プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年09月04日

『稲盛和夫の経営論(DHBR2015年9月号)』―「人間として何が正しいのか?」という判断軸


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 本号には、稲盛和夫氏が事業開始直後のことを回想している部分があった。開業時、1,000万円の借入をして機械を購入し、1年目で100万円の利益を出した。しかし、毎年100万円ずつ返さなければならないとすると、返済までに10年かかり、次の機械を購入できるのが10年後になってしまう。稲盛氏は自分の支援者にこう話したところ、「100万円の利益が出るのは立派な企業だから、もっと借入をすればよい。事業を大きくしたければ、借入も多くしなさい」と諭されたという。稲盛氏ですら、最初の頃は借入金についてこういう認識をされていたことが興味深かった。

 稲盛氏の経営哲学は、言葉にすると非常にシンプルだ。「人間として何が正しいのか?」という判断基準に従って、「真・善・美」の実現を追求するのが稲盛流経営である。稲盛氏の考え方は非常に奥が深いゆえに、周囲が理解するのには時間がかかり、とりわけアメリカ人とはしばしば衝突したようである。稲盛氏は「リーダーは壊れたレコードのように大事なことを繰り返し社員に伝えなさい」という言葉を残している。おそらく、アメリカ人にもそのように対応したことだろう。
 研修会前日の夕方にカリフォルニアに着き、アンケートを見たところ、コメントはひどいものでした。「こういう哲学、フィロソフィを押しつけられたら、たまったものではない」というのがだいたいのコメントでした。なかんずく、「金のためだけに働くことはダメだと書いてあるが、われわれは金のために働いている。金のためにだけ働くことはダメなどというのはとんでもない話だ」と言うのです。
(「経営講演選集4 リーダーシップと判断基準」)
 《参考記事》
 果たして日本企業に「明確なビジョン」は必要なのだろうか?(1)(2)(補足)
 日本とアメリカの「市場主義」の違いに関する一考
 日本とアメリカの戦略比較試論(前半)(後半)

 上記記事の繰り返しになるが、アメリカはキリスト教(プロテスタント)の国であり、唯一絶対の神を信仰する一神教の国である。アメリカ人が何か事を成し遂げたい場合は、神との間で契約を結ぶ。ここで注意が必要なのは、契約は他の人間との間で結ぶわけではない、ということである。キリスト教では、契約は神と人間との間で結ぶものである。神と契約を結んだ人間は、プロテスタントらしく努力を積み重ね、契約を履行しようとする。最終的に、その契約を実現させることを自己実現と呼ぶ。これは、マズローの欲求5段階説で最上位に位置する欲求のことである。

 企業のリーダーも同じである。まず、リーダーが「この製品・サービスを売りたい」という構想を持つ。ポイントは、構想の起点が他者ではなくリーダー自身にあることだ。つまり、「市場にはこういう製品・サービスのニーズがあるはずだ」と考えるのではなく、「私はこういう製品・サービスがほしいから、きっと他の人もほしがるに違いない」と考える。既に存在する市場でシェアを獲得するのではなく、新たな市場の創出を志向する。言い換えれば、マーケティングではなく、イノベーションを目指す。リーダーは、自身のイノベーションの構想について、神と契約を締結する。

 神は様々な製品・サービス分野において、様々なリーダー、イノベーターと契約を結ぶことになる。ここで問題なのは、唯一絶対の神は、同じ分野における正解を1つか2つしか定めていない、ということである。すなわち、特定の製品・サービス分野における勝者は1社か2社しかいない。しかし、その解を知っているのは神だけであり、リーダーには全く解らない。リーダーは、我こそが勝者だと思い込んで、熾烈な競争を繰り広げる。競合他社を直接的に攻撃することもある。だが、最終的には神が定めた勝者だけが利益を総取りし、その陰で多数の敗者が生まれる。

製品・サービスの4分類(修正)

