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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年12月04日

『ファミリービジネス その強さとリスク(『一橋ビジネスレビュー』2015年AUT.63巻2号)』


一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク一橋ビジネスレビュー 2015年AUT.63巻2号: ファミリービジネス その強さとリスク
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2015-09-11

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 (1)ファミリービジネスとは、「創業家の一族がその企業の所有または経営に携わる企業」(奥村昭博「ファミリービジネスの理論」)と定義される。日本をはじめ、世界に存在する企業の圧倒的多数はファミリービジネスであるようだ。しかも、日本の上場企業をファミリービジネスと非ファミリービジネスに分けて業績を比較した論文によれば、前者の方に優位性があるという。この傾向は、世界の他の研究とも共通するそうだ(ただし、逆の結果を示す研究もある)。
 Berle and Means(1932)の研究から80年以上たった今日でも、ファミリービジネスは世界にあまねく存在している。ファミリービジネスは、世界中の企業の約3分の2を占め、世界のGDPの70~90%を生み出し、多くの国で50~80%の雇用を創出している。
(淺羽茂「日本のファミリービジネス研究」)
 まず、創業者経営を考察すると、すべての定式化において、圧倒的な業績の優位性を示している。(中略)同じように、創業者経営を除くファミリービジネス(※親族経営、婿養子経営、暫時専門経営者経営、専門経営者経営のこと)の結果を見ると、ファミリービジネスは非ファミリービジネスより平均的に高い業績を示しているという結果になっている。
(ウィワッタナカンタン・ユパナ、沈政郁「ファミリービジネスと戦後の日本経済」)
 ファミリービジネスの方が業績がよい理由として、本号ではプリンシパル―エージェンシー理論、ステュアートシップ理論、資源ベース理論、社会情緒的資源理論などが取り上げられていたが、個人的にはどうも腑に落ちなかった。これらの理論の示唆を乱暴にまとめるならば、「ファミリービジネスは経営者同士、経営者と社員の心理的つながりが強いから、頑張りが利く」ということになる。だが、頑張って成果が上がるならば、理論は何の役割も果たさないことになってしまう。

 言うまでもないが、ファミリービジネスには闇もある。最近では、大韓航空のナッツ事件や、大塚家具の経営陣の対立がファミリービジネスの弊害を表していた。さらに、少しさかのぼって食品偽装問題を起こした数々の企業を見てみると、ファミリービジネスが多いことが解る。ファミリービジネスについて、横軸に企業業績の大きさ、縦軸に企業数をとってグラフ化すると、好業績と低業績の部分に2つの山ができるグラフになるような気がする。このグラフが意味することは、ファミリービジネスの成功要因が、容易に失敗要因に転じやすい、ということである。

 同じようなことは、例えばシリコンバレー発の企業にも言えると思う。シリコンバレーの企業について、横軸に企業業績の大きさ、縦軸に企業数をとってグラフ化すれば、おそらく2山のグラフになる(しかも、低業績の山が非常に高くなる)。シリコンバレーの成功例は非常に華々しいので、どの企業もすぐに真似をしたがる。ところが、その成功要因は同時に失敗要因にもなりうるため、安易に追従すると破滅を招く。多くの企業はGoogle、Apple、Microsoft、Facebook、Amazon、Netflixに憧れる。しかし、これらの企業の模倣によって成功した企業をほとんど聞かない。

 成功要因が成功要因として成り立つのは、母集団をグラフ化した時に正規分布に近いグラフとなり、山の頂点の集団の特徴をルール化した場合であると考える。この点を忘れて、成功事例を表面的に追いかけると、かえって失敗することになるのではないだろうか?

