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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年09月14日

「集団的自衛権」についての私見


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日本工業新聞社 2015-08-01

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世界 2015年 09 月号 [雑誌]世界 2015年 09 月号 [雑誌]

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 今年に入ってから、『正論』と『世界』を同時に読むようになったのだが、特集はほぼ毎月、集団的自衛権や安保法案に関するものである。『正論』は何が何でも集団的自衛権を支持し、『世界』は何が何でも集団的自衛権に反対する。しかも、どちらの陣営にも、「安保法案は複雑で中身がよく解らないのだが、とにかく賛成/反対」という論者が現れて、議論をより一層ややこしくしている。私自身も法案の内容を十分に咀嚼できていないのだが(そんな状態で記事を書くなと怒られそうだ・・・)、『正論』と『世界』の両方に基づいて、考えを整理してみたいと思う。

 2015年7月1日の「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定」では、武力行使の「新3要件」が提示され、それに続いて以下のような記述がある。
 ①我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、③必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。(※丸数字は筆者)
 我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。
 閣議決定を受けて作成された安保法案には、「存立危機事態」、「重要影響事態」という言葉が登場する。存立危機事態とは、前述の新3要件の1つ目に該当するものであり、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義される。存立危機事態に直面すると、自衛隊は集団的自衛権を行使できる。「重要影響事態」とは、「そのまま放置すれば日本に直接の武力攻撃に至る恐れがある事態など日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」と定義される。重要影響事態においては、自衛隊が他国軍を後方支援することが想定されている。

 集団的自衛権の行使が想定されるケースとして、イランによるホルムズ海峡封鎖が挙げられる。イランによってホルムズ海峡が機雷封鎖されると、中東の石油が日本に輸入できなくなり、日本国民の生活に多大な影響が出る。よって、アメリカと共同でイランを攻撃しようというわけである。ところが、今年7月に入ってからアメリカがイランに急接近し、核をめぐる協議で一定の合意に到達したことで、ホルムズ海峡封鎖の現実味は遠のいたと言われる。

 そもそも、石油がなくなると国民の生活が困窮するという経済的理由で、集団的自衛権(もちろん個別的自衛権も)を行使することは難しいだろう。例えば、中国がレアメタルの輸出を止めたら、日本企業の生産活動に著しい影響が生じる。しかし、だからといってそれを理由に日本がアメリカと共同で中国を攻撃することは、国際的に全く理解されないはずだ。存立危機事態が想定しているのは、経済的被害が生じた場合ではなく、国民が殺害される、国の重要施設が破壊されるなど、物理的に深刻な影響が出た場合に限定される。

 安保法案反対派は、世界中に軍を展開するアメリカに自衛隊が付き合わされ、世界中どこへでも派遣されて、やがては現地の戦闘に巻き込まれることを危惧する。だが、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ(る事態)(存立危機事態)」、「そのまま放置すれば日本に直接の武力攻撃に至る恐れがある事態(重要影響事態)」という文言を素直に読むと、他国への攻撃が日本への攻撃に直結する(おそれがある)ケースに限定される。よって、地理的に日本から遠く離れた場所で集団的自衛権が行使されることは考えにくい。

 集団的自衛権の行使は、日本近辺での攻撃に対処するためのものと読むのが妥当である。事実、安保法案賛成派は、中国や北朝鮮の脅威に対抗するために集団的自衛権が必要であると主張する。ただし、これはこれでおかしな論法である。なぜならば、中国や北朝鮮の脅威に対しては、日本が個別的自衛権で対処すればよいからだ。

 仮に集団的自衛権を行使するケースがあるとすれば、日本の領海を警護しているアメリカ海軍が中国に攻撃された場合などであろう。日本の領海上での攻撃だから、当然日本の存立にかかわる。しかし、この場合、集団的自衛権を持ち出すまでもなく、攻撃をされたアメリカがまず黙ってはいない。また、日本が中国に反撃するのは、アメリカが攻撃されたからというよりも、自国の領海が攻撃されたからであり、その意味で個別的自衛権の枠内にとどまるはずである。

