プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年11月03日

【ドラッカー書評(再)】『イノベーションと起業家精神(上)』―変化を活かすのか?変化を創るのか?


新訳 イノベーションと起業家精神〈上〉その原理と方法 (ドラッカー選書)新訳 イノベーションと起業家精神〈上〉その原理と方法 (ドラッカー選書)
P.F. ドラッカー Peter F. Drucker

ダイヤモンド社 1997-11

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 (1)以前の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」で、マーケティングとイノベーションの両面から包括的に戦略を構想するフレームワークを検討した。このうち、「⑤新市場開拓戦略」は、既存の製品・サービスを、既存の顧客層とは全く異なる顧客層、別の言い方をすれば、その製品・サービスを利用するとは夢にも思っていなかった顧客層に販売することで、新市場を創造する戦略である。

戦略を立案する7つの視点

 この戦略の解りやすい例が、「冷蔵庫をエスキモーに販売する」ことである。通常、寒冷地に住むエスキモーが冷蔵庫を使用するとは考えられない。ところが、彼らにも冷蔵庫に対する潜在ニーズがあった。彼らが冷蔵庫を使うのは食品を冷やすためではない。外界の気温で食品が凍らないようにするために、冷蔵庫に食品を入れておくのであった。

 新市場開拓戦略を発想するには、既存の顧客層の属性をひっくり返すのが最も手軽な方法である。大人向けから子ども向けへ、若者向けから高齢者向けへ、男性向けから女性向けへ、富裕層向けから一般人向けへ、BtoB向けからBtoC向けへ(もちろん、それぞれ逆のパターンもある)と転換してみる。戦略立案者は、「今まで我が社の製品・サービスとは無縁だったこれらの人々が我が社の製品・サービスを利用するとしたら、どんなシーンにおいてだろうか?」と問う。

 本書では、そのような新市場開拓戦略の事例がいくつか紹介されていた。抗生物質中心の医薬品を開発するメーカーに、ある時獣医たちから注文が入った。しかし、メーカーは医薬品を人間用に開発したという理由で、売ることを拒否した。そこで、スイスのある医薬品メーカーは、これらのメーカーから医薬品を購入し、動物用に調合や包装を変えて販売した。その結果、動物用医薬品業界において、世界の主導的な地位を占めるに至った。これは、人間用から動物用へとシフトしたことで、イノベーションに成功した事例である。

 新市場開拓戦略は、ターゲット顧客の属性を転換するだけである。発想するのは非常に簡単であるから、試さない手はないと思う。先日、「意外!? 女性用ナプキンを“愛用”する男性たち」という記事を読んだ。女性用ナプキンには、痔や肛門周囲潰瘍、肛門周囲炎を患った人が出血や膿の対策として使用する、消臭効果を活かして靴の中敷きとして使う、尿漏れパットの代わりにする、などといった用途があるそうだ。生理用ナプキンが男性に売れるとはよもや思わないが、生理用ナプキンでさえ顧客属性の転換によって男性向けの市場が生まれる可能性がある。他の製品・サービスでも検討してみる価値はあるのではないだろうか?

 ちなみに、生理用ナプキンのメーカー担当者は、「そもそもナプキンとは女性をターゲットとして製造、販売している商品で、その技術開発も女性のためにやっている。メーカーとして本来目的以外の使用についてどうこういう立場にはない」と話しているそうだ。ドラッカーに言わせれば、せっかくの「予期せぬ成功」をイノベーションに活用せずもったいない話だ、ということになるだろう。もっとも、メーカーの担当者は、「男性用の開発も前向きに検討したい」などと正直に話してしまうと競合他社の参入を招くから、表向きは素知らぬふりをしているだけなのかもしれない。

 (2)イノベーションと言うと、イノベーターが変化を創り出すイメージがある。21世紀に3回のイノベーションに成功したスティーブ・ジョブズは、新しい製品カテゴリを創造し、ゲームのルールを変え、産業構造を再構築した。ところが、本書を読むとドラッカーは変化を創り出すというよりも、変化を利用することを重視しているように思える。
 起業家は変化を当然かつ健全なものとする。彼ら自身は、それらの変化を引き起こさないかもしれない。しかし、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する。
 ほかのイノベーション(※「7つの機会」のうち、第1の機会「予期せぬ成功/失敗を利用する」から第6の機会「認識の変化をとらえる」のこと)はすべて、すでに起こった変化を利用する。すでに存在するニーズを満足させようとする。ところが知識によるイノベーションでは、まさにイノベーションそのものが変化を起こす。
 変化を自ら創り出すのは第7の機会である知識によるイノベーションのみであり、それ以外は既に起こった変化をイノベーターが利用すればよい、というわけだ。ここに、ドラッカーの経営思想がアメリカでは時代遅れだと批判され、日本では未だに支持を集める理由があるように思える。

