プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年01月20日

『意思決定の罠(DHBR2016年1月号)』―M-1のネタ見せ順と順位に関係はあるのか再検証してみた、他


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 (1)
 マネジャーたちも(マーケティング部門以外のマネジャーだとしても)、エバンジェリストになりうるのだ。(中略)あなたがリーダーならば、自社とその製品、サービスの伝道に努めるべきだ。社内であれば休憩室、あるいはメールや協働プラットフォームを通じて、社外であれば業界の会合、リンクトインやフェイスブック、ツイッターを通じて、内外どちらに対してもエバンジェリストとしての役目をすすんで果たさなければならない。ソーシャルメディアの時代では、エバンジェリズムは全員の責務である。
(ガイ・カワサキ「究極のマーケティングを実践しよう エバンジェリスト:自分の「わくわく」を伝える技術」)
 エバンジェリズムとは宗教用語であり、「よい知らせ(福音)の告知」という意味である。この論文を読んだ時、まさにこれはアメリカ的な発想だと感じた。アメリカと日本の戦略の違いについては、以前の記事「日本とアメリカの戦略比較試論(前半)(後半)」、「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などで書いたので、そちらをご参照いただきたい。

 端的に言えば、イノベーターが自身のニーズに基づいて生み出した革新的な製品・サービスを世界中に普及(布教)させることを、唯一絶対の神と契約するのがアメリカ企業のやり方である。これはエバンジェリズムに他ならない。著者は、マネジャーは誰もがエバンジェリストになるべきだと主張する。ちなみに、著者はアップル出身であり、アップル在籍時にはマッキントッシュによって誰もがもっと創造的かつ生産的になるという「福音を告知すること」が仕事であったという。

 アメリカは情報分析が大好きである。マーケティングにITを活用するのは、アメリカの方が断然進んでいる。だが、私が思うに、アメリカが情報を重視するのは、顧客ごとに製品・サービスをカスタマイズするためではない(※)。世界標準の製品・サービスを世界中に普及させるために、顧客の違いに応じてどういう戦術を取るか緻密に検討するのが目的である。近年、IoTが注目されている。例えば、GEは航空機のエンジンをネットワークにつなぎ、稼働状況を常時監視して、保守や交換のタイミングを最適化している。これは顧客のニーズに応じたサービスを提供しているようだが、実際にはGEが顧客を囲い込んで、エンジンの売上高を伸ばすのが狙いである。

 (※)確かに、AmazonやYoutubeはユーザーの好みに応じてコンテンツをカスタマイズできる。しかし、AmazonやYoutubeの真の狙いは、結局のところ高度な情報分析によって、ユーザーが両社のプラットフォームから逃れられなくすることであるように思える。

 アメリカの情報重視は政治の世界でも同じである。アメリカはインテリジェンスに多大な投資をし、多国の政治や経済にも介入する。ところが、各国の民族性、歴史、風土、文化、社会などの特徴に応じて、その国にフィットした政治・経済体制を構築しようとしているようには見えない。あくまでも、自由、平等、基本的人権、市場原理、資本主義といった普遍的価値を、アメリカと同じように実現させようとしている。アメリカが情報を活用するのは、アウトプットをカスタマイズするためではなく、ゴールに至る施策をファインチューニングするためである。

 (2)昨年末、5年ぶりにM-1グランプリが復活した。旧ブログの「M-1グランプリ決勝のネタ見せ順番に有利・不利はあるのか?」という記事で、2007年終了時点において、決勝のネタ見せ順によって、最終決戦進出に有利・不利があるのかどうか検証を試みたのだが、今になって読み返してみると何とも浅はかな内容で恥ずかしくなった。あれから4回大会が終わってデータも増えたので、今度は別の方法で検証してみることにした(とはいえ、当方は統計学の知識が不足しているため、この方法で正しく検証できているかどうか、コメントをいただけるとありがたいです)。

 下表は、2002年~2010年、2015年大会の決勝順位とネタ見せ順を一覧化したものである。2001年のみ出場組数が10組である、観客の得点が反映されるなど、採点方法が異なるため除外した。また、最終決戦の順位は考慮しておらず、純粋に決勝順位のみを分析対象とした。
M-1ネタ見せ順と順位