 では、中国がアメリカ艦船をミサイルで攻撃する可能性が高まった段階で、先手を打って日本が中国を攻撃できるだろうか?これは集団的自衛権とはまた別の問題である。国際法上の言葉では、先制的自衛権と呼ばれる。ミサイルの時代には先制的自衛権を認めるべきだという主張もある一方で、国際法上国家に与えられた権利として認めることには慎重な立場も多い。

 繰り返しになるが、安保法案反対派は、安保法案によって自衛隊が世界中の戦争に巻き込まれることを恐れている。本来の集団的自衛権は、同盟関係にある国が攻撃されたら、その国を擁護するために他の同盟国が反撃する権利である。つまり、保護利益は最初に攻撃を受けた国の国益だ。NATO(北大西洋条約機構)における集団的自衛権とはまさにそのようなものであった。仮に日米同盟で同じような集団的自衛権が行使されるとすれば、中東で攻撃されたアメリカ軍を、アメリカの国益保護を目的として自衛隊が援護射撃することもありうる。

 ところが、今日本で論じられている集団的自衛権は、上記2つ目の引用文にあるように、「憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため」の権利であるとされる。すなわち、保護利益は純粋に日本の利益であって、アメリカの利益ではないのである。だから、集団的自衛権と言いつつも、実際には個別的自衛権に毛の生えた程度でしかないように思える。

 元を正せば、同盟関係という発想がもう古いのかもしれない。同盟とは、共通の仮想敵国をめぐって複数国が手を結び、一部の同盟国が攻撃を受けた場合に、残りの同盟国が駆けつける関係である。しかし、同盟関係の時代は、冷戦の終結と同時に終焉を迎えたと言ってよい。現在の国際社会における主流は、同盟ではなく集団安全保障である。集団安全保障とは、国々のネットワークの中に仮想敵国も含め、相互に監視の目を光らせるメカニズムである。

 このブログで何度か書いたが、欧米人は二項対立で物事を把握するのに対し、日本人はそのような認識が苦手である。国際社会を二項対立でとらえると、世界は敵と味方で二分される。よって、二項対立的な発想は、同盟関係と親和性が高い。しかし、前述の通り、同盟は時代遅れになり、かつての敵国とも積極的に手を結ぶようになった。中国とベトナム、フィリピンは領土問題で争っているにもかかわらず、経済的な連携を深めている。北朝鮮は韓国と政治的に対立していながらも、水面下では統一のソフトランディングシナリオを描いている。

 このように、各国がかつての敵に接近する傾向は、二項対立的な見方の急先鋒であったヨーロッパ諸国にも現れ始めている。アメリカの敵である中国が主導したAIIBに対して、イギリスなどヨーロッパ諸国が、アメリカを怒らせると解っていながら雪崩を打って参加したことは記憶に新しい。国際政治の主流は、もはや「敵か?味方か?」という見方ではない。例えるならば、「右手のこぶしを握りしめながら、左手で握手をする」のが現在の作法なのである。

 それなのに、アメリカは未だに同盟関係に固執する。日本も、不得手な二項対立の見方を強要され、アメリカ=味方、中国・北朝鮮(最近はここに韓国が入るかもしれない)=敵という共通認識ができ上がりつつある。だが、日本もアメリカも、このままではやがて行き詰まる。集団的自衛権は、中国や北朝鮮などの脅威に対抗するためのものだと保守派は言う。しかし、本当に問うべきなのは、中国や北朝鮮が日本にとって敵になる可能性があると知りながら、なおこれらの国とどのような関係を構築するのか?ということであろう。彼らに対して武力で防戦を張るのではなく、武力以外の手段で彼らの懐に飛び込んでいく勇気が必要ではないだろうか?

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