 《各象限の製品・サービスの例示の補足》
 (1)必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい=
 食品、衣料品、日用品、白物家電、不動産、飲食店、小売店、教育、ニュースメディア
 (2)必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい=
 自動車、輸送機器、産業機械、住宅、建設、医療、介護、製薬、IT(BtoBの基幹業務システム)、物流・輸送サービス、金融サービス(預金&貸出)
 (3)必需品ではない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい=
 高機能家電(スマートフォン、PC、タブレットなど)、アパレルブランド、エンターテイメント(ディズニー、ピクサーなど)、テレビメディア、IT(BtoCのWebサービス〔Youtube、Facebook、Twitter、Instagramなど〕)、音楽、書籍、雑誌、観光、金融サービス(証券&保険)

 (※)この製品・サービスの分類はまだ暫定版であり、今後追加&修正を施す予定である。

 こういう状況が生まれやすいのは、上図の「必需品ではない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」の象限である。この象限はアメリカ企業が強いのだが、ある製品・サービス分野で名が通ったブランドは、たいてい1社か2社しか存在しない。トップ2社は、お互いを激しく攻撃する傾向がある(例えば、コカ・コーラVSペプシコなど)。逆に、「必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きい」の象限は、大小合わせて多数のブランドが存在する。多神教文化の日本はこの象限と親和性が高い。

 必需品ではないということは、市場のニーズをとらえにくいことを意味する。そのため、リーダーは自分を起点として、「私はこういう製品・サービスがほしいから、きっと他の人もほしがるに違いない」と考えるわけだ。この場合、経営のリスクは高くなる。手っ取り早く一山当てたいと考えるリーダーは、人間の快楽を素早く満たす短期的な製品・サービスに手を出す。そういうものは刹那的に消費されるだけであり、社会的・道徳的意義に疑問符がつくものも少なくない。

 この象限で戦うもう1つのパターンは、現れては消えていく高リスクの製品・サービスを無数に束ねるプラットフォームを形成することである。Amazon、Youtube、google(検索エンジンとGoogle Play)、App Store、hulu、Netflixなどがその代表例と言える。プラットフォーム企業は、製品・サービスを作る無数のプレイヤーの間で激しい競争を展開させる。そして、売れ筋・人気度ランキングを常に顧客に開示し、勝者を決定する。勝者は利益を総取りできる一方で、敗者には何も残らない。プラットフォーム企業側は、各プレイヤーから広く手数料を獲得することで、誰が勝者になっても必ず儲かる仕組みになっている。

 プラットフォーム型ビジネスの問題点は、顧客を数多く抱えていることをいいことに、製品・サービスを作り出すプラットフォーム上のプレイヤーに対して、過度なプレッシャーをかけてしまうことである。プラットフォーム企業は顧客のニーズを代弁しているとはいえ、多くの顧客のニーズを集約すれば、結局のところ「安く、早く」としかならない。このプレッシャーが強すぎると、プラットフォームには劣悪品があふれるようになる。Youtubeの粗悪な動画や、Amazonの粗悪な電子書籍などはその表れだろう。弊害が強くなれば、プラットフォーム企業はプレイヤーとともに死ぬ。

 こういうビジネスは、稲盛氏が掲げる「人間として何が正しいのか?」という判断基準に引っかかるに違いない。稲盛氏は絶対にこの手のビジネスをしないと思われる。確かに、この象限で上手く行けば、自社製品・サービスをデファクト・スタンダードとして世界中に売りまくり、莫大な利益を手に入れられる。しかし、それが長期的に見て、経営者として、また、その企業の製品・サービスを享受する顧客にとって、本当に人間らしい営みと言えるかどうかは、厳しく問われるはずだ。
 例えるとハンバーガーを食べコーラを飲んで楽しいというのも、それはそれで食の楽しみだが、そのような食事を取り続けると体に変調を来す。これと同じで、どうしても表面的なもののほうが短期ではわかりやすいが、それが長く続かないのは過去の歴史が明らかにしている。
(森川亮「事業の基本は、利他の精神」)


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