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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年01月18日

ロバート・D・カプラン『地政学の逆襲―「影のCIA」が予測する覇権の世界地図』―地政学的に見た4大国の特徴に関する試論


地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図地政学の逆襲 「影のCIA」が予測する覇権の世界地図
ロバート・D・カプラン 奥山真司

朝日新聞出版 2014-12-05

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 ロバート・カプランと言うと、私などはバランス・スコア・カードで有名なロバート・カプラン(Robert S. Kaplan)を思い浮かべてしまうのだが、本書の著者ロバート・カプラン(Robert D. Kaplan)は別人である。地政学とは、地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を巨視的な視点で研究するものである。つまり、地理的な条件が国家の戦略を規定する。

 多くの国では、海岸線、河川、山脈によって国境線が決まる。日本のように、四方を海に囲まれた小国は、国土を拡大する戦略を取りにくい。そもそも、他国から攻撃されるリスクも少ないため、国土拡大によって周辺国を取り込む必要性もない。国土拡大戦略を取るのは、国境線付近に平坦で広大な土地が広がっている国である。こうした国は周辺国に対して国境が開放的であるため、攻め込まれる危険性がある。よって、周辺国を取り込んで国土を拡大しようとする。

 本書では、近代地政学の父としてサー・ハルフォード・マッキンダーが紹介されている。マッキンダーの思想は次の言葉に集約されている。
 東ヨーロッパを支配する者はハートランドを制し、
 ハートランドを支配する者は世界島を制し、
 世界島を支配する者は世界を制する。
 マッキンダーはまず、地政学的な分析に基づき、ユーラシアの重要性を指摘した。ユーラシアは北方を氷、南方を熱帯海洋に囲まれ、辺縁に4つの周辺地帯を持つ広大な地域である。4つの周辺地帯は、世界の4大宗教の勢力圏とほぼ一致する。東は中国の仏教、南はインドのヒンドゥー教、西はヨーロッパのキリスト教、南西は中東のイスラームである(マッキンダーは宗教も地理の影響を受けるとした)。そして、この地域では、将来的にロシアが重要なプレイヤーになると予言した。マッキンダーの指摘の通り、ロシアは第1次世界大戦や冷戦の中心となった。

 第1次世界大戦では、ユーラシアの2大勢力であるロシアとドイツが激突した。終戦後、マッキンダーは東ヨーロッパに複数の緩衝国家を作ることを提案した(1991年のソ連崩壊後、マッキンダーの構想と非常によく似た一連の新興独立国が実際に生まれた)。これらの国家によって、ロシアがヨーロッパに流れ込むことも、ドイツがロシアに流れ込むことも防ごうというわけだ。逆に言えば、東ヨーロッパを支配すれば、次に述べるハートランドという、より広大な地域が手に入る。

 ハートランドとは、中央アジアの中軸地帯に、チベットとモンゴルの高原地帯におけるインド・中国の大河の上流域、スカンジナビアからアナトリアまで南北に広がるヨーロッパのベルト地帯を含めた広大な地域である。これは、冷戦時代の絶頂期のソビエト帝国におおよそ匹敵する。ソビエト帝国にノルウェー、トルコ北部、イラン、中国西部を加えたものに等しい。東ヨーロッパの支配は、そこからの地理的広がりによって、ハートランドの掌握につながるとマッキンダーは考えた。

 マッキンダーの予測はここで終わらない。先ほど、ユーラシアは4つの周辺地帯を持つと書いたが、この4つのうち南西の中東だけは非常に脆弱である。アフリカに近いせいで湿気を奪われ、オアシスを除けば人口が希薄である。そのため、歴史的に混乱や革命が起きやすく、遊牧民による侵略にも悩まされていた。ところで、周知の通り、ヨーロッパはコロンブスの時代に、喜望峰経由でインド洋に出る航路を発見した。これによりヨーロッパは、中東を迂回して南アジアの周辺地帯全体に出られるようになった。つまり、ユーラシアとアフリカはつながったわけである。マッキンダーは両大陸を合わせた広大な地域を世界島と呼んで、1つの地政学的単位とした。

 以前、エマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる―日本への警告』(文春新書、2015年)を読んだ時、フランス人のトッドがドイツのことを非常に警戒していた。
 要するに、王様は裸だということを看て取ることを受け入れるならば、次のことを確認するにちがいない。①ここ5年間の間に、ドイツが経済的な、また政治的な面で、ヨーロッパ大陸のコントロール権を握った。②その5年を経た今、ヨーロッパはすでにロシアと潜在的戦争状態に入っている。
「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)
エマニュエル・トッド 堀 茂樹