 比較文化学者のクラックホーンとストロッドベックは、人間の価値観を規定する5つの普遍的問題を挙げた。その5つとは、①人間の本質とは何か?(人間性志向)、②人間と自然との関係はどうあるべきか?(人間対自然志向)、③人間の時間に対する志向は何か?(時間志向)、④人間の活動に対する志向は何か?(活動志向)、⑤人間同士の関係はどうあるべきか?(関係志向)である。クラックホーンらは、このうち②③④について、アメリカ人は自然を支配し、未来志向で、自ら行為をなすことに意義を見出すと指摘した。一方の日本人は、自然と調和し、現在を重視し、時間の流れや環境の変化のなすがままに身を委ねる傾向が強いという。

 己の力で変化を起こそうとするアメリカ人にとって、既に起こった変化を利用すればよいと説くドラッカーのイノベーション論は退屈に映るのだろう。反面、自ら変化を創り出すことには及び腰で、どちらかと言えば環境変化に受動的に適応することで生き延びてきた日本人にとっては、長年依拠してきた流儀をドラッカーが承認してくれたように感じるのかもしれない。

 とはいえ、ドラッカーは次のように主張している点も見過ごすことはできない。
 実際のところ、起業家たる者にとって、現実が変化した原因を知る必要はない。(中略)何が起こったかはわかっても、なぜ起こったかはわからないことのほうが多い。だが、たとえそうであっても、われわれはイノベーションに成功することができる。
 社会学者や経済学者が、それらの認識の変化を説明できるか否かは関係ない。認識の変化はすでに事実である。多くの場合、定量化することはできない。定量化できたとしても、その頃には、イノベーションの機会とするには間に合わない。しかしそれは理解できないものでも、知覚できないものでもない。きわめて具体的である。明らかにし、確かめることができる。
 我々は思考する際の癖として、どうしても変化の原因を知りたがる。そして、可能な限り定量的に説明できることを望む。しかし、ドラッカーは変化の原因を知る必要はないし、まして定量的に調査している時間はないと喝破する。メカニズムがはっきりしない変化を利用するには、非常に大きな勇気が必要である。ドラッカーは、日本人的な状況適応型のイノベーションを是認する一方で、日本人に対してもっと勇気を持てと言っているのだろう。

 (3)ドラッカーの「7つの機会」については昨日の記事「【ドラッカー書評(再)】『イノベーションと起業家精神(上)』―ドラッカーの「7つの機会」メモ書き」でまとめたが、1つ引っかかった点がある。それは、需要が伸びていることが前提となっているイノベーションの機会が多いことである。

 「(2)ギャップを探す」の「(ⅰ)業績ギャップ」や「(ⅱ)認識ギャップ」は、産業全体が成長しているのに業績が芳しくないケースを想定しているし、「(ⅲ)価値観ギャップ」は、企業側が想定していなかった新たなセグメントが市場に登場するケースを取り扱っている。また、「(3)ニーズを見つける」の「(ⅱ)労働力ニーズ」は、需要の伸びに労働力供給が追いつかないケースであるし、「(6)認識の変化をとらえる」は、女性、マイノリティ、中流階級など、社会全体の価値観の変化に伴って新たに市場が生まれるケースを指している。

 だが、今問題となっているのは、可処分所得の伸びが止まっており、どの市場も成長が見込めないことである。この状態で企業を成長させるには、他の企業から売上高、市場シェア、利益を奪うしかない。しかも、ちょっとずつ奪うのではなく、ごっそりと奪い取らなければならない。奪い取る相手は、競合他社か、全くの異業種のどちらかである。

 競合他社からシェアを奪い取るには、技術革新などによって既存の技術を陳腐化させ、競合他社の製品・サービスを過去のものとする必要がある。異業種の企業から利益を奪い取るには、その業界とのしがらみがないという利点を活かして、競争ルールや産業構造、ビジネスモデルを大幅に変更し、既存の顧客にとって魅力的な代替品を提供する必要がある。これらの戦略は、(1)の図で言うと「⑥代替品開発戦略」にあたる。(2)で「日本企業は変化を利用すればよい」と書いておきながら、(3)で「それは需要が伸びていることが前提の話であり、結局今の日本企業に求められるのは、変化を作り出す姿勢だ」と書いている点が矛盾しているのだが・・・。

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