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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2015年11月16日

山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』―階層社会における「下剋上」と「下問」

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帝王学―「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)帝王学―「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)
山本 七平

日本経済新聞社 2001-03

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 『貞観政要』は、唐・太宗(李世民、位626~649)の言行録である。題名の「貞観」は太宗の在位の年号で、「政要」は「政治の要諦」の意味である。家臣の房玄齢(ぼうげんれい)と魏徴(ぎちょう)が、国家を一から創ることと、創り上げた国家を維持することのどちらが難しいか議論を交わした「創業守成」のエピソードが有名である(旧ブログの記事「「創業は易く守成は難し」のエピソードからリーダーシップを学んでみる」で取り上げた。今読み返すと糞みたいな記事だ(苦笑)。26歳の時の記事ということで勘弁してもらおう)。

 魏徴も房玄齢も、太宗によく諫言した。太宗もまた、臣下の諫言によく耳を傾けた。『貞観政要』には、そんな太宗と臣下のやり取りが収められている。『貞観政要』が日本に入ってくると、上司―部下関係の理想として受け止められ、長年にわたって実践されてきた。太宗が部下の意見を尊重するようになったのは、次の理由による。以下は、山本七平による現代語訳である。
 「最近、良弓を十数張手に入れたのでこれを弓工に示すと、弓工は『皆、良材に非ざるなり』という。私がその理由をきくと、弓工は『木の心がまっすぐでないので、木目がみな曲がっております。こういう弓はどんな剛弓でも矢がまっすぐに飛びませんから、良弓ではございません』といった。

 そのとき、私ははじめて悟った。自分は弓矢をもって四方の群雄を討ち破ったのだから、弓を使うことは実に多かった。それでいながら、なお弓の『原理的な道筋』を知らなかった。いわんや自分は天下を取って日も浅く、政治の基本に対する知識は、到底まだ弓に及ばない。その弓ですら、いまいったような状況だから、統治については全然わかっていないに相違ない」
 《参考記事》
 相澤理『東大のディープな日本史』―権力の多重構造がシステムを安定化させる不思議(1)(2)
 山本七平『山本七平の日本の歴史(上)』(2)―権力構造を多重化することで安定を図る日本人
 渋沢栄一、竹内均『渋沢栄一「論語」の読み方』―階層を増やそうとする日本、減らそうとするアメリカ
 竹内洋『社会学の名著30』―「内部指向型」のアメリカ、「他人指向型」の日本、他

 上記の記事で何度か書いたが(そして、まだ十分に中身を詰め切れていないのだが)、日本は階層が幾重にも重なる多重構造の社会であり、階層が重なるほど社会が安定する傾向が見られる。下の階層は、上の階層からの指示を受けて行動する。だが、下の階層は単にその指示に服従するだけの存在ではない。指示の内容を解釈し、よりよい目的や方法があれば上の階層に積極的に提案することが許される。下の階層は、上の階層からの命令に縛られつつも、いやむしろ縛られるからこそ、一定の自由・自律を確保する。これを山本七平は「下剋上」と呼んだ。

 山本七平の「下剋上」は、下の階層が上の階層を打ち負かして、上の階層に取って代わることではない。下の階層は下の階層にとどまったまま、上の階層に対して影響力を発揮する。日本は長らく、朝廷と幕府の二重統治体制が続いたが、幕府が朝廷を転覆させようと試みたことはついに一度もなかった。企業でも、部下が何かいいアイデアを提案すると、上司は「じゃあ君がやってみるとよい」と任せる。決して、部下が上司を蹴飛ばしてその座に就くことはない。

 下の階層は、自らのアイデアを実行に移す権限を持っている。しかし、仮に何か問題が起きたら、責任を取るのは上の階層の役割である。これを上の階層から見ると、自分は下の階層ほど権限を持っていないのに、責任だけは負うことになる。組織論の一般原則は、「権限と責任の一致」である。ところが、日本の組織では、上の階層に行くほど、「権限<責任」という式が成り立つことになる(旧ブログの記事「権限・責任一致の原則について」を参照)。

 日本では、上の階層から下の階層に力が及ぶと同時に、下の階層から上の階層に対してもベクトルが伸びている。トップダウン型のリーダーシップが一般的であるアメリカでは、日本組織の力学が理解できない。もちろんアメリカでも、現場社員が優れたアイデアを思いつくことはある。ところが、それを実行に移す段階では、「サーバント型リーダーシップ」、「逆三角形型の組織図」などを持ち出して、現場社員を無理やり上の階層に位置づける。つまり、現場社員からミドルマネジメントやトップマネジメントに対し、下向きに力を及ぼすという図しか描けないのである。

 「サーバント型リーダーシップ」の理論では、マネジャーが現場社員に対して「権限委譲(エンパワーメント)」をせよと説かれる。しかし、この「権限移譲」も不思議な概念である。なぜなら、前述のように、日本の組織は下の階層でも十分に権限を持っているからだ。例えば、日本の製造現場では、何十年も前からカイゼンやQCサークルが展開されている。これらの活動では、現場社員の自発的な取り組みを通じて、作業標準や作業環境を変更することが許される。カイゼン活動の大本山であるトヨタ自動車では、異常時に現場社員がラインを止める権限すらある。

 日本人は、世代を超えた命のつながりも重視する。私の命は父母から受け継がれており、父母の命は祖父母から受け継がれており・・・という具合に、命が遠い祖先から脈々と流れていると考える(この系譜をずっと遡ると、最後は天皇=神に行き着く。だから、全ての日本人は神の子孫であり、日本は神の国ということになる)。日本人は祖先を大切にする。換言すれば、私と祖先の間には階層関係が成り立っており、無意識のうちに祖先から人生の指南を受けている。

