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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年01月06日

平成27年度補正ものづくり補助金の概要について


工場

 2015年12月18日に経済産業省が公表した平成27年度補正予算の資料によると、平成24年度補正から4年連続で「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金)」が実施されるようだ。今回も平成26年度補正時とほぼ同額の予算(1,020.5億円)が計上されている。以前、官公庁関係者で補助金に詳しい人に話を聞いたところ、「同じ名前の補助金はだいたい3年で終わる」とのことだったので、今回の継続は意外であった。2017年4月には消費増税を控えているため、景気対策と銘打って平成28年度補正でもものづくり補助金が出るかもしれない。

 まだ公募要領も何も出ておらず、具体的な中身はよく解らないのだが、中小企業庁のHPにヒントとなる資料が1つアップされていた。「平成27年度補正予算「ものづくり・商業・サービス新展開支援事業」に係る事務局の募集を開始します」というページは、タイトルの通り補助金の事務局(事業計画の審査、補助金の支払い業務など、採択された中小企業の各種サポートを行う事務局。平成24年度補正~平成26年度補正ものづくり補助金では、全国中小企業団体中央会が受託)を公募するページである。その「公募要領」には次のような記載がある。
【補助対象経費と補助率】
 1.革新的サービス・ものづくり開発支援
  (1)一般型(補助上限1,000万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、技術導入費、運搬費、専門家経費
  (2)小規模型(補助上限500万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、原材料費、技術導入費、外注加工費、委託費、
   知的財産権等関連経費、運搬費、専門家経費、クラウド利用費

 2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援(補助上限3,000万円、補助率2/3以内)
   機械装置費、技術導入費、運搬費、専門家経費
 「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」は従来から存在する類型である。これに対して、今回新たに加わったのが「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」であり、経済産業省の資料では「IoT等の技術を用いて生産性向上を図る設備投資等を支援」と書かれている。この場合は補助上限が3,000万円まで引き上げられる。

 「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」の(1)一般型、「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」の補助対象経費を見ると、おそらく「設備投資のみ」が対象になると思われる。従来は(1)一般型の下に、さらに「試作開発+設備投資」と「設備投資のみ」という2つの類型があった。「試作開発+設備投資」を選択すると、試作開発に関連する様々な経費が補助対象となるのに対し、「設備投資のみ」を選択した場合は、対象費目が限定されるという違いがあった。上記で列挙されている経費は、従来の「設備投資のみ」で使用可能だった経費と一致する。

 個人的な印象だが、「試作開発+設備投資」の場合、導入する設備は試作用ということで小規模なものが選択されることが多い。量産に入ったら破棄しても構わないという小規模なものを購入する。量産段階になれば、量産用の大規模な設備を導入し直す(ただし、補助対象となるのは試作段階の設備のみであり、量産用設備は対象外)。他方、「設備投資のみ」の場合は、最初から量産を見据えて大規模な設備を導入する(1,000万円単位の工作機械など)。総じて、補助金と連動して動くお金は、補助対象費目が少ないにもかかわらず「設備投資のみ」の方が大きい。

 国としては、補助金の投入によってより多くのお金が動いてくれた方が景気の刺激になる。だから、「設備投資のみ」に誘導したい思惑があるのだろう。ところが、個人的に「設備投資のみ」には色々な問題があると感じている。その辺りは以前の記事「「新ものづくり補助金(中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業)」の運用改善に関する私案」、「「ものづくり補助金」の「機械装置費」に関する一考」でも書いた。簡単に言うと、「試作開発における技術的課題の解決を自社で主導的に行う企業を補助する」という補助金の目的に反して、課題解決を機械メーカーに丸投げしている企業が補助金を受け取ってしまう恐れがある、ということだ。

 今回は、「試作開発+設備投資」で1,000万円の補助金を受け取ることができないのかもしれない。「試作開発+設備投資」を行いたい場合は、「1.革新的サービス・ものづくり開発支援」の(2)小規模型を選択する。ただし、従来の小規模型は補助上限が700万円であったが、今回は500万円と減額されている。さらに、補助対象経費から直接人件費(常時雇用する社員の人件費)と雑役務費(試作開発のために臨時に雇用するパート・アルバイトの人件費)が外されている。ソフトウェア開発など、直接人件費がコストの大半を占めるIT企業にとっては非常に不利だ。

 最後に、今回追加された「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」について。最近注目のIoTに関連した類型である。経済産業省の資料では、「新たに航空機部品を作ろうとする中小企業が、既存の職人的技能をデータ化すると共に、データを用いて製造できる装置を配置」という例が挙げられている。だが、これはIoTでも何でもなく、ITを使った製造プロセス改善にすぎない。

 IoTはInternet of Things(モノのインターネット)というぐらいだから、顧客に納入される製品(モノ)自体にデータ収集の機能を持たせることが大前提となる。そして、そのデータを一元管理して、運用・保守サービスの最適化や、顧客の収益力向上に向けた提案を行うことが狙いである。経済産業省の例はIoTの定義に合致しない(この話を知り合いの中小企業診断士にしたら、「きっと『IoT等の技術を用いて・・・』の『等』に含まれる例なのだろう」と解説してくれた)。

 前述の通り、「2.サービス・ものづくり高度生産性向上支援」は「設備投資のみ」が認められると思われる。とはいえ、IoT関連の新製品開発が、設備投資だけで可能になるとは到底思えない。大規模なサーバを購入すればIoTが実現できるわけではない。データ収集・通信機能を組み込んだ新製品の試作に必要な原材料費、製品に組み込むソフトウェアを自社で開発するための直接人件費、インターネット上で稼働させる管理ソフトを協力会社に委託する際の外注加工費、データ収集・解析方法に関する知的財産権等関連経費など、様々な費目が必要になることは容易に想像がつく。先ほどの定義の話といい、どうも経済産業省の考えていることはよく解らない。

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