 ここで、1位のネタ見せ順を順番に並べた集合を、1位のネタ見せ順群={5, 7, 8, 5, 6, 9, 4, 8, 6, 9}とする。ネタ見せ順によって決勝順位に差がないとすれば、各順位のネタ見せ順群は、1-9(位)の中から重複を許して10個の数字(10年分のため)をランダムに抽出した集合であり、群によって違いはないはずだ。例えば、1位のネタ見せ順群と、5位のネタ見せ順群は、同じ集合となる。もし違う集合であれば、ネタ見せ順によって決勝順位に影響が出ていることを意味する。

 2つのグループの平均の差が偶然誤差の範囲内にあるかどうかを調べる方法が「t検定」である。t検定をエクセルで行うやり方は、「F検定→t検定・・・平均値の差の検定」や「T.TEST関数/TTEST関数でt検定を行う」をご参照いただきたい。TTEST関数の値が0.05(与えられた自由度に対するt値が95%の信頼区間の外にある=外側の確率が5%以下)未満の場合、2つのグループの平均値に有意差があることになる。

 例えば、TTEST関数の第1引数に1位のネタ見せ順群={5, 7, 8, 5, 6, 9, 4, 8, 6, 9}を、第2引数に2位のネタ見せ順群={2, 4, 5, 1, 4, 6, 7, 5, 3, 6}を設定する(なお、第3引数には「2」=両側確率を求める、第4引数には「1」=対になっているデータのt検定を設定した)。この時、関数が返す値が0.05未満であれば、1位のネタ見せ順群と2位のネタ見せ順群には有意差があり、異なる集合であると言える。つまり、ネタ見せ順が決勝順位に影響を与えている。

 下表は、1位のネタ見せ順群と2位のネタ見せ順群、3位のネタ見せ順群・・・9位のネタ見せ順群、2位のネタ見せ順群と3位のネタ見せ順群、4位のネタ見せ順群・・・9位のネタ見せ順群、3位のネタ見せ順群と4位のネタ見せ順群、5位のネタ見せ順群・・・9位のネタ見せ順群との間でt検定を行った結果である。TTESTの値が0.05未満のセルを黒塗りした。
M-1ネタ見せ順と順位(t検定)

 これを見ると、ネタ見せ順が決勝順位に与える影響はある程度ありそうである(旧ブログの結論と違っており申し訳ない)。特に、8位、9位になるネタ見せ順には偏りがある。実際、最初の表を見ると、8位にはネタ見せ順=2番目が、9位にはネタ見せ順=1番目が多い。序盤にネタ見せするコンビは不利であるというのは当たっている。1位、2位、3位の間でも有意差が見られるが、1位と3位は後半の順番に偏っており、2位は前半の順番を含むことが影響していると考えられる(したがって、1位と3位には有意差がないのに対し、1位と2位、2位と3位には有意差がある)。


 《2016年8月17日追記》
 2つのグループの平均の差が偶然誤差の範囲内にあるかどうかを調べるには「t検定」を用いればよいが、3つ以上のグループの平均の差を検定する場合には「分散分析」を行わなければならないことに最近気づいた。半年以上も誤りを放置したままで、何とも恥ずかしい限りである。分散分析のやり方については、「エクセル 分散分析を簡単に解決しました。」を参照した。分散分析の結果、「観測された分散比」>「F境界値」であるため、グループ間には有意の差がある。つまり、ネタ見せ順が順位に影響していると言える。


M-1ネタ見せ順と順位の関係(分散分析)

 旧ブログの記事では、1組終了するごとに採点を行っていることがネタ見せ順による不公平感を是正していると書いた(最後にまとめて採点すると、前半のネタは記憶から薄れてしまい、よく覚えている後半のネタを高く評価してしまう)。だが、今回の分析によれば、現在の採点方法でもまだ改善の余地があることをうかがわせる。改善のヒントは以下の引用文から読み取れる(いきなりM-1の話をしてしまったが、ようやくDHBRの論文の話に戻ってきた)。
 意思決定の選択肢は、順番に評価するよりも同時にまとめて評価したほうが、バイアスが減る。たとえば就職希望者を評価するマネジャーは、彼らを別々に比較するよりも相互比較することで、その将来のパフォーマンスを偏りなく見極められる。まとめて評価したほうが、性別や暗黙の固定概念ではなく、その人の過去のパフォーマンスに注目する方向へ採用担当を「ナッジ」できるからだ。
(ジョン・ビシアーズ、ファンチェスカ・ジーノ「意思決定のプロセスと過ちの原因を理解せよ 行動経済学でよりよい判断を誘導する法」)
 審査員は1組終了するごとに採点を行うものの、1組ごとに得点を集計して発表せず、9組が終了した時点で審査員が各組の得点を調整する時間を与えるとよい。ここで、9組を相互に比較すれば、引用文にあるように意思決定のバイアスが軽減される。また、序盤はまだ会場が温まっておらず、序盤の組にとって不利だという点については、例えば決勝から漏れた審査員の注目株を3組ほど登場させるとよい(あるいは、結成15年を超えており、大会とは無関係の組を登場させるという手もある。ただ、ベテランが前座のようなことをするのは嫌がるかもしれない)。

