プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』
Prev:
prev 『法治崩壊─新しいデモクラシーは立ち上がるか(『世界』2015年11月号)』
2015年12月02日

「起業セミナー」に参加された方にアドバイスした3つのこと


venture_business

 今年は色々と起業セミナーの企画・運営をやらせていただいた。先日の起業セミナーでは、参加者が各々のビジネスプランを発表し、僭越ながら私が中小企業診断士の立場でアドバイスをさせていただいた。その時の内容のまとめ。

 (1)製品・サービスを絞ると、かえって多様な仕事が舞い込んでくる
 1人目は中堅・中小企業向けの経営コンサルティングで起業したいという方だった。私とガチンコで競合になると思いながら(苦笑)、ビジネスプランを聞いていた。全体的に、サービス内容が総花的であったため、「フォーカスを絞った方がよい」というアドバイスをさせていただいた。

 私の周りの独立診断士を見ると、儲かっていない人ほど「私は何でもできます」とアピールする傾向がある(私も他人のことは言えないが)。顧客企業に対して間口を広げるためであっても、顧客企業側からすると、その診断士を使った場合に一体どんな成果が期待できるのか解らず、仕事を発注しづらい。これは、コンサルティングに限らず、事業一般に言えることである。以前の記事「採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その1~5)」では、「誰にでも効果がある製品・サービス」や「あれもこれも手広くやろうとする事業」は低く採点したという話を書いた。

 逆に、儲かっている診断士は、サービス内容のエッジが効いている。海外工場運営、海外リスクマネジメント、融資・資金繰り、事業再生などといった特定分野の専門性を持っていたり、建設業、IT業界、韓国系飲食店(単なる飲食店ではなく、韓国系であることがポイント)、パチンコ店、水商売(キャバ嬢に対して、「もっと髪をアップにせよ」などとアドバイスしているらしい)などといった特定業種に強かったりする。「そんなニッチなコンサルティングを一体どんな中小企業が望んでいるのか?」とこちらが心配になるが、実はそんな心配は全く無用で、かえって成功しやすい。

 さらに言えば、ニッチなサービスを提供していると、それをトリガーとして仕事の幅が広がっていく。韓国系飲食店に強いとある診断士は、新しいおもちゃの企画・開発を支援するなど、飲食店とは必ずしも結びつかない仕事までしているという。顧客企業は、「先生の専門分野に直接関係しないかもしれないが、実はこういうことで悩んでいる」といった感じで、その先生に相談するようである。端から手広くやることを狙うのではなく、最初は狭く入り込んで、そこから様々な仕事を派生させ、結果的には多様な製品・サービスを提供するようになるのが理想的である。

 こう書くと、以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第30回)】ターゲット市場がニッチすぎて見込み顧客を発見できない」の内容と矛盾しているように思われるかもしれない。私の前職のベンチャー企業は、「キャリア開発研修」というニッチな教育研修サービスを展開しようとしていた。前述の通り、ニッチ市場を狙うという戦略自体は必ずしも間違いではない。問題は、前職の企業は既に高コスト体質になっており、キャリア開発研修の売上高ではコストをカバーできそうになかったことにある。すなわち、ニッチ市場の選択が誤っていたというわけだ。

 (2)組織の価値観はたえざる解釈と発信を必要とする
 2人目は、母親の子育てを支援するITサービスを立ち上げたいという方であった。ビジネスモデルはまだ曖昧だが、組織の価値観だけは最初に確立されているのが印象的であった。価値観とは、不確実性が高い状況において様々な選択肢が想定され、そのいずれも一定の妥当性・合理性があるような時に、損得などの定量的な基準を超えて特定の選択肢を絞り込むための判断基準のことである。能力は可変的であるのに対し、価値観は一度形成されると変化しにくい。

 こう書くと抽象的だが、例えば私自身の価値観は以前の記事「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)(1)(2)(3)」で書いた。もちろん、これとは異なる価値観も十分に成立する。例えば、1つ目に掲げた「努力に惚れるのではなく、成果が出る努力をする。成果が出なければ努力を諦める」については、「成果が出るまで努力する」という価値観もありうる。だが、私の場合は、最初に撤退基準を決め、成果が出る見込みがないと解ったら、たとえそれが大化けする可能性が残っていたとしても、スパッと諦めることをよしとする。

 価値観は、社員の採用時に非常に重要となる。通常は能力重視で採用するものだが、ベンチャー企業の場合そうはいかない2つの事情がある。1つ目は、ベンチャー企業の戦略は流動的であり、戦略の変化に伴って別の能力が必要になることが多いからだ。能力重視で採用をすると、入社後の戦略変更に伴ってその能力が不要になった途端に、社員は「私はこの会社にとって必要な人材ではない」と感じ、離職してしまうリスクが高まる。

 一方で、戦略が変わっても、組織の価値観が変わることは稀である。価値観は組織のアイデンティティそのものであり、それが変わるということは組織の放棄に他ならない。だから、戦略がいかに変化しようとも、その根底に流れる価値観はほぼ不変であるし、そうでなければならない。ベンチャー企業は、変化しにくい自社の価値観をテコに、価値観で組織と心理的に強くつながる社員を採用する。そうすれば、仮に戦略が変わっても社員が組織に残ってくれる可能性が高まる。

