プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年02月12日

日経ビッグデータ『この1冊でまるごとわかる!人工知能ビジネス』―AIで日本の強みを侵食するアメリカ?


この1冊でまるごとわかる! 人工知能ビジネス(日経BPムック)この1冊でまるごとわかる! 人工知能ビジネス(日経BPムック)
日経ビッグデータ

日経BP社 2015-08-29

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 3年前の記事「【ドラッカー書評(再)】『乱気流時代の経営』―(無謀な予測だが)2020年までに開花しそうな7つの技術(前半)(後半)」で、①メタンハイドレード、②人工知能(AI)、③再生治療、④カーボンナノチューブ、⑤準結晶、⑥燃料電池自動車、⑦6次産業化を取り上げた。3年前の段階で①③⑦はかなり注目されていたと思うが、燃料電池自動車は電気自動車との覇権争いの最中で、人工知能も興味本位の報道が先行していたように思える。

 ところが現在、燃料電池自動車と電気自動車の間でどちらに軍配が上がりそうか議論が盛んになっているし、人工知能は技術が進んでメディアに取り上げられる機会が爆発的に増えた。そういう意味では、3年前の記事はあながち間違いではなかったのだろう。もっとも、①~⑦は私が考えたのではなく、私の周りの人の情報を集約した結果にすぎないのだが。集合知万歳!

 (1)
 人工知能ができることは人工知能に任せる。人間は人工知能ができない「状況の判断」や「筋道理解」で力を発揮すればいい。だから、こうしたことが得意な人材を育成することがより重要になるわけだ。すなわち、学校が知識を教育する場から知恵を教育する場へ大きく変わっていく。
 IT技術が発達すると、この手の議論は必ず出てくる。知識の蓄積という面では、人間はITに絶対勝てないのだから、知識を詰め込むことは止めて、創造力の発揮に特化すべきだという主張である。ただ、こういう見解に対して私は非常に懐疑的である。旧ブログの記事「「覚える力」と「考える力」を伸ばすためには?-『ゆとり教育が日本を滅ぼす』」でも書いたが、考える力を伸ばすためには、ある程度知識を詰め込まなければならない。我々は、知らないことについては考えることができない。日本の教育は知識偏重だと批判される。しかし、大人になってみると、学校の知識量ですら社会の様々な問題を考え抜くには不十分であることを思い知らされる。

 ITに知識の蓄積を任せ、人工知能で分析を自動化し、人間がその分析結果の活用を考えるとする。人間は、人工知能が示す情報の意味を理解しなければ、分析結果をどう使えばよいのか判断できない。そして、情報の意味を理解するには、ベースとなる一定の知識量が不可欠である。そもそも、考えるとは、異なる概念同士を結びつけて新たな知を生み出すことだ。だから、考える力と知識は一体不可分の関係にある。もし引用文のように両者を分断し、人間が考える力に特化したとすると、人間はかえって考える力を失い、人工知能の奴隷となるに違いない。

 最近、「デザイン思考」というアプローチが注目されている。元々は、デザイナーの感性と手法を用いて、ユーザのニーズと技術的な可能性を結びつけ、持続可能なビジネスが実現できるような戦略を構想する方法を指す。そこから発展して、医療、社会福祉、犯罪防止、教育、環境問題など、多数のステークホルダーが関与する複雑な社会問題に関して、ステークホルダーの積極的な参加と協調を促し、人間中心の解決策を導く方法として用いられている。デンマークなど、福祉への関心が高い北欧諸国がデザイン思考で先行していると言われる。

 デザイン思考では、知識よりも考える力が重視される。参加者のオープンな対話を通じて解を共創する。こうしたデザイン思考のアプローチは、学校教育にも取り入れられている。ところが、デザイン思考を採用した学校の生徒は、話を論理的にまとめることができない、相手の意見を理解せず自分の言いたいことを押し通す、といった傾向があることも指摘されている(この点については、『小さくても強い国のイノベーション力(『一橋ビジネスレビュー』2014年WIN.62巻3号)』を参照)。人工知能に頼りすぎて知識を放棄した人間の末路が垣間見えるような気がする。