 (2)本号で印象に残ったのは、特集論文よりも、オリンパスのケーススタディであった。オリンパスは世界で初めて胃カメラを発明し、現在では内視鏡の分野において世界でおよそ70%のシェアを誇っている。しかし、開発の道のりは決して平坦ではなかったようだ(山口翔太郎、清水洋「ビジネスケースNo.122 オリンパス 胃カメラとファイバースコープの開発」)。
 初期の胃カメラのコア技術であった光源やレンズ、フィルムにおいては、オリンパスに蓄積されていたカメラの技術をそのまま応用することはできず、宇治(※東大病院分院外科の医師)の要望に1つ1つ応える形で開発が進められたのである。
 あまりの故障の多さと撮影の不確かさから、胃カメラの実用化に対してオリンパス側は悲観的な姿勢を示しており、胃カメラの開発はやめにしようと医師たちに提案したこともあった。しかし、当時立ち遅れていた胃がんの診断を何とかしたいという医師たちの情熱や、社会的な重要性もあり、オリンパスと医師たちは開発を継続した。
 オリンパスの事例を通じて、著者は以下のような分析を行っている。
 実際に事業化を行ったオリンパス側の要因としては、リードユーザーである医師の声に常に耳を傾け続けたことが重要であった。オリンパスの技術者は、医師と情報交換をする場を頻繁に持ち、医師たちがどのような画像であれば診断しやすいか、どのような機器であれば使いやすいか、といったことに関する暗黙的な知識を培ってきた。
 クレイトン・クリステンセンは、「リードユーザーの声を聞きすぎると破壊的イノベーションの台頭を許す」と主張した。だが、破壊的イノベーションは、一定の規模がある市場において、製品・サービスが成熟し、機能過多になっている時に生じる。これに対して、オリンパスが取り組んだのは、確かに潜在ニーズは大きいものの、ニーズに応える具体的製品・サービスがまだ存在しない市場である。この場合は、「顧客の声を聞け」という伝統的なマーケティングの原則が通用する。これは、顧客に密着した製品・サービス開発を得意とする日本企業にとっては朗報である。

 内視鏡に限らず、医療・介護・福祉は潜在ニーズに製品・サービスが十分ついて行っていない分野である。例えば、医療機器の国内売上額は約2.4兆円である(2011年)。生産額は約1.8兆円で、そのうち約0.5兆円は輸出されているから、約1.1兆円が輸入されている計算となる。実に販売額の半分近くが輸入なのである。国内製品ではニーズが満たされないから輸入しているのであって、その意味で医療機器には大きな事業機会があると言える。しかも、これから日本は未曽有の高齢社会に突入するから、日本特有のニーズが次々と生まれてくるのは間違いない。

 よって、顧客に寄り添いきめ細かい製品・サービス開発をする企業が、医療・介護・福祉分野で大きく成長することができると考えられる。高齢化と言うと、経済が停滞するなどと暗い面ばかりが強調されるが、私はもう一度日本企業が成長機会をつかむチャンスを天がくださったのだと理解している。『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで知られる坂本光司教授は、儲からないと嘆く中小企業の社長に対して、医療・介護・福祉分野に挑戦せよと発破をかける。
 「なぜあなた方は大企業から依頼された量産品ばかりを造るんですか?なぜ、低価格の部品やコストダウンを求められるような部品ばかりを造るんですか?どうして、たとえば医療とか福祉、介護などの分野の部品やサービスを創らないのですか・・・。この分野は供給不足で、困っている消費者はたくさんいます。私がかつて行った500人の高齢者の方々へのアンケートでは、現在の商品に対する不平、不満ばかりでした。『こういうものがあればすぐにでもほしい』と、喉から手が出るほど欲している商品が山ほどありました。なぜそういう分野に目を向けないのですか?チャレンジしないのですか?」
(坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』[あさ出版、2008年])
日本でいちばん大切にしたい会社日本でいちばん大切にしたい会社
坂本 光司

あさ出版 2008-03-21

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 医療・介護・福祉分野に進出する企業は、「顧客の声に耳を傾けよ」という従来的なマーケティング原則に従えばよい反面、新たに別のルールを引き受ける必要がある。それは、「政治や行政とのリレーションを構築をせよ」というものである。

 医療・介護・福祉分野の製品・サービスは顧客の生命にかかわるものであるから、国や行政が細かく品質や標準を規定する(自動車を思い浮かべれば解りやすい)。国・行政が定めたルールに従うだけでは、事業の自由度が制約される。国・行政のルール策定に企業自らが関わることで、市場を主体的に創造することが可能となる。経営者、特に中小企業の経営者は「政治と付き合うのは苦手だ/ごめんだ」と思うかもしれない。だが、医療・介護・福祉分野に進出する場合は、顧客と同様に政治や行政も大切にする姿勢が不可欠となる。

 決して、「我が社を補助金で守ってほしい」と懇願するためにリレーションを構築するのではない(中には、こういう主張ばかりが上手な経営者がいて、私も困ることがあるのだが)。「国民の生命を守り、生活の質を上げるためにどういうルールを設けるべきか?」という観点から、発展的な議論をしなければならない(国・行政に対しても、ネガティブな規制で企業を縛りつけるのではなく、企業の創造的な取り組みを引き出すようなルールの策定を期待したい)。

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