 もう1つの理由は、そもそもベンチャー企業には、企業側が求める高い能力を持った人は応募してくる可能性が低い、ということである。ベンチャー企業は資金も人も足りないので、あれもこれもできる人材を採用したくなる。ところが、それが高望みであることは以前の記事「起業・創業をめぐる3つの勘違いをまとめてみたい」でも書いた。極論すれば、能力は採用後でも何とかなる。しかし、価値観は固定的であり、組織の価値観と矛盾する人を採用してしまうと取り返しがつかなくなる。だから、ベンチャー企業の採用は価値観重視でなければならない。

 『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジェームズ・コリンズは、「最初にバスの行き先を決めるのではなく、バスに乗る人を決めよ」と説いた。戦略は不確実でも構わないが、間違った価値観を持つ人を絶対に選んではならない、という意味である。また、GEは「9 Blocks」という人事制度で、社員の価値観がGEの価値観と合致しているかどうかを評価していた。価値観が合わない社員は、たとえハイパフォーマーであっても最悪の場合解雇される(ただし、GEは現在、9 Blocksに代わる新しい人事制度を構築中のようである)。

 2人目の人は、明石家さんまさんの「生きているだけで丸儲け」という言葉を組織の価値観に据えていた。ここで重要になるのは、この言葉を起業家自身が何度も解釈し、その意味を折りに触れて社員に伝える必要がある、ということである。「生きているだけで丸儲け」という文言だけを表面的に繰り返しても意味がない。この言葉がどのような意味を持つのか?具体的にどういうシチュエーションでこの価値観が活かされるのか?そのシチュエーションでこの価値観に従った結果どうなったか?などといったことを伝え、時に社員とともに議論しなければならない。

 私はこの言葉の意味を、「毎日目の前のことに必死に取り組んでいれば、お金は後からついてくる」というふうに解釈した。明治時代の実業家・渋沢栄一の「金は働きのカスだ。機械を運転しているとカスがたまるように、人間もよく働いていれば、金がたまる」という言葉と同じ意味であるととらえたのだ。しかし、人によっては、拝金主義のことだと受け取る人もいるだろう。こういう齟齬が生じないよう、経営者はメッセージを発信し続けるべきである。

 稲盛和夫氏は、「経営者は壊れたレコーダーのように同じことをしつこく社員に伝えよ」と主張した。ただし、レコーダーのように本当に毎回同じ話をするのはあまりよくないと思う。経営者はあれこれと言葉を変え、様々なバリエーションで価値観を語るのが望ましい。ボキャブラリーが多いということは、それだけ深く考え抜かれているということであり、社員の心に響きやすい。逆に、いつも全く同じ話しかしない経営者は、社員から底の浅さをバカにされる。

 (3)「知っていることを知らない人とやる」または「知っている人と知らないことをやる」
 3人目の人は、コワーキングスペースの運営を企画されていた。自分一人ではできることに限界があるため、パートナーとなる人を探したいとのことであった。この方に限らず、ベンチャー企業は経営資源の不足を補うために、外部パートナーの力を借りる局面が多々ある。私は、ある総合商社出身の診断士から聞いた話をお伝えした。総合商社は日々世界中のパートナー企業と一緒に取引をしている。その中で得られた教訓は、「知っていることを知らない人とやる」か、「知っている人と知らないことをやる」のが望ましい、ということであった。

 「知っている人と知っていることをやる」のがベストであることは言うまでもない。だが、どちらか一方が要件不足でも、それは構わない。しかし逆に言えば、どちらか一方は絶対に要件を満たす必要がある。最悪なのは、「知らない人と知らないことをやる」ことである。言われれば当たり前なのだが、知らない人と知らないことをやろうとする人は意外と多い。

 私の前職はまさにそんな感じだった(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第4回)】何にでも手を出して、結局何もモノにできない社長」を参照)。また、独立後に創業補助金の審査員を務めた際、応募者が未経験の分野で起業しようとしているケースがたくさんあることに気づいた(以前の記事「採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その6~10)」を参照)。知らない人と知らないことをやるのは高リスクなのに、それでもやりたくなるのは、自分がよく解っていないがゆえに成功時の収益を大きく見積もってしまうという認知の歪みのせいだろう。加えて、「自分ならそのリスクを上手く回避できる」という過信や楽観主義も影響しているのかもしれない。

 私の前職は大手コンサルファーム出身者が作った企業なのに、なぜこんな当たり前のことが解らなかったのか考えてみた結果、彼らが長年クライアント企業に提供してきた戦略立案のパッケージが問題だったのではないかと思うようになった。彼らの方法論では、まず環境分析を通じて戦略機会(平たく言えば、儲かりそうなビジネスチャンス)を洗い出す。その中から最も魅力的なものを選択し、ビジネスモデルを設計する。その際、自社が担いきれない役割・資源に関しては、外部企業との協業を検討する。そして、パートナー候補をリスト化し、順番に交渉する。

 今になって振り返ると、この戦略検討プロセスは、選択した戦略機会は自社が知見を持っている分野か?パートナー企業は自社が知っている企業なのか?という点が軽視されていたと感じる。だから、知らない戦略機会を過大評価し、知らないパートナー企業でも自社のビジネスモデルが魅力的なら自然と協業に応じてくれると思い込んでしまっていた。

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like