 (3)
 もう1つの理由は、自分の引き出しにある戦略の幅が広いからです。そして戦略の幅が広いのは、ボツにした戦略の数が圧倒的に多いからです。どんな相手でも、自分より先に相手の引き出しを出し切らせる自信があります。
(梅原大吾、石川善樹「「勝ち続ける」ための定石 【対談】感情を制する者はゲームを制す」)
 梅原大吾氏は日本初のプロ・ゲーマーである。梅原大吾氏も石川善樹氏も私と同い年である。同い年の人がDHBRに登場しているのを見ると、私ももっと頑張らないといけないと思う。今月号のDHBRは、この2人の対談が一番面白かったかもしれない。今月号には、心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「システム1」、「システム2」という2つの思考に言及した論文が2本あった。非常に簡単に言うと、システム1は直観的な思考、システム2は論理的な思考である。

 我々が日常生活の中で迅速に判断を下すにはシステム1が有効だが、システム1は様々なバイアスに影響されやすいという難点もある。そこで、時にはシステム2に切り替えて、システム1の欠点を上手に補う必要がある、というのが一般的な主張である。ところが、本号の論文では、システム1もシステム2も問題があり、両者を統合したアプローチが必要だと指摘されていた。しかしながら、私の理解不足のせいか、それが具体的に何を指すのか、どうも釈然としなかった。

 話を元に戻そう。ゲームはゴールが非常に明確である。梅原氏が得意とする格闘ゲームであれば、自分の体力が0になる前に、相手の体力を0にするのがゴールである。そして、それを達成するためにどういう作戦を取るかを考える。梅原氏の強さの秘訣は、作戦のバリエーションの豊富さにある。これはいかにも日本人らしい戦い方だと思った。

 以前の記事「『叙述のスタイルと歴史教育―教授法と教科書の国際比較』―whyを問うアメリカ人、howを問う日本人」でも書いたが、アメリカ人は因果関係をできるだけ単純化するのに対し、日本人は様々な要因が積み重なって結果が生まれると考える。格闘ゲームの場合、梅原氏によれば、プレイヤーを画面の両端に追い込むと勝てる確率が上がるそうだ。アメリカ人は、相手をいかにして画面の両端に追い込むかに集中するに違いない。一方、梅原氏は、そういう勝ちパターンは意識するものの、それ以外にもどういう戦い方ができるかを色々と思案する。
 野球のピッチャーで考えると、ツーストライク・ノーボールの状態はピッチャーが有利だといえます。ここからスリーストライクを取れば勝つゲームではなく、いかにツーストライクを取るかが問われるゲームだと考えることができる。これが視点の変化です。勝負を有利に運ぶのは運ではありません。戦略です。この場合は、ツーストライクをゴールにすることで、より簡単にゴールに進ませてもらうのが戦略です。相手のバッターが、最後のストライクさえ取られなければいい、最も集中力を発揮すべきは最後の一球だと思っていれば、スリーストライクと比べるとツーストライクは比較的簡単に取ることができるでしょう。(同上)
 野村克也氏によれば、打者の得意なコースのすぐ近くに苦手なコースがあることが多いそうだ。これは重要なことを示唆している。すなわち、強みのすぐ近くに弱みがあり、強みばかりに集中していると、近くの弱みを突かれてコロリと負けてしまうリスクがある、ということである。だから、競合他社に簡単に強みを悟られてはならない。逆に、競合他社が強すぎて太刀打ちできないようでも、その強みの周辺をじっくりと観察すれば、意外な弱点が隠れている可能性がある。

 中小企業診断士は、企業の財務諸表に基づいて各種指標を算出し、その値を同業他社と比較して強み、弱みを分析する。この時、特定の指標が優れているからその分野に強みがあると結論づけるだけでは、分析としては不十分なのかもしれない。その指標が優れていることによって、周辺の業務にしわ寄せが行っていることも考えられる。そこまで思い及んで仮説が立てられるようになったら、かなりの腕前と言えるだろう(私はそのレベルまで達していないが)。

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