プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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正論2016年1月号正論2016年1月号

日本工業新聞社 2015-12-01

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 まず、日本も同じことをしてほしい。日本は、CIAもそうですが、全米民主主義基金のようなものも持つべきでしょう(National Endowment for Democracy. レーガン政権時代の1983年に「他国の民主化を支援する」ため設立された基金。アメリカ議会が出資。注)。ない、ということは驚くべきことではありませんか。アメリカの基金の場合、年間予算は1億ドル、中国や香港でのオペレーションも含まれます。日本になぜないのか理解できません。
(マイケル・ビルズベリー、島田洋一「《対談》邦訳もベストセラー、『100年マラソン』著者の忠告 日本には知らせなかった 世界覇権を狙う中国にアメリカが甘い本当の理由」)
 アメリカにはそんな基金があるのかと新たな発見であった。アメリカは自由、平等、基本的人権、市場原理、資本主義といった普遍的価値を他国でも実現させようとしている。そのためには、社会・経済システムに介入し、政権を転覆させることもいとわない。アメリカはインテリジェンスに多大な投資をしている。ただ、アメリカの狙いは、各国の民族性、歴史、風土、文化、社会などの特徴に応じて、その国にフィットした政治・経済体制をカスタマイズすることではないように思える。各国の現状を詳細に把握した上で、アメリカという確固たる理想にジャンプさせるために、どのような方策が有効なのか、方策の方をカスタマイズするのが目的である。

 アメリカがインテリジェンスに多大な投資をするのは、ビジネスにおいても同じである。最近は、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)などが話題だ。ただし、ここでもアメリカ企業の目的は、顧客のニーズに応じて製品・サービスを細かくカスタマイズすることではないと感じる。例えば、GEは航空機のエンジンにセンサーを内蔵して、稼働状況をモニタリングし、運用・保守サービスを最適化したり、リプレースの時期を的確に見極めたりしている。いわゆるIoTの仕組みである。GEの目標は、顧客企業を囲い込んで、エンジンの売上高を増加させることに他ならない。

 確かに、AmazonやYoutubeなどのように、顧客情報を活用して製品・サービスをカスタマイズしている例があるのも事実である。しかし、見方を変えれば、両社は高度なアルゴリズムによって、本を購入するならAmazon、動画を見るならYoutubeと顧客に思わせる、すなわち、他のネットサービスを排して、AmazonやYoutubeというプラットフォームから顧客が逃れられないようにしようという意図を感じる(ここまでの内容は、以前の記事「『意思決定の罠(DHBR2016年1月号)』―M-1のネタ見せ順と順位に関係はあるのか再検証してみた、他」を参照)。

 だが、日本が同じようなことをすると大失敗するように思える。アメリカですら、上記のような価値観の押しつけは失敗に終わっているという指摘がある。
 しかし、まさにイラク戦争の失敗はアメリカが「共有する価値観」と思っていたものが、中東の地でも実現可能だと信じてしまったことから生じたのではないのか。しかも、こうした「価値観外交」の結果としてイラクに無秩序をもたらし、ひいては「イスラム国」を生み出してしまったのではないのか。
(東谷暁「パリ同時多発テロ批判に思う」)
 日本はそもそも、アメリカのように理性の働きによって普遍的な理想をデザインすることが苦手である。自分が経験したこと、見聞きしたことをベースに、”望ましいと思われること”を構想する。逆に、見たこともないことを情報によって認識することが非常に弱い。だから、日本ではインテリジェンスが発達しない。日本人の構想は、その人を取り巻く環境、周囲の人々との関係の性質、本人の性格や考え方などによって制約されている。だから、普遍性がないのである。

 以前の記事「麻生太郎『自由と繁栄の弧』―壮大なビジョンで共産主義を封じ込めようとしていた首相」で、麻生太郎氏が日本から東ヨーロッパにかけて、自由、民主主義などの共通の価値観で結ばれた国々からなる「自由と繁栄の弧」を形成しようとしていることを書いた。また、第2次安倍政権は「価値観外交」を掲げて、価値観を同じくする国とのリレーション強化に努めた。当時は素晴らしい外交だと思っていたが、どうもそんなに簡単な話ではなさそうだと思い直した。