文藝春秋 2015-05-20

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 ヨーロッパは、クリミア問題などで国力を回復しつつあるロシアを恐れている。だが、ロシアはヨーロッパの重要なバランサーとして必要だとトッドは指摘する。また、ロシアが衰退すると困るのは、実はアメリカであるという。ロシアの代わりにドイツが強大な力をつけて、アメリカと対立するかもしれないからだ。ヨーロッパはジレンマに陥っている。ロシアがウクライナを併合すれば、ウクライナの4,500万人の労働力のうち、相当数がドイツに流れ込む。彼らは安価な労働力としてドイツ産業を支える。独り勝ち状態のドイツ経済はますます好調になるだろう。

 また、ロシアがウクライナを併合するのは、ウクライナ国内を通るガスパイプラインへの影響力を確保するためと言われる。ところが、そのパイプラインの末端はドイツにある。よって、ロシアがウクライナを併合すれば、ロシアは否応なしにドイツと対峙せざるを得ない。ヨーロッパとしては、バランサーとしてのロシアに力をつけてほしいと願うものの、それは結果としてドイツの強大化を招く。だから、トッドはドイツを非常に恐れている。そして、そのドイツに盲目的に従うしかないフランスのオランド大統領を、皮肉を込めて「ドイツ副首相」と呼んでいる。

 私が生まれた時、ドイツは東西に分裂していたし、物心ついた時にようやくベルリンの壁が崩壊したから、強いドイツというものがどうもイメージできなかった。だから、トッドの恐怖心もいまいちピンと来なかった。しかし、ロバート・カプランの本を読んで、ドイツがもともと地政学的に大国であったことを理解した。現在、世界にある大国は、アメリカ、ドイツ、ロシア、中国の4つであると考える。この4か国の特徴を、非常にラフなスケッチだが下図のようにまとめてみた。

4大国の特徴

 「国家主義」とは、国家の枠組みを必要とする立場であり、「超国家主義」とは、国家の枠組みを取り払おうとするスタンスを意味する。アメリカは自由主義かつ国家主義である。アメリカは自由、平等、基本的人権、市場原理、資本主義といった普遍的価値を世界中に広めようとしている。だが、アメリカという国家そのものをなくして、世界中を同じ価値観で染まった1つの仲間にしようとは考えていない。それは、アメリカが広大な大地を持つ国家でありながら、2つの大きな海洋に挟まれていることが要因の1つであると思われる。
 アメリカが理想主義に耽ることができるのは、2つの大洋にはさまれているからだけではない。2つの大洋を通じて、世界の政治と商業の二大動脈に自由に行き来できるようになったからでもある。すなわち大西洋を隔てたヨーロッパと、太平洋を隔てた東アジアであり、その間に豊かなアメリカ大陸が広がっている。しかし、2つの大洋によってほかの大陸から何千キロも隔てられているせいで、アメリカは強烈な孤立主義思想をもつようになり、それは今に至るまで続いている。
 アメリカと対極に位置するのがロシアである。すなわち、専制主義で超国家主義である。本来の社会主義は、労働者階級が資本家階級を打倒し、全世界の労働者が平等に連帯する世界市民共同体を理想としていた。その過程において、国家は必要悪として存在するにすぎず、やがては取り除かれることが予定されていた。ソ連とはそのための枠組みであった。ソ連は崩壊したが、ここ数年のロシアの動きを見ていると、どうも根本的な精神は変わっていないように見える。すなわち、どこまでも領土を拡大し、専制主義を敷く。その実現のためには武力行使もいとわない。国境は可変的ととらえるのは、ロシアの地政学的な位置が影響しているのかもしれない。
 ロシアは地球ほぼ半周分の経度170度にわたって広がる、傑出したランドパワー国家だ。ロシアの外洋への出口は主に北方にあるが、そこは北極圏の氷によって1年のうち何カ月も閉ざされている。ランドパワー国家は常に不安に苛まれていると、マハンは示唆する。国土を守る海がないため、常に満たされず、拡大を続けるか、逆に征服されるかのどちらかしかない。ロシアには、とくにこれがあてはまる。広大な平地には自然の境界がほとんどなく、何の防御もない。ロシア人が内陸部の敵に対して抱く恐怖心こそが、マッキンダーの主な研究テーマである。
 ロシアに倣って共産主義国となった中国は、ロシアとは異なり国家主義である。確かに、近年は領土拡大の野心をあらわにしている。だが、中国は仮に領土を拡大しても、中国という国家の枠組みを維持すると思われる。中国が目指すのは、かつてのように周辺国を従える冊封体制の復活である。ドイツは中国とは正反対に、自由主義かつ超国家主義である。EUは国家主権を超えた共同体であり、どの国もその中心とならないことを約束したはずであった。しかし、今やEUはドイツなしに機能しない。かつての大国ドイツのカムバックをアメリカは恐れているのだろう。

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