 だが、私は祖先の意図を無条件に受け入れているわけではない。もしそうだとすると、現在以降の時間は過去を超えることができず、歴史が硬直的になる。そうではなく、私は祖先に対して「下剋上」をすることができる。これによって、日本人は歴史を前に進めることが可能となる。

 「下剋上」の話が長くなってしまったが、最後に「下問」の話もしておく。上の階層は下の階層に一方的に命令を下すのではなく、下の階層からの下剋上を引き出すよう、下問しなければならない。太宗が部下に対して行ったのと同様に、上司は「私が考えたこのアイデアをもっと上手く実行するにはどうすればよいか?」、「このアイデアは、当初の目的にかなっているだろうか?」、「そもそも、目的設定が間違っていないだろうか?」などと部下に尋ねる必要がある。

 ここ10年ぐらい、コーチングの流行が根強く続いているように思えるが、優れた日本人マネジャーならば昔からやっていたことだろう。アメリカでコーチングをわざわざ1つの理論として確立しなければならなかったのは、「上司は絶対的に正しく、部下に対して一方的に命令したり、教えたりすればよい」という暗黙の社会的規範があったためである。

 もちろん、日本にも上司を絶対とする社会的規範が存在したことはある。ただ、日本の場合は、そういう社会的規範に従うといつも大失敗してきたように思える。太平洋戦争において日本陸軍のトップは、無理な作戦をいくつも断行した。そのため、日本側に不利な戦略分析結果が出ても、部下はそれを報告しなくなった。陸軍トップはますます現場に疎くなり、ますます的外れな意思決定を下すようになって敗戦に至った。

 アメリカ人は、ものすごく優秀な人と、ものすごく劣等な人とに、能力レベルが大きくばらつく印象がある。ものすごく優秀な一部の人を組織のトップに据えて、彼らの強いリーダーシップに頼れば間違いはないと考えるのがアメリカ社会である。これに対して日本では、アメリカほど個人間の能力格差が大きくない。むしろ凡人が多い。凡人でも組織のトップになってしまうから、トップダウンでは間違いを犯す可能性が高くなる。したがって、組織のトップは積極的に下問し、下の階層から下剋上を引き出すことで、誤りを少しずつ矯正する必要がある。

 ピーター・ドラッカーの著書には、下問という言葉こそ出てこないが(下問に相当する英語はあるのだろうか?)、マネジャーが部下の仕事を助けるために下問すべきと主張している箇所がある。マネジャーは部下に対して、「あなたの仕事が円滑に進むように、私に何か手助けできることはないか?」と尋ねるべきだという。こうしたコミュニケーションは、日本社会では自然なことである。しかし、上司が絶対的な存在であるアメリカでは、上司が自分の権限をみすみす手放すような自殺行為であり、到底受け入れられないと批判されたに違いない。


 《2016年4月9日追記》
 ローソン代表取締役社長の玉塚元一氏は、組織には強烈なトップダウンと強烈なボトムアップの両方が必要だと言う。トップはトップであるがゆえに、部下に対してなすべきことをはっきりと指示命令する立場にある。しかし他方で、現場は上からの命令に盲目的に従うのではなく、現場しか知らない情報に基づいて、より効果的、生産的な方法をトップにどんどん提案すべきである。
 私たちの業界は特に、意思決定に関して究極のスピードが要求されます。ボトムアップを待っていつまでも意思決定しなければ、戦いに負けてしまいます。重要なターニングポイントでは「右に行け」「左に進め」「これをやれ」「あれはやめろ」という方向性を、リーダーは強烈なトップダウンで出さなければなりません。

 一方で常にひっきりなしに現場の意見が上がってくる組織カルチャーをつくらなくてはいけません。社員や加盟店が自立し、考え、さまざまな挑戦をしたいと願うボトムアップが滞ることなくあふれ、健全にぶつかり合う組織である必要があります。つまりトップダウンの「求心力」と、現場から生まれるボトムアップの「遠心力」のバランスが、健全で適切かどうかを常にチェックすることが大切なのです。
(玉塚元一「全員経営は、ボトムアップかトップダウンか 論理や感情よりファクトで人を動かす」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年5月号〕)
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2016-04-09

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 《2016年4月28日追記》
 久米昭元、長谷川典子『ケースで学ぶ異文化コミュニケーション―誤解・失敗・すれ違い』(有斐閣、2007年)では、日本の組織のコミュニケーションを「まわし」、欧米の組織のコミュニケーションを「とおし」という言葉で表現している。
 「まわし」スタイルとは「集団の成員によって言語・非言語で表現されたメッセージが水平または上方に向かって円環状に関係者間にまわされ、その伝達の間に関係者の意向をくみつつ変化させることによって収斂し、まとまっていく」ことを目指すようなスタイルをいう。一方、「とおし」スタイルとは「リーダがいろいろなアイディアや選択肢の中から自ら選び取った案を、関係者に説明ないし説得をして受け入れさせる」ようなスタイルとなる。
ケースで学ぶ異文化コミュニケーション―誤解・失敗・すれ違い (有斐閣選書)ケースで学ぶ異文化コミュニケーション―誤解・失敗・すれ違い (有斐閣選書)
久米 昭元 長谷川 典子

有斐閣 2007-09-25

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