 日本が自らの構想を他者に押しつければ、絶対に軋轢が生まれる。仮に、以前の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」、他」で書いたことが日本人の本質であるとすれば、日本は外交するたびに相手国を攻撃するか、相手国に土下座するかのどちらかである。すなわち、日本の構想を受け入れない相手国を力づくでねじ伏せて反撃を食らうか、構想を押しつけることをあきらめて相手国の現状に追従するかのどちらかである。いずれの道をとっても、日本は手痛いダメージを負う。

 日本人は、インテリジェンスに弱い反面、対象をじっくりと洞察することに長けている。近年、マーケティングの分野で「エスノグラフィー(文化人類学)・マーケティング」が注目されている。これは、文化人類学者のように、何の先入観も持たずに相手を観察し、相手の潜在ニーズを発見するものである。これは日本企業なら昔からやっていたことだ。アメリカがエスノグラフィー・マーケティングに注目するのは、彼らがインテリジェンス重視であったことへの反省の表れである。

 日本は外交の場でも、エスノグラフィックな対象の把握に努めなければならない。日本自身の限られた経験から導かれた構想を崇高な理想として絶対視してはならない。代わりに、各国の民族性、歴史、風土、文化、社会などの特徴に応じて、その国にフィットした政治・経済体制の構築を支援する必要がある。しかも、アメリカが目指すような一足飛びの変化ではなく、漸次的な前進を目指すべきだ。アメリカは自らの理想を絶対に動かさないが、日本は観察された事実が増えるに従って、目標とする政治・経済体制を徐々に変質させても構わない。仮に、日本が日本民主主義基金なるものを設立するとすれば、こういう活動を目的とすべきであろう。

 話は変わるが、経営コンサルタントの仕事は、顧客企業のあるべき姿(To-Be)を描き、現状(As-Is)とのギャップを抽出して、ギャップを埋める施策を立案し、将来の業績を予測することであるとされる。かつての私は結構な理想主義者だったので、いったんあるべき姿を描いたら、それを絶対に動かさないところがあった。私の描く理想が100であれば、顧客企業の現状がcccだとしても、cccから半ば強引に100に持っていく方策を考えようとしていた。

 だが、100とcccは異質すぎて、簡単にはギャップを埋められない。それに、第三者的には100が望ましいように見えても、顧客企業はその100を居心地がよいと感じないかもしれない。顧客企業を取り巻く環境、ビジネスモデルの特徴、組織能力、組織構造、風土、人材の性質などを考慮すると、遠くて異質な100を目指すよりも、実は近くて類似のbbbに持っていく方が顧客企業にとっては望ましいことが多い、ということに最近気づいた。

 私も何だかんだで中小企業診断士の世界にもう8年近くいるのだが、8年もいると時折悪評が伝わってくる。大企業や総合商社のOBで、公的機関の専門家として登録されている診断士の中には、自分の経験を中小企業に押しつけてトラブルになる人がいるという。繰り返しになるが、大企業や総合商社での経験は企業特殊的経験であり、全く普遍性がない。そのことに気づかずに、自分が経験したやり方が一番だと勘違いしている人がいるようなのである。

 私も、そういう勘違いをした診断士に出会うことがある。ある家電メーカー出身の診断士数名と立て続けに仕事をする機会があったが、彼らはことあるごとに「私がいた会社ではこんなことは考えれない」、「私がいた会社ではこういうやり方をしていたのだから、そうするべきだ」などということを顧客企業の前で平気で口にする。もちろん、これも私の限られた経験なので、その家電メーカーの社員が皆同じように考えていると一般化することはできない。ただ、仮に類似の傾向が見られるならば、シャープ、東芝の次にダメになる家電メーカーはここではないかと心配になる。

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