プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2015年11月18日

海外進出する中小企業が直面するリスクとその対応策(海外ビジネスセミナーより)


danger

 海外ビジネスセミナーでリスクマネジメントの話を聞いてきたので、その時のメモ書き。
 《設問》
 A社は中小製造業である。主要取引先からインドネシアに進出するよう要請を受け、社内でフィージビリティスタディを行った。その結果、採算が取れる見込みが立ったため、インドネシアに自社工場を建設することとした。A社がインドネシアで直面する可能性のあるリスクと、その対応策を考えよ(都合により、設問はかなり簡略化している)。
 《リスク①》進出後に主要取引先から発注が来なかった。
 ⇒嘘のような話だが、この手の問題に直面する中小企業は非常に多いという。主要取引先の営業を担当しているのは、現場の営業社員ではなく、たいていは役員クラスである。役員が「我が社がインドネシアに進出すれば、主要取引先は我が社に発注すると言っている」と主張すれば、他の社員は信用せざるを得ない。ところが、その役員の話は、契約書などの十分な裏づけがなく、単に主要取引先の担当者と口頭ベースで会話した程度にすぎないのかもしれない。

 こういうリスクを避けるためには、事前に契約書を交わすことができれば理想である。だが、主要取引先もこれから不確実性の高い海外ビジネスを展開しようとしているわけであり、早期の契約締結には及び腰になる。よって、より現実的な対応策としては、特定の主要取引先に依存した海外進出計画にせず、できるだけ多くの見込み顧客を作った上で進出するのが望ましい。

 《リスク②》工場が納期通りに建設されない。手抜き工事が多発する。
 ⇒QCDが守られないのは現地の建設会社を使っているからだと思われがちだが、日系の建設会社でも(旭化成建材の例があるように)手抜きは起きる。だが、中小企業に工場建設の専門家がいることはまれであり、自社で建設会社をチェックするのは難しい。

 その場合は、現地の専門家を使うようにする。現地でひと月20万円も出せば、かなり能力の高い専門家を雇うことができる。ひと月20万円だから、1年間雇っても240万円である。その程度の金額で、年間生産額が億単位の工場を安全に保てるのであれば、安いものである。

 《リスク③》現地で調達した原材料に品質上の問題がある。
 ⇒製造コスト削減を目的として海外に進出するケースは非常に多い。現地の原材料を使えば、大幅なコストダウンも可能である。ところが、日本国内でも仕入先を変更するのには勇気がいる。たとえネジ1本であっても、よく解らない企業のネジを使って品質不良が起きたら大問題になるからだ。まして海外の仕入先を使うとなれば、そのリスクははるかに大きくなる。だから、進出直後は日本から原材料を輸出して、労務費の分だけコスト削減を目指すのが無難である。

 工場運営が安定してきたら、徐々に仕入先を現地企業に切り替えていく。その際、必ず調査会社などを使って信用調査を行うと同時に、仕入先工場の視察も欠かさず実施する。仕入先の経営者と面談し、工場で5Sが徹底されているかをチェックする。契約締結後も定期的に監査を行い、高い生産基準が保たれていることを確認する。なお、工場を視察する自社社員は毎年違う人にするべきである。同じ社員が監査を続けると、仕入先の社員と癒着するリスクがある。

 《リスク④》建設費、原材料費などが急に高騰する。
 ⇒アジアは日本を上回るスピードで経済成長しているのだから、建設費、原材料費、労務費、電気・ガス・水道代などは急に上がると腹をくくった方がよい。労務費は、経済的な要因だけでなく、政策的に引き上げられることもある。ASEANの中には、最低賃金が毎年10%単位で上昇する国もある(以前の記事「「ラオス投資セミナー」に行ってきた(日本―ラオス外交関係樹立60周年)」では、日本のある大手企業がラオスの急激な労務費高騰に悩んでいる事例に触れた)。

 海外事業の計画を立てる際に、将来のコストのシミュレーションが1パターンしかないのはやはり不十分である。コストが急増する場合も想定して、何パターンか試算を行う。そして、最もコスト負担が重たいケースでも事業が継続できることを確認する必要がある(よいシミュレーションとは、結果が取りうる値の範囲を示し、その範囲内である値を示す確率を明らかにすることである。ただ、時間が限られた中でそこまで厳密なシミュレーションを行うのは難しいため、実務の場面ではいくつかのパターン(シナリオ)を示すことで代用することが多い)。

 《リスク⑤》現地の社員(ワーカー)が集団離職する。
 ⇒日本と海外では、企業に対する帰属意識に差があり、海外ではどうしても離職率が高くなる。そこで、人間関係を重視する日本的経営によって、社員の忠誠心を高めることが1つの対策とされる。ただ、ワーカーが集団で離職する場合には、別の問題が潜んでいる。

 通常、現地でワーカーを採用する前には、ワーカーの採用を行う人事担当者を現地で採用する。そして、その人事担当者に権限委譲をして、ワーカーを採用してもらう。ところが、人事担当者に任せきりにすると、人事担当者の家族や親類ばかりを集めてくることがある。この状態で特定のワーカーが業務内容や待遇に不満を持てば、不満がすぐに伝搬し、皆で結託して集団離職することになる。だから、たとえ人事担当者に権限委譲したとしても、面接にはSkypeなどを使って日本本社の社員を参加させるなど、モニタリングをするべきである。

 《リスク⑥》日本から現地法人社長として駐在したキーマンが病気になる、死亡する。
 ⇒駐在員は非常に忙しい。特に、現地法人を立ち上げた直後は、顧客への営業、ワーカーの育成、製造ラインの確立、日本からの原材料輸入、現地当局との関係構築など、やるべきことが山ほどある。そういう状況を、駐在員を派遣した日本本社は意外と解っていない。日本本社は現地法人の様子を知りたいがために、やれあの報告書を出せ、これを調べろと次々と指示を出す。それが駐在員を苦しめる。挙句の果てに、「駐在員は海外赴任手当をもらい、かつ物価の安い国にいるのだから、さぞかしいい暮らしをしているのだろう」などと嫌味を言う。

 日本本社は、駐在員を過労にしないよう配慮するのも仕事である。決して、駐在員の仕事を増やすことが仕事ではない。それでも、キーマンに万が一のことが起きるかもしれない。そういう事態に備えて、代替要員、後継者を日本国内で確保しておくとよい。

 《リスク⑦》テロ、政変などが起きて工場運営ができなくなる。
 ⇒セミナーの講師によれば、「こればかりはどうしようもない」。最悪の場合、工場を全部捨てて日本に帰ってきても、日本本社がつぶれないような計画を立てるべきだという。仮に、海外進出して間もなくテロや政変が起きた場合、海外現地法人の債務を日本本社が背負うことになる。いきなり債務が増えた日本本社が、それでも経営を続けられるかどうかがポイントとなる。その債務に耐えるには、実は日本本社も向こう数年で国内事業を拡大させる必要があるのかもしれない。

 多くの日本企業は、国内市場に限界を感じて、海外市場に進出する。しかし、逆説的な話なのだが、海外に進出するからには、海外のリスクをカバーするために、国内事業も拡大しなければならないのである。日本政策金融公庫総合研究所の調査によると、海外進出している企業は、国内事業の売上高も伸びているというデータがある。その裏には、こういう事情も影響しているのかもしれない(以前の記事「日本政策金融公庫総合研究所『中小企業を変える海外展開』―日本企業の海外展開とその影響に関するアンケート」を参照)。

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