一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力一橋ビジネスレビュー 2014年WIN.62巻3号: 特集:小さくても強い国のイノベーション力
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2014-12-12

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 (2)
 機械学習とは、一口で言えば「データを活用することで賢くなるアルゴリズム」のことである。人工知能研究の一部として生まれたものだ。従来は規則を書き並べる方法が取られていたが、規則の網羅や管理が難しい点などから限界を迎える。代わって、機械学習ではデータから機能的に規則を獲得する。
 アメリカ企業と日本企業の戦略の違いについては本ブログでも何度か書いたが、簡単にまとめると次の通りである。アメリカ企業は、トップがリーダーシップを発揮してイノベーションを起こす。イノベーションとは、市場にまだ存在しない製品・サービスを創造することである。通常の市場調査では顧客のニーズを捕まえることができない。そこで、リーダー自身を最初の顧客に見立てて、「自分だったらこういう製品・サービスがほしい」と思うものを形にする。そして、世界の人たちも自分と同じようにそれをほしがるに違いないと強く信じて、世界中に事業を展開させる。

 ここでリーダーは、イノベーションを世界中に普及させるという明確な目標を立てる。その上で、目標の達成に向けた戦略を立案する。アメリカ企業は、未来⇒現在という具合に、バックキャスティング的に発想する。加えて、戦略はシンプルにしなければならない。別の言い方をすれば、戦略と目標の因果関係がシンプルでなければならない。アメリカ企業がKPI(重要業績指標)、CSF(最重要成功要因)のように、目標に大きく影響する要因を重視するのはそのためである(こういう傾向はアメリカの教育現場にも見られることは、以前の記事「『叙述のスタイルと歴史教育―教授法と教科書の国際比較』―whyを問うアメリカ人、howを問う日本人」でも書いた)。

 アメリカ企業は基本的に自前主義が強い。日本の自動車産業が重層的な系列構造であるのに比べると、アメリカの自動車メーカーは内製化率が高い。だから、日本の自動車産業が進出したタイでは部品メーカーなどの裾野産業が育っているのに対し、アメリカの自動車メーカーが進出したメキシコは裾野産業が脆弱である。IT業界に目を向けると、かつてのIBMは自前主義の塊であった。あらゆるハード/ソフトウェアが自社開発であり、NIH症候群にかかっていた。ルイス・ガースナーがCEOになってからようやく、他のIT企業と連携したソリューションの提供が始まった。

 90年代には、様々な業界でアンバンドリングが起きたと言われる。これは、産業のバリューチェーンが分解され、各分野に特化した専門的な企業が出現したことを指す。OSに特化したマイクロソフトはその代表である。だが、逆に言うと、アメリカの業界は長らく垂直方向に統合されていたことを意味する。2000年代に入ると、オープン・イノベーションがIT以外の業界にも広まった。P&Gのコネクト・アンド・ディベロップメントが有名である。しかし、これも裏を返せば、それまでのアメリカ企業は、他社と組んで新製品を開発するという意識が希薄であったことを表している。

 日本企業はイノベーションよりもマーケティングの方が得意である。マーケティングとは、市場のニーズを丁寧に広い、製品・サービスに着実に反映させていく活動である。アメリカ企業はリーダーが考案したイノベーションについて、「この製品・サービスは絶対に世界に受け入れられる」と自信満々である。一方の日本企業は、常に潜在的な不安を抱えている。「この製品・サービスで本当に顧客は満足してくれるのだろうか?」と、顧客の顔色をうかがっている。

