際には、必ず工場レイアウト図を持参するべきである。中小企業は日本国内でも工場を建設した経験がそれほどなく、まして2代目、3代目の社長ともなれば、先代から承継した工場の設計図を知らないこともある。だが、海外展開する場合にはそれでは困る。

 工場のレイアウト図を持っていくと、当局の担当者と現地のルールについて色々と話をすることができる。例えば、トラックの床高が日本と異なるため、現地の高さに合わせる必要があるとか、規制に沿った緑地を確保しなければならないとか、消防活動に必要な窓を設定してほしいとか、手すりの高さを現地のルールに合わせなければならない、といった具合である。

 現地側は日本企業側の要望を聞き入れてくれることもある。このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、レンタル工場への入居を検討していた。レンタル工場は工業団地と異なり、工場設備が初めから決まっているため、自由に拡張・改造することができない。この会社ではどうしてもコンプレッサを設置する必要があったが、事前に提示されたレイアウトによれば、コンプレッサを置く場所がない。そのことをレンタル工場のオーナーに話したところ、工場の外に無償で小屋を建ててコンプレッサを格納し、工場の壁をぶち抜いて小屋と工場をつないでくれたという。

 (4)工場を建設する際、日本の建設会社を使うのか、現地の建設会社を使うのかを決めなければならない。日本企業の方が価格は高いが、日本語で仕事が進むという安心感がある。現地企業には現地企業のメリットがある。例えば、現地の情報(建築規制、労務管理、その他現地の常識など)は彼らの方がよく知っており、仕事が早いこともある。また、現地企業は日本企業よりも動員力がある。納期が迫ってくると、現地企業は(どういう手段を使っているのか解らないが、)現地の作業員を大量にかき集めて、一気に工事を完成させてしまう。

 品質管理は、日本企業が現地企業より優れているとは限らない。日本企業は、現地企業に下請に出していることが多いからだ。日本企業であっても手抜き工事は起こる。このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、日本企業に建設を依頼したところ、ダクトから冷風が出ないという問題が生じた。そこで、工場の屋根裏を調べたら、何とダクトがエアコンとつながっていなかった。建設会社に任せ切りにせず、自社でもきちんと品質管理、検収を行うことが重要である。

 (5)海外(特に新興国)における会社設立は基本的に認可主義であり、国によって投資奨励業種、条件つき開放業種、禁止/規制業種が定められていることが多い。日本の公務員は何かと国民からの非難にさらされるが、海外では公務員は権限の強い特権階級である。彼らは公に出ているルールとは無関係に、内規で動く。そのため、自社が公のルールに従っていたとしても、本当にそれで問題がないかどうか、当局の窓口に行って1つ1つ確認しなければならない。ただし、当局の窓口担当者に対して、「今、○○とおっしゃったということについて、一筆サインを書いてください」とお願いしても、絶対に嫌な顔をされるので要注意である。

 投資奨励業種には、新素材、新エネルギー、ハイテク製品、バイオテクノロジー、IT技術、製造機械など、その国が重点的に育成したい業種が指定される。当局の窓口担当者も誘致の実績がほしいため、多少実態とかけ離れていたとしても、社名に「○○ハイテクノロジー」などと入れると、すんなり許認可が通ることがある。

 (6)海外製造子会社の社員は、キーマン、リーダー、ワーカーの順番で採用する。キーマンとは、日本語が解る現地人で、人事・総務・経理全体を見渡せる人のことである。日本でもこの3分野に精通した人は少ないのに、その上2か国語ができる人を探そうというのだから、相当時間をかけなければならない。現地の当局に相談するとキーマンを紹介してくれることがあるが、このコンサルタントの方はそのような方法をあまりお勧めしない。なぜなら、当局が経営に介入してくることがあるし、仮にそのキーマンと上手くいかなかった場合、簡単に解雇できないからである。

 日本企業の場合、総務的な仕事は社員が自己管理でやってくれるため、総務部はそれほど重要視されない(リストラの際には真っ先に対象となる)。しかし、海外では備品1つ取っても会社側が厳格に管理しなければならない。盗難・着服防止策を定め、社員を監視する必要がある。そのため、総務は非常に重要な仕事となる。現地で上手くいっていない日本企業は、たいてい総務機能が弱いというのが、このコンサルタントの方の自説である。

 (続く)

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