 アメリカのイノベーターは、製品・サービスを全世界に広めるために、世界中の人々のニーズを単一的にとらえ、デザインを洗練させ、不要な機能をそぎ落として、万人受けを狙う。これに対し、市場にはありとあらゆる顧客がいると考える日本企業は、様々なタイプの顧客と関係を構築し、多様な製品・サービスを用意する。そうしなければ、市場のことを本当に理解したとは言えないと強く信じているからだ。アメリカ企業は容易に事業の選択と集中を行うことができるのに、日本企業がいつまでも総合戦略を抜け出せないのはこのためである。

 アメリカ企業と日本企業では、時間の流れも異なる。アメリカ企業は、「この製品・サービスを世界中に普及させよう」とする未来の目標から発想する。つまり、未来⇒現在という順番である。そして、現在と未来の間に明確な因果関係を想定し、前述のようにCSFやKPIに意識を集中させる。破壊的イノベーションで知られるクレイトン・クリステンセンは、インテルCEOのアンドリュー・グローブに自身の戦略論を講義した際、グローブは「結局、我が社が儲かるには何が必要なのか?」と詰問されたというエピソードを語ったことがある。

 他方の日本企業は、明確な未来をデザインしない。「今の製品・サービスよりももっといいものができるのではないか?」と改善に励む。だから、時間の流れとしては現在⇒未来となる。しかも、日本企業が考える現在と未来の間には、明確な因果関係がない。仏教国である日本には因果という言葉もあるが、同時に縁という言葉もある。縁とは、因果関係に影響を及ぼす不定の力のことである。日本人には、「こうすれば絶対に上手くいく」という確信はない。「こういう場合はこうすればきっと上手くいくのではないか?」と期待するのみである。現状より少し前進するための行いを善と呼ぶ。日本人は、際限ない善行の積み重ねが望ましい結果を招来すると信じる。

 日本企業は自動車の系列構造に代表されるように、垂直面で多重構造となっている。また、流通も多段階構造になっているのが日本の特徴である。なぜ日本の産業がそのようになっているのか理由ははっきりとしないが、ここでもやはり日本企業の不安症が影響しているのではないかと考えられる。つまり、自社で全部作ると、自社が全ての責任を背負い込まなければならない。それでは荷が重いので、企業間でリスクを分散させようというわけだ。

 日本企業は、水平方向にも積極的に連携する。アメリカ企業がオープン・イノベーションなどと言い出す前から、業界内でコラボレーションが行われていた。時には競合他社と手を組むこともあった。それを支えているのが、業界団体という日本特有の存在である。日本企業は、明確な目標を立てず、垂直・水平方向に他の企業とつながりながら経営を行う。こういう経営は、アメリカから見れば非効率でスピードが遅い。ところが、アメリカ企業の経営にも、イノベーションが失敗した時の損害が大きすぎるという問題がある。日本企業は、大きく儲けることはできないものの、市場に密着し、他の企業と手を取り合って、環境変化に柔軟に対応できるという利点がある。

 前置きがかなり長くなってしまったが、アメリカが躍起になって開発を進めている人工知能は、日本企業の強みを侵食する可能性がある。引用文にあるように、かつての人工知能はルールをあらかじめ機械に覚えさせる必要があった。ところが、現実はルール通りに動くとは限らない。例外に対処できないのがかつての人工知能の弱点であった。しかし、現在の人工知能は、大量の情報をインプットすれば、帰納的にルールを学習することができる。将来のことは解らないので、現在の情報から将来をある程度の確率で推論すればよいと割り切っている。

 これは、将来⇒現在という時間の流れが、現在⇒将来と逆転することを意味する。加えて、「こういう場合はこうすればよいのではないか?」というパターンを機械が自力で発見することでもある。しかも、人工知能が垂直・水平方向に他の組織と連携して多様なデータを取得するほど、精度が上がる。日本企業が複雑な事業環境に対応してきた知恵を、人工知能がものにする可能性があるわけだ。人工知能の発達によって、グーグルが自動運転車を開発し、日本の自動車業界を下請化すると言われている。だが、人工知能にはもっと恐ろしい脅威